プロローグ:夢見る皇子
富と名声を求めて飛び込む数多の冒険者とそれらを殲滅せんとする凶悪なモンスターたちが襲いかかる迷宮。
常に傍にあり、頼りになる武器を携え、数え切れない程のモンスターたちを蹴散らし、多くの人々から称賛の嵐を浴びる。
そんな英雄譚に憧れる子供たち…。
誰もが一度は憧れたことがあるだろう…そんな英雄に自分もなるのだと。
誰もが自分を特別だと思いたくなることはあるだろう?
僕もそんなうちの一人だ。
そして今、死にかけている。
『アオーーーーーーーーーン』
「やばいやばいやばいやばい!!」
憧れだけで行動し、冒険者になった僕は今狼のモンスター【火狼】に追いかけられている。
まだ冒険者になったばかりの僕の攻撃ではダメージを与えるどころか、瞬殺されるような相手だ。
なんの準備もせずに入っていいような場所じゃなかった。
低級モンスターなんて一人でも倒せると高を括っていた。
甘かった。
迷宮で死ぬのは驕った連中だけだと思っていた。
自分はいきなり活躍出来ると、特別だと思っていた。
現実は違った。
僕は、仲間がいなければ生きて帰ることすら出来なかったのだ。
迷宮の中を、そんなことを考えながら走っていると道の窪みに気付かずごろごろと転がってしまった。
なんと無様な姿だろう…僕が憧れた冒険者はこんなこと有り得ない!
あちこち擦りむき、痛む身体を起こすと火狼たちに囲まれていた。
(…あぁ、こんな呆気なく死ぬのか。昨日の僕は一発逆転なんてなぜ考えたんだ!!)
馬鹿なことを考えた昨日の自分を殴ってやりたい。
だが、そんなことは出来ない。
追い詰められた子羊のようにカタカタと小刻みに震える僕は生きたまま餌になるのだから。
ボロボロと大粒の涙が頬を伝っていることが自分でもわかる。
そんな後悔のなか、火狼たちが飛びかかって襲ってくる。
せめてもの抵抗として腰のナイフを抜いたその瞬間、火狼たちは空中で止まった。
いや、正確には空中で浮いてはいるものの僕を噛みちぎらんと必死に体を動かしている。
「…大丈夫ですか?」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこには二人いた。
一人は魔法戦士とでも言うべきか、小さなステッキを腰に差し片手剣を肩に当てている緑髪の女性。
翼のエンブレムが入った銀の胸当てと、グレーの腰当てに幾つものポーションを差し込んでいるようだ。
もう一人は帽子と服の胸部分に十字のマークが入った女性。右手には同じように翼のエンブレムが入っている。
おそらく僧侶だろう。
大きな杖を右手に持ちながら座り込み、黄色い瞳でこちらを覗き込んでいる。
声をかけてきたのはこちらの女性のようだ。
この迷宮に来る前に見たことがある。
翼のエンブレムを持つパーティは一つだけ。
【大いなる翼】
この迷宮にいる数少ないSランクパーティの一つだ。
なぜこんなところにいるのか?
なぜ助けに来てくれたのか?
色々な考えが思いついては消える。
そんななか、魔法戦士の女性が空中に浮いていた火狼を一振りで殲滅する。
あまりの光景に僕は目を奪われた。
「あの…返事出来ますか?大丈夫ですか?」
ちょっとそれどころじゃないです。
僕が憧れ続けた、冒険者を目の前にして冷静にしていられない。
先程までの後悔し続けた僕はどこへ行ったのか、直前まで命の危機だったというのにすっかり忘れ、目に焼きつける。
これが…Sランクパーティ。
Sランク冒険者たち…。
僕が目指す、富と名声を手に入れたものたちだ。
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