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第九話:二十層へ-1

しばらくして…ファロスが泣き止むとそっと僕から離れる。

ようやく気持ちの整理が出来たのだろう。


瞼はまだ赤く腫れ上がったままだったが、彼女の目はまっすぐ前を見ている。


僕はもう大丈夫、そう思い迷宮(ダンジョン)攻略を再開する。


ここはまだ十階層、目標は二十階層なので道のりはまだ半分だ。


再び下層に向かって歩き出すと、待っていましたとばかりに大量の蜘蛛たちが襲いかかってくる。

僕は前からも、横からも雨のように降り注ぐモンスターの同時攻撃を凌いでいた。


攻撃を捌いたと思えば、視界の外側から次の攻撃が来ており、僕の体を掠めていく。


だが、こんなことところで負けられない。

一匹一匹、確実に始末していった。


すると揺らめく視界の一端で、僕と蜘蛛の血が舞っているのが見える。


(何とか捌き切れるか?)


少し焦りを感じると同時に、明らかに自身のレベルが上がっていることを感じた。

大量の汗を流しながらも、何とか捌けている。


以前の僕ならば出来なかったことだろう。


ならば何故!僕は十階層のモンスターたちを相手に渡り合えているのか。

未だに致命傷を受けていないのか?


考えてみれば圧倒的におかしい。


僕は迷宮(ダンジョン)に潜り始めて、まだ一週間も経っていないのだ。

いくらパーティーを組んでいるとはいえ、新人がこの階層で生き残れるはずがない。


ましてや、今こうして考えている余裕があるわけがないのだ。

全身を覆い尽くすような勢いで頭から思考で埋め尽くされていく中、全身が熱を帯びたような気がする。


「ぐぅっっ!!」


突如として貫かれた痛みで、僕は我に返る。

余計な思考をしていた間に、視覚外からのモンスターの攻撃が左足を直撃していた。


なんとか引き剥がそうと、左手を振り下ろし身につけた盾で殴りつける。

だが、その隙を他のモンスターたちが見逃すはずがなかった。


襲ってきた蜘蛛の攻撃を咄嗟に防ごうとするが、右手のダガーが弾かれた。


僕のたった一つの武器が、地面の上を転がってモンスターの方へ引き寄せられる。


僕は武器を取り戻そうと駆け出すが一匹の蜘蛛が進路を塞ぎに来る。

僕は右足で地面を蹴り、空を舞うと蜘蛛を土台にしようと左足で踏みつける。


だが、左足に激痛が走る。

どうやら、先程受けた傷が痛むようだ。


僕は慌ててバランスを取ろうとしたが、片足だけで取れるはずもない。

だが、何とか転がりながらも再びダガーを回収し攻撃に備えるために体を起こす。


そのとき、蜘蛛の攻撃がゆっくりと迫ってくるのが目に飛び込んでくる。

僕は右手を撃ち出し、蜘蛛の足ごと粉砕しようと突っ込んだ。


蜘蛛の長い足が迫り来るも、ダガーに弾かれ僕の左肩に突き刺さる。

激しい痛みが傷口から広がっていくが、それでも負けずに僕はダガーを蜘蛛の頭目掛けて突き出す。


渾身の一撃は蜘蛛の頭を貫き、ドロドロと謎の液体が溢れ出す。

互いの攻撃が突き刺さったまま、僕も蜘蛛も地面に倒れ込む。


だが、僕はまだ倒れる訳にはいかない!


「グッッ!」


次の瞬間、蜘蛛の体液が染み渡る迷宮(ダンジョン)の床から体を仰け反らせるように飛び起き、仲間の惨状を見て後ずさりする残った蜘蛛に向かって光の速さの如く肉薄する。


一匹たりとも逃すものか!


辺りに散らばったモンスターの間を駆け抜け、残ったモンスターたちの懐に飛び込む。


蜘蛛たちは何とか防ごうとしたが、僕の方が一歩早かった。

横に一直線に振り上げられた斬撃が蜘蛛の腹を斬り裂く。


傷口からは血が吹き出し、魔石が紫色に儚くも光っているのが見えた。


残っていた全ての敵が崩れ落ち、動かなくなったことを見届けた僕は天井を仰ぐ。

緊張の糸が切れ、疲労がどっと押し寄せた。


「はぁ…はぁ…っ!」


安心しきってのことだろう、息が上手くできなかった。

迷宮(ダンジョン)の廊下で大の字になって倒れながら、バクバクと激しく鳴る鼓動の音がうるさく聞こえる。


あまりの疲労に瞼が開けられない。

なんとかして開けると、ファロスが視界に入ってきた。


彼女は僕のそばに座り、回復魔法(ヒール)をかけてくれる。

満身創痍だった体が、少しずつ楽になっていく。


程なくして、僕の体はまるで何事も無かったかのように動かせた。

ゆっくり体を起こし、確認すると体のあちこちから流れていた血は完全に止まり、切り裂かれた服の隙間から覗かせる傷口はまるでなかったかのように綺麗に治っている。


「ありがとう…助かったよ。」

「いえ…私にはこれぐらいしか出来ませんから。」

「そんなこと言わないで、もっと誇ることだよ?」

「…はい、ありがとうございます。」


小さく笑う彼女を見て、僕は目を逸らす。

彼女を守れて良かった…それと同時にもう一つの思いが湧き上がってくる。


可愛い…そう思ってしまった。


だが、そんなことを口に出すわけにもいかない。

僕は顔に出ていた気がして、誤魔化そうと立ち上がる。


戦闘を終えたノエインとイオスも向かってくるのが見えて、歩きだそうとするが上手く歩けない。


どうやら、左足に受けた一撃がまだ響いているようだ。

ガクリと左膝を地面に着きながら体が崩れるのが分かる。


それを見て、ノエインは慌てて魔法袋(マジックバック)からポーションを取り出し僕に飲むように差し出す。


僕はグビっと一気に飲み干すと体が動くか確認する。

どうやら、もう大丈夫なようだ。


その場で駆け足をしても、何事もなく全身が動く。


「ありがとう、ノエイン。」

「いえ…それより二十層まで行くつもりですが、大丈夫ですか?」

「あぁ…僕には幸運の女神がついているからね。」

「それって…。」


もちろん、ファロスのことだ。

三人はすぐにわかったようでノエインはニヤつきながら僕を見てくる。


ファロスはというと、頬を赤らめているようだ。

イオスはと言うと…。


「ねぇ、私は?私には何かないの?」


あぁ…まずい、これは非常にまずい。

どうしたものかと思っているとファロスが助けてくれた。


「お姉様の存在はパーティーに欠かせないと思います。」

「そ…そうだよ、いつも僕のことを何も言わずに支えてくれたじゃないか。」


イオスは満足したのか、ニコッと笑顔を覗かせると鼻歌を歌いだす。


僕はファロスに感謝を伝えるも、彼女はなんて事ないと謙遜する。

だが…驕りを抱かないからこそ今の関係があるのだ。


そんなこんなあったが、僕は何とか切り替えると再び下層に向かって歩き出した。


二十層までの道のりはそれほど辛くはなかった。

本来、冒険者は各階層を隅々まで探索して宝物から装備だったり…アイテムだったりを見つけるのだが今の僕たちはそれをしていない。


とにかく、下へ下へと歩いているからだろう。

この階層のモンスターたちは基本的に待ち伏せだったこともあり道中はあまり苦労することはなく順調に攻略を進めていく。


たまにナワバリに入って蜘蛛が襲ってきたり、音に反応してか通路から吸血蝙蝠が襲ってきたが全て返り討ちにした。


特に、通路から出てきた蝙蝠に対してはファロスが大活躍だった。

通路に向かって光線を放ち次々に撃ち落としていったのだ。


あまりに強力だったのか、光線の当たった壁は削り取られていた。


そんなことあったが…。

ついに僕たちは二十層への階段前に辿り着いたのだった。

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