5.5話-4:ノエインの憂鬱
夜になり、殿下は異常なしと診断されたのでイオスと共に宿に戻ることになった。
俺とノクスは迷宮での出来事の説明と、少女を預けるためにギルドへ行くことになった。
本来なら最後まで面倒を見たいところではあるのだが、そうも言ってられない。
まず、彼女の身元がわからない。
他所から来ている冒険者ならば預かっていても問題は無い。
だが、可能性は低いがトラブルを回避する意味合いもある。
例えば、どこかのパーティに所属している場合余計なトラブルを起こしてしまう。
これは例え話だが、どこかから誘拐してきた。とか適当な嘘でもつかれたら色々と面倒だ。
ノクスに真実を証明してもらっても、おそらく役に立たない。
元パーティだったこともあり、庇ったと受け取られるだろうから。
よって、ギルドに事の顛末を話して預かってもらうのが最善だ。
「今日は…ありがとうな。」
用を済ませ、ギルドから出てすぐに俺はノクスに感謝を述べる。
正直、今日はかなり助けられた。
彼がいなければ捜索にも時間がさらにかかっていたかもしれないし、すぐに見つけられたとしても二人連れて帰還するのは難しかっただろう。
「何言ってるんですか、俺の仕事はこの街を守ること。
仕事を果たしたまでですよ。」
俺は貸しを作ったと思ったが、どうやら彼の考えは違うらしい。
だが、それでは俺の気が済まない。
「ノクス、時間があるなら少し食事しないか?」
俺はクイッと近くの食事処を指す。
ノクスは少し悩んだような表情はしたものの、あっさりと同意してくれた。
そうと決まれば早速食事だ!
俺とノクスは近くの食事処に入る。
少しピークを過ぎたのだろうか?
あっさりと席に着くことが出来た。
俺とノクスは美味そうな食事が届くと、何も言わず乾杯をした。
まぁ、二人とも明日も仕事があるので酒ではなくただの水だが。
──────────
「久しぶりに二人で食事したが楽しかったな!」
「えぇ、昔を思い出しますね。」
食事を終え、店から出ると肌寒い夜風が吹いていた。
二人で空を見上げると、二つの明かりが俺たちを照らす。
…二つ?
片方は月だとして、もう一つはなんだ?
俺とノクスは月とは違う、もう一つの明かりに目を向ける。
だが、俺には遠すぎてよく見えない。
なんとかして見ようとしていると、ノクスが教えてくれた。
「あれは…第四皇子殿下です…光る翼のようなもので飛んでいますね?
先輩、なんですかあれ?」
俺も聞きたい。
おそらく魔法で飛んでいるのだろうが、なぜいるのか?
そんなことを考えていると殿下が放つ光が移動していくのが見えた。
宿の方角に向かっており、安心したのも束の間。
急に進路を変え、全く別の方向へ降りていくのが見えた。
「ノクス、追うぞ!」
「えぇ、何かあったのでしょう…追いましょう!」
俺とノクスは急いで駆けつけた。
──────────
俺はノクスのあとを追って走る。
ノクスの索敵で案内してもらっているのだ。
幸いにも、刻印をつけておいてくれたらしくすぐに駆けつけることが出来た。
「うし、さっさとぶち抜こう。」
「待って、中にとんでもない数の人がいます。」
ドアどころか周りの壁ごとぶち抜こうとした血気盛んな俺を、ノクスは制止する。
どうやら俺は昼の件もあって焦っていたらしい。
一旦気持ちを落ち着かせようと深呼吸をする。
「話を聞いている感じ、殿下は昼間の犯人を捕まえようとしたみたいですね。
返り討ちにあったようですが。」
全く、なんて無茶を!
そう思ったが、叫んだらバレるので必死に堪える。
だが、どうしたものか?
そう悩む俺にノクスは話しかける。
「殿下を人質としてここまで連れてきてもらいましょう。
衛兵たちで取り囲めば、助かろうとするやつが一人ぐらいいるでしょう。
どうも、聞いている感じチンピラみたいですし。」
俺は作戦に穴があるような気がしてならなかったが、ノクスの言う通りにすることにした。
だが、ここまで出てきたとしてどうするのか?
ノクスは俺の肩に手を置き、語る。
「まだ魔法袋の中にあるんでしょう?あなたの相棒…狙撃銃が。」
あぁ、狙撃かぁ…。
実は昔、俺とノクスは戦争に狩り出されたことがある。
そんなときに、俺は狙撃銃を購入した。
理由は単純、人を斬る勇気がなかったから。
相手がクズであれば、俺はなんの躊躇もなく斬り捨てられる。
だが、相手も俺と同じ狩り出された連中が基本だ。
好きで戦場に来るやつなんて、ほぼいない。
だから、狙撃に逃げたのだ。
あぁ…嫌なことを思い出した。
俺は思わず頭を抱えてしまう。
ノクスも俺が狙撃銃を使っていた事をよく覚えていたな。
ノクスにとっても思い出したくないだろうに。
だが…確かにノクスの言う通りだ。
銃ならば魔法のように発動がバレることもない。
だが、もし外したら?
そう思ったが、彼は何も言わなかった。
だが、代わりに目で俺のことを信用している。
そう言わんばかりに力強い目で見てきた。
そんな目で見られたらやるしかないじゃないか!
俺とノクスはそれぞれが目的を果たすために別れた。
──────────
しばらくして、ノクスが応援を呼んできて建物を取り囲む。
俺は近くの建物から狙撃できるようポジションにつき、待機していた。
すると、包囲網の中に見覚えのある顔がいるのが見える。
「イオス…なんでいるんだ!?」
ノクスとイオスを先頭に、衛兵たちが建物を取り囲んでいる。
ノクスが呼んできたのだろうか?
いや、探しに来てたまたま合流したのかもしれない。
思わず動揺してしまったが、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
ともかく、スコープを覗き込み監視しているとノクスの計画通り建物を取り囲んで一部が突撃するとノコノコと殿下を連れて助かろうとするアホが一人出てきた。
俺は標的の頭にスコープの照準を合わせる。
実は俺の使っている銃には多少なりズレても魔法で補正してくれる特殊な魔法がかけられてはいるのだが、それはあくまでも保険。
そして、人を撃つのは久しぶりだがやるしかない!
ここでやらなければ殿下が道連れにされてしまうかもしれないから!
クソッタレ!俺がやるしかないんだ!!
俺は両手で狙撃銃をがっちりと握りしめ、覚悟を決める。
確実にここで仕留めるため、目標が静止した瞬間に引き金を引く。
1m程の銃身から放たれた弾丸は標的の頭まで一直線に飛んでいき、見事命中する。
標的はおそらく何が起こったかさえ分からなかったろう。
倒れ込む標的からイオスが殿下を引き剥がし、抱き抱えたのを見届け、銃を魔法袋に仕舞うと俺も殿下の元に一直線に走る。
殿下とイオスの元に辿り着くと、殿下は感謝の言葉を述べてくれた。
「本当にありがとう、助かったよ。」
「言ったでしょう?もっと頼ってくださいと。私はあなたの騎士なのですから。」
殿下の温かい言葉で、俺は少し救われたような気がした。
そして、今回の件は本当に頼って欲しかった。
だが、この件は無事に終わったので俺からは何も言うまい。
すると、ノクスが駆け寄ってきた。
なにかあったのだろうか?
「先輩、この件まだ続くかもしれません。こいつら反逆の拳と呼ばれる犯罪組織の連中です。」
どうやら面倒事に巻き込まれたようだ。
だが、考えても仕方ない。
ノクスにあとを任せ、帰ろうとすると俺と殿下はイオスに正座させられた。
どうやら自分も頼って欲しかったらしい。
いやでも、酔っ払ってたやん。
そう言いたかったがろくでもないことになるのが確定していたので大人しく叱られておく。
小一時間ほど叱られたところで解放された。
ノクスが止めに入ってくれて助かった。
ノクスにまた貸しが出来た、返したばっかりなのに。
そんなことを考えつつ、夜明けの光とともに三人で帰路に着いた。
あ、これも報告しなきゃ行けないのか…。
こんなもんどうやって報告するんだよ…。
俺は一人で潜らせたことを報告書に書かないといけないことを思い出す。
こんなの報告して無事に済むだろうか?
突然の命の危機に思わず逃げ出したくなってしまった。
俺は報告書というとんでもない爆弾を思い出し、俺たちを照らす晴れやかな、明るい太陽の光とは対照的に憂鬱な気分になった。
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