第六話:少女の名は…
激動の一日を過ごした僕たちは宿のベッドにダイブする。
あまりにも色々とありすぎた。
昼は落とし穴のせいで階層を三つも落ちたし、落ちた先では成り行きで少女を助けることになったし。
夜は少女を突き落とした犯人たちを捕まえようとして返り討ちにされちゃった。
良くも悪くも判断が悪かった。
だが、冒険者仲間だからと信用し過ぎるのは危険だとわかったし周りをもっと頼ろうと思えるキッカケにもなった。
隣で帰ってくるや否や爆睡しているノエイン。
そんな彼だが、本当に頼りになる。
彼がいなければ僕は帰ってくることが出来なかっただろう。
僕にもっと力があれば…。
僕は…これからもやっていけるのか?
ふと、そんな不安に襲われた。
僕は、机に置かれたペンダントを握りしめる。
これは、僕の亡き母の形見とも言うべきペンダント。
これを持っていると、僕は幼き頃に亡くなった母を思い出し少し安心できる。
「…僕、やっていけるかな?」
思わずぽつりと不安を口にする。
そもそも、僕がここに来たのは強くなるためだ。
あの時の悲劇を繰り返さないためにも…。
だから、僕なりにある程度鍛えてから迷宮には来た。
だが、それでもいきなり死にかけた。
それも、何度も。
いつ死んでいてもおかしくなかった。
特に、見ず知らずの少女を助けたとき。
それでも、あの時の判断は間違ってなかったと僕は思う。
僕が目指すのは強きをくじき、弱きを助ける冒険者だ。
見捨ててノコノコ帰ってきても、僕は胸を張れなかっただろう。
それに、母と約束したのだ。
強くて、優しくて…。
今の僕はどうだろうか?
何も…守れていないんじゃないか?
情けなくて、涙が溢れそうになる。
だが、そんな僕をいつの間にか起きていたノエインが慰めてくれた。
「殿下、あなたはまだ十四歳。
これから強くなって立派な皇帝になればいいのです。
別に、遠回りしてもいいんですよ?」
その言葉に、なんとか堪えていた涙が溢れ出す。
僕は…強くなるなんて言いつつ逃げていた。
どうせ無理だって決めつけていた。
でも…もう迷わない。
僕は…僕は!
あの時の約束を果たすんだ!
そう決心すると、僕は涙を拭いノエインに話しかける。
「僕を…導いてくれるかい?」
「えぇ…もちろんです。」
僕はベッドから起き上がり、乱雑に置かれた装備に手を伸ばす。
装備を身に着け、軽食を食べたら迷宮に向かう。
そんな僕に、ノエインといつの間にか合流したイオスが黙ってついてきてくれる。
今の僕は、まるで溜め込んでいたものがまるで消えたように晴れやかな気持ちだ。
なんというか…吹っ切れた。
「行くぞ!目指すは迷宮踏破だ!」
僕は、拳を突き上げ覚悟を決めた。
そんな手を守る篭手には昨日の攻略で少し傷がついている。
だが、それはむしろ僕にとって誇るべきことだ。
名誉の負傷
煌びやかな装備より、ボロボロの装備でもいいじゃないか。
泥臭くても、抗った証だと僕は思う。
僕たちは冒険者。
僕らの明日は、誰にも分からない。
でも…傷ついても、僕らは潜り続ける。
名も無き勇者たちの魂を連れて、僕たちは攻略を目指すのだ。
──────────
迷宮から地上に戻ると、衛兵長が僕たちを仁王立ちで待っていた。
どうやら、昨日助けた少女が目を覚ましたらしい。
ノクスに連れられギルドの救護室に向かう。
救護室はそれほど広いわけではなかったこともあり、すぐに見つけられた。
夕陽に照らされ、真っ白な肌が赤くなった金髪の少女がベッドから体を起こし、青い瞳でこちらを見ていた。
まるで絵画のような…なんとも言えない美しさを感じる。
「大丈夫かい?」
「…えぇ、あなたは?」
「僕はクロウ、一応…君を助けたかな?」
僕一人で助けられた訳では無いし、なにより同年代の女の子と喋ることがあまりないこともあって照れくさい。
なにか話題はないものか…そう思っているとイオスが暴走し始めた。
「キャーーーー!!何この子可愛すぎぃー!」
「お…おいイオス、仮にも怪我人だぞ?」
イオスは少女に抱きつき、まるで妹かのように可愛がる。
ノエインは止めるかどうか迷っているみたい。
だが、早く止めてあげた方が良さそうだ。
すごく困惑しているみたい。
ただ見ているだけだったノエインとノクスが我を思い出すと、少女からイオスを何とか引き剥がし部屋から追い出す。
「ノクス、絶対に入れるなよ!?」
「もちろんです!」
「ねぇ!なんで追い出すのよ!!」
騒がしい三人を放っておいて、僕は少女に話しかける。
「君…名前は?」
「私はファロス……私…突き落とされて…」
どうやら突き落とされたことを覚えているらしい。
嫌なことを思い出させてしまった、そう思ったがどうやら大丈夫みたいだ。
「助けてくれてありがとう!」
そう言いながら、彼女は僕に抱きついてきた。
女の子と触れ合うことなんてなかった僕は、直立不動になってしまう。
でも、辛いことがなかったような無邪気な笑顔を振りまく彼女に思わず可愛いと思ってしまった。
ちょっとイオスの気持ちがわかった気がする。
…自制して欲しかったけど。
僕はファロスの隣に座り、色々と話した。
どうやら、ファロスは普段から回復師のいないパーティに飛び込んで迷宮に潜っていたらしい。
あの日もいつも通り回復師のいないパーティに飛び込み、突き落とされたらしい。
「その…怖くなかった?」
僕は思わず尋ねる。
僕ならば、背中を預けるパーティに見捨てられるなんてトラウマで動けなくなってしまうだろう。
だが、彼女はそんなふうに見えない。
そんな彼女を見て、思わず聞きたくなった。
その精神的な強さはどこから来るのだろうか?
だが、返ってきた答えは想像とは違った。
「すごく…怖かったわ。でも…」
「でも?」
「あなたが助けに来てくれた。
最初は、あなたに光る翼が生えているように見えたわ。
てっきり天使が迎えに来たと勘違いして『あぁ、私死んじゃったんだ』って思ったのよ?」
そうだったのか…僕は少し嬉しくなった。
面と向かってたこんなことを言われるなんて思っていなかったから。
でも…あの時、彼女を助けて本当に良かったと思えた。
あの時の自分を褒めていると彼女から提案をされた。
「良ければ…一緒に迷宮攻略させてもらえないかしら?
もちろん、嫌だったら断ってくれて構わない。」
「あ…えと…。」
彼女は僕の手を取り、握りしめながら提案する。
僕はしどろもどろしながら何とか答えようと頭を回転させる。
だが、女の子の手って柔らかいんだなぁ…とか良い匂いがするなぁ…なんて余計なことしか出てこない。
あまりに返事が遅すぎて、彼女は不安になったのだろうか?
泣きながら僕に問いかける。
「私じゃ…やっぱりダメ?」
「ダメじゃないです!よろしくお願いします!!」
僕は今までにないぐらい混乱しながら返答した。
そんな僕を見て、ファロスはクスッと笑う。
そんな彼女を見て、僕は少し照れくさくなる。
少し視線を外そうと顔を彼女から背けると、ドアからこちらをニヤニヤしながら見ているノエインとノクス、それにイオスが目に飛び込んで来た。
「いつから…見ていたの?」
「「「名前を聞いたあたりから」」」
最初からじゃないか!
僕はボッと顔が赤くなる。
恥ずかしくなった僕は隣に座っているファロスをチラッと見る。
どうやら彼女も見られていたことに気づいてなかったらしい。
彼女の真っ白な美しい肌は真っ赤に染まり、両手で顔を隠していた。
僕は、ドアから覗いていたノエインたちを追い出しドアを閉める。
こんなとこ見られたくなかった。
ドアを閉めた僕は、ファロスの隣に再び座る。
二人とも見られて恥ずかしい。
そんな中、何とかおずおずとしながらも話しかける。
「あの…よろしく。」
「え…えぇ。」
どうしても、会話が続かない。
そりゃそうだ、あんなとこ見られた後に何を話すかなんて僕も思いつかない。
二人とも話すきっかけを掴めぬまま、時間はゆっくりと過ぎていく。
そんな二人だったが、いつの間にか夕陽は宵闇に溶けていった。
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