第十話:君の力になりたい-5
僕たちは酷い乱戦の中を切り抜けて迷宮の入口に向かって行く。
今の惨状は迷宮からモンスターを閉じ込めるための蓋が無くなったことが原因だ。
なぜ僕が見たこともないような下層のモンスターがここまで這い出て来ている理由…。
話に聞いたことがあった。
【スタンピード】
いわゆるモンスターたちの暴走だ。
理由は不明だが、下層のモンスターたちがここまで一直線にあがってきたのだろう。
そして…ここまで被害が広がっているのは上層にいたはずの冒険者たちからも警告がなかったということ。
それが意味するのは…。
僕は走りながら思考を巡らせ、最悪の想定に辿り着いてしまった。
思わず叫んでしまうほどに冷静さを欠こうとしていたが、グッと気持ちを胸の奥深くに押し込め鍵をかける。
感傷に浸っている暇はない。
今の僕に出来ることをしなければ!
迷宮に向かう道中で戦っている冒険者たちを少し手助けするぐらいしか出来なかったが、彼らも呑んだくれとはいえ冒険者。
モンスターに出来た一瞬の隙をついて撃破していく。
中心部に辿り着いた僕たちを待っていたのは、つい先程までの賑やかな雰囲気から一転し辺り一帯に広がる凄惨な光景だった。
かつて押さえとして機能していた建物は燃え盛り、辺りには人とモンスターがあちこちに倒れている。
そして今もなお、あちこちから悲鳴が聞こえる。
だが…モンスターは粗方出たのか建物からは来る気配がない。
僕は危険を承知で建物の中に飛び込む。
美しい神殿風の建物は廃墟となりつつあり、いつ倒壊してもおかしくない。
「こりゃひでぇ…。」
「くっ…僕たちは迷宮の中にいるモンスターたちを駆逐していこう、まだ中に残された冒険者たちがいるはずだ。
地上のモンスターたちはノクスたち衛兵団に任せよう。」
「わ…私も頑張ります!」
ノエインが酷いというのは相当な被害を受けていることだろう。
僕より多くの死線を越えて来た彼が言うのだから間違いない。
おそらくこの下に待ち構えているであろうモンスターたちは今地上にいるモンスター立ち寄りおそらく強いだろう。
だが…ここで退く選択肢などあるわけが無い。
僕は手に剣をギュッと握りしめながら迷宮に飛び込む。
それに続くように三人も迷宮に飛び込むのだった。
──────────
予想通りと言うべきだろうか…上層の草原には冒険者たちがあちこちで倒れていた。
だが…僕たちは何もしてやることができない。
助けを求める声が聞こえてきたが、頭を振り何とか走り続ける。
足を止めてしまったら…彼らを見捨てることは出来ないだろうから。
少し走ると、こちらに背を向けて蜥蜴人やミミズが見える。
どうやらこちらに気づいていないようだ。
パーティーだったこともあり、抑えていた速度を僕は全開にして地面を疾走する。
ノエインはそんな僕に合わせて左から仕掛けるようだ。
イオスはというと…後方から槍を投擲したようだ。
イオスから放たれた槍は僕の頬を掠めてモンスターたちに向かう。
音より早い槍は、僕より何倍も大きい何匹ものミミズを串刺しにした。
串刺しにされたミミズたちは何とか逃げ出そうとするが、壁に突き刺さった槍が抜けないのか甲高い悲鳴をあげるばかり。
そんな仲間の様子に異変を感じたのだろうか…そこで初めて、モンスターたちは僕らの方を向く。
だが遅い。
モンスターたちがこちらを向く頃には既に懐に入り込んでいた。
手前にいた蜥蜴人は僕の攻撃を防ごうと、左手につけられた木盾を突き出しつつ右手には身長程もある槍を握りしめカウンターの構えを見せる。
だが…もちろんそんなことはさせない。
振り下ろした剣は蜥蜴人の左手ごと彼を真っ二つに斬り捨てる。
傷口からは吹き出す血の中で、真っ二つに割れた魔石が紫色の光を放ちながら周囲に砕け散る。
『……ッ!』
なにか言おうとしたようだか聞こえない程の断末魔と共に蜥蜴人の身体が灰のようになり消えていく。
だが…もちろんコイツだけで終わりでは無い。
周囲のモンスターたちが一斉に襲いかかってくる。
僕は返す刀でノコノコと寄ってきた蜥蜴人を横一閃に薙ぎ払う。
蜥蜴人の装備はかなりいいようで、前のダガーならば攻撃が通らなかったかもしれない。
だが…今の僕にはコイツがいる。
この剣はまるで豆腐でも斬るかのように次々とモンスターたちを倒していった。
どうやら…僕はとんでもない武器を手に入れてしまったらしい。
あまりの切れ味に感心していると、地中から襲ってくるワームに気づくのが遅れた。
ワームは僕を丸飲みにしようと大きな口を開け僕に襲いかかる。
僕も何とか抵抗しようとしたが、ワームの強靭な刃に弾かれてしまった。
そして、為す術なく僕は丸飲みにされてしまう。
ワームの中は意外にも広く、人一人なら余裕のようだ。
だが…僕だって黙ってはいない。
ワームの唾液でベトベトする中、必死に剣を振るう。
もちろん、ワームの食道が剥き出しなので剣はスっとなんの抵抗もなく斬ることが出来た。
『ギェーーーー』
ワームは悲鳴をあげるが、もちろん手を止めることはない。
渾身の一振りはワームの体内どころか体外まで貫いたようだ。
僕はのたうち回るワームから何とか這い出すとそのままワームの首を切り落とす。
いくら強いといえど、所詮はミミズ。
内側からの攻撃に耐えられる生物など存在するはずもなく…ワームはまもなく力尽きた。
ワームの返り血と唾液でベトベトになりながらも体内から出てくると、残りはノエインとイオスが片付けてくれていた。
どうやら今は、襲われていた冒険者たちの手当てをしているようだ。
さすがの強さだと感心していると、汚れきった僕の身体がみるみる綺麗になっていく。
どうやらノエインが魔法で綺麗にしてくれたようだ。
ベトベトで気持ち悪かったのでとてもありがたい。
剣を鞘に仕舞っていると、ファロスが駆け寄って来るのが見えた。
「大丈夫でしたか?ワームに呑み込まれて心配したんですよ?」
「それは…ごめん。」
「次からは気をつけてくださいね?」
ファロスから注意を受けてしまう。
だが、彼女の言うことは何一つ間違っていない。
油断もあったし…何より、助けに来ている僕たちがやられるなんてあってはいけないことだ。
頬を膨らめて怒るファロスに申し訳なさを感じつつ、僕たちは再び下層に向かって走り出した。




