第一話:物語の始まり
「まさか勝手に迷宮に潜っていたとは…。」
「すいませんでした…。」
僕の専属護衛騎士、イオスはやれやれといった感じで頭を悩ませていた。
燃えるような紅い瞳。
腰まで伸びた青紫色の髪は輝きを放っている。
そして真っ白な鎧に包まれた、見るもの全ての目を引く美しいその容姿は戦場の女神のようだ。
そんな誰もが認めるような容姿を持つ彼女は親しみやすく、老若男女問わず好かれている。
多くの冒険者たちが迷宮に潜っている昼下がり、彼女は主人の暴走に何も言えなかった。
(私たちを振り切って勝手に潜るほど憧れていたとは…)
ほんの少し前のことだった。
迷宮に潜るための手続きを終えると、主人──第四皇子が行方をくらませていたのだ。
手続きの間も待てないほど楽しみにしていたのだろう、そう思い迷宮に行ってみると冒険者パーティに囲まれ、うなだれる主人の姿が視界に入ってきた。
──────────
「次からは一緒に潜ること、いいですね?」
「冒険を前に興奮を抑えきれなくて…すみません。」
僕はイオスの言葉に、ただ謝ることしか出来なかった。
ここは冒険者ギルド本部のロビー。
僕とイオスはお互い椅子に座り、テーブルを挟んで向かい合っている。
イオスは僕に見せつけるように溜め息をついた。
「ろくな装備もつけないまま迷宮のモンスターたちとやり合うつもりだったなんて、モンスターたちを甘く見すぎだよ。」
何も言い返せなかった。
実際問題、通りがかりの冒険者たちに助けて貰わなかったら間違いなく死んでいた。
今思い出すだけでも背筋が凍る。
「冒険者は成り立てが一番危ないからな、気をつけろよ。」
ザラザラした手で僕の頭を撫でてくるのはもう一人の専属護衛騎士、ノエインだ。
いつも僕のことを撫でてくるが、ショート気味とはいえ髪型が崩れるのでやめて欲しい。
彼の右手には僕の装備であろう、駆け出し冒険者が使うには少し高そうな剣と革鎧を抱えている。
「ちょっと、ノエインからも叱ってくれない?第四皇子が勝手に迷宮に勝手に潜ってたのよ?」
「…俺も勝手に一人で潜ってたから何も言えねぇなぁ。」
そういいつつ、ノエインは僕に装備を手渡して僕に身につけるように催促する。イオスはまだなにか言いたげだが諦めたようだ。
僕が立ち上がって装備を身に着けると迷宮に潜ろうとノイエンが提案する。
僕はもちろん賛成だが、イオスも特に反対はしないようだ。
僕たち三人はギルド本部を出て、迷宮に向かって歩く。
何はともあれ、僕の冒険譚がこれから始まるのだと思うと、胸の高鳴りが止まることを知らなかった。
──────────
迷宮都市テオ。
【ダンジョン】などと呼ばれている地下迷宮を中心に栄えている巨大都市。
そんな地下迷宮に挑む冒険者たちを管理する【ギルド】を中心にして回っているこの都市はあらゆる種族たちが過ごしている。
僕たち冒険者と呼ばれる人たちは迷宮に潜り、そこから得た収入で日々暮らしている。
僕はテオから遠く離れた宮殿で大切に育てられていた。
だが、頭も悪く、英雄たちに憧れ冒険者を目指した僕は兄たちにとって後継者争いで邪魔でしか無かったのだろう。
皇帝たる父との間を大臣が何とか取り持ってくれて、僕は宮殿を出ることになった。
二人の専属護衛騎士たちは元々冒険者でもあったため、僕についてきてくれることになった。
宮殿を出た時、物心ついた時から好きだった英雄たちについになれると歓喜した。
モンスターたちを退治し、人々を救う、そんなかっこいい英雄譚を読んで自分もなりたいと、本気で夢を抱いていた。
歳を重ねていくにつれ、英雄になんてなれないと普通は思うのだろう。
だが、宮殿での窮屈で代わり映えのない生活とノエインが語ってくれた冒険譚が僕の支えになり、今に続く夢となった。
第四皇子の僕には皇帝を継げるわけがないからだ。
父のような立派な為政者にも憧れた。
だが、僕にその椅子は回ってこないのだ。
そして何より、あんな窮屈な生活には戻りたくない、僕は英雄になるんだ!
ただその一心でダンジョンのあるこのテオにまでやってきたのだ。
来た時は楽観的もいい所だったけど、死の淵に立った今になってくると、なんて馬鹿なんだろうと思えてくる。
窮屈だろうと命の保障と安定を捨て、英雄になるなどと甘い気持ちで冒険者になる馬鹿は僕くらいのものだろう。
まぁ、富と名声、そして力を求める人々と僕はなんら変わらない。
冒険者として、日々生きていくことさえ簡単なことではないと今日わかった。
英雄になるだなんて夢が、そんな簡単に行くはずは無い。
そんな簡単になれるのなら、みんなとっくになれているに決まっている。
簡単になれないから、憧れるのが英雄なのだ。
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