第二話:初めての迷宮攻略
ダンジョン一階層。
目の前にはどこまでも広がる平原が四方へ広がっている。
地下とは思えないほど明るく、二階層までのあぜ道が続いている。
昼下がりの時間帯という、冒険者たちが一番活動する時間帯だったが辺りには僕たち三人以外は誰もいない。
というのも当たり前で、他の冒険者たちはもっと下層まで潜っているのだ。
基本的に上層にいるのは駆け出し冒険者だけになるので、上層が賑わっているのは問題である。
今日はパーティとしては初めて潜ったのだが、練習も兼ねて基本的に戦うのは僕だけだ。
護衛の二人には後ろで見守ってもらっている。
二人に頼って攻略すると、下層に行った時に常に守って貰わないと行けなくなるからだ。
とは言っても、上層にいるモンスターはへなちょこな僕でも単体相手ならそう負けることはない。
まず現れたのはゴブリンだ。
あの緑色の、気色悪いゴブリン。
強さも人間の子供と大差はない。
僕は鞘から剣を抜き、両手で構える。
僕が強く握りしめるこの剣は正確にはダガーというらしい。
刃渡りは40cmほどで、子供の僕でも持てる重さだ。
教わった剣術では本来はもっと長い得物を使っていたのだが、迷宮では狭い通路などもあり、あまり向いていないのだ。
だが習慣というのは恐ろしいもので、ついついいつものくせで両手で構えてしまっている。
やはり緊張しているのだろう。
柄を強く握りしめ、顔を汗がつたっている。
バクバクと、うるさく鳴っている心臓を落ち着かせるために深呼吸。
すぅ、っと息を吸い込みゴブリンに向かって駆け出した。
相手は腰に付けていた刃渡り10cm程のナイフをサッと取り、迎え撃たんと黄色い目をギョロギョロとさせている。
僕は構わずゴブリンの肩に向かって、大きく振り下ろした。
『ギャッ!』
ゴブリンは力が弱かったので受け流せなかったようだ。
振り下ろした刃先が肩から腰にかけて、斜めに斬り裂く。
ゴブリンは傷口から血飛沫をあげ、膝から崩れ落ちドサリと倒れた。
「ふぅ~、緊張した…。」
うつ伏せで動かないゴブリンを横目に、思わず座り込んでしまった。
初めての狩りだったが、何とかなってよかった。
無傷で倒せたのだし上出来だろう、そう思い思わずにやけてしまう。
「皇子、油断するのはよくありませんよ。ここは何が起こるか分からない迷宮ですから。」
ノエインに咎められてしまった。
僕は初めての狩りだったんだよ?
第一、僕は主人なのに…。
僕は思わずノエインをジトッと睨む。
イオスは何も言わず水の入った水筒を手渡して来た。
ありがたく受け取り、喉へ一気に流し込む。
たった一戦、それもゴブリン相手だったが美味しく感じるぐらいには喉が乾いていた。
水を飲み終え、イオスに水筒を手渡し休憩する。
すると、女性のことはよく分からないが香水だろうか、甘酸っぱい香りが漂ってきて迷宮にいることを忘れてしまう。
そして初めての冒険なのにチクチクしてきたノエインは僕たちを無視してゴブリンの喉元に、持っていたナイフを突き立てた。
ゴブリンの腕がビクンっと跳ね、ピクピクと痙攣したあと、動かなくなる。
「コイツら、死んだフリするので気をつけてください?一人なら死ぬところですよ。」
どうやらゴブリンはまだ生きていたみたいだ。
ノエインの指摘は間違っていなかった、むしろ僕を導いていてくれたのだと理解させられる。
勝手に一人で迷宮に潜り、怯えていた僕はどこへ行ったのだろう。
あんな目にあったというのにすっかり油断していたようだ。
ノエインは突き立てたナイフを引き抜き、僕に手渡す。
「【魔石】を取り出しますよ、やってみましょう。」
舌から口を出し、無残に息絶えたゴブリンに少し心が痛む。
僕は罪悪感を無くすために頭を振る。
そしてナイフを構え、一息で胸の奥深くまで突き立てる。
そして腹側にグッと引くと中身があらわになった。
すると、心臓の近くに紫色に輝く小さな欠片を抉りとった。
「これが…【魔石】。」
魔石は魔力がこもった結晶で、魔力を扱う動物ならみんな持っているらしい。
この魔石にこもる魔力は取り出して使うことができ、僕らが生活するためには欠かせないものとなっている。
そして、ギルドに持ち込むと換金してくれるのだ。
魔石は加工することで街灯や、冷凍庫等に使って生活を豊かにしてくれる。
僕が今取り出した魔石は1cmもあるかどうかといったサイズだが、下層のモンスターとなると握り拳程の大きさをもつモンスターも大勢いるらしい。
魔石のサイズが大きいと当然ながら換金額も跳ね上がり、 稼ぎが増えるらしい。
とは言っても下層のモンスターたちは当然強くなり、倒せても帰り道で力尽きる冒険者たちも多いとか…。
まぁ、僕が下層に辿り着くにはどれほどかかるかわからないが。
そんなことを思いつつ、魔石を革で出来た袋に入れる。
この袋は魔法の力で無限に入る…なんてことはなく、ただの袋だ。
魔法袋が欲しいなぁ、なんて思いつつ魔石の入った袋をバックパックに仕舞い込む。
このバックパックも当然普通のもの。
中には水分や食糧、予備の武器なども入っており僕には重い。
だが、これも冒険者にとっては普通なので仕方ないことだ。
魔法袋は高いので、一部の冒険者しか持てないのだ。
当然駆け出しの僕がそんなお金を持っているはずもなく…。
だが、これも冒険の一部なのだ。
そう思い、バックパックを背負い歩き出す。
そんな僕が冒険している迷宮だが、不思議に満ちている。
僕が良くしてもらっていた大臣はエルフなのだが、彼と同じくらいの時をこの迷宮は生きているらしい。
他にも迷宮自体はあるのだが、これほど長い時を掛けても攻略されていないのはここだけらしい。
最下層には金銀財宝があるとか、魔界に繋がっているとか人々は色々と推察して楽しんでいる。
「最下層にはこの世界の秘密があるかもしれませんねぇ…。」
大臣は何か知っているようだったが、それ以上は教えてくれなかった。
ケチ。と最初こそ思ったが、冒険者ならば自分の目で確かめるべきだとも思った。
そもそも、この迷宮自体もよく分かっていない。
研究者たちが日々勤しんでいるものの、解明は全くと言っていいほど進んでいないのだ。
まず迷宮は傷ついたら自動的に修復される。
そしてモンスター、あいつらはこの迷宮産まれ。
どうして勝手に修復されるのか、モンスターはどこから来るのか、全くわかっていない。
だが、モンスターが尽きないからこそ冒険者になる者も絶えないのだ。
それに、誰も踏破したことのない迷宮の謎、それを自分が解き明かしたら?
楽しいに決まっている。
それに謎を解き明かしたら富と名声だけでなく、歴史に名を刻むこと間違いない。
もし僕が踏破したら…と考えると思わずにやけてしまう。
だが、先程咎められたことを思い出す。
危険の多い場所で妄想なんてするもんじゃない、そう思いモンスターの警戒に戻るのだった。
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