5.5話-3:ノエインの憂鬱
迷宮から殿下を救出した俺は、ノクスたちと共に医者の元に走る。
応急処置は施してあるものの、治療ではない。
殿下は俺を見て気絶した。
…ということはそんなになるまで極限状態で戦っており、見た目に問題がなくとも検査してもらったほうがいい。
考えたくはないが、遅効性の毒に侵されていた場合シャレにならない。
迷宮近くに構える小じんまりとした診療所のドアを乱暴に開ける。
「院長、急で悪いが診てくれ!!」
俺を先頭に診療所に似合わない、むさ苦しい男たちがゾロゾロと入ってくる。
彼女ならば何かあっても治してくれるだろう。
そう思い、ここに駆け込んだのだが運良くいたらしい。
奥から白衣を着た彼女が出てくるのが見えた。
「良かった、いてくれて助かったよ。」
そう安心し、目を瞑ったが俺は体に強い衝撃を受ける。
俺は慌てて目を開け、受け身を取り地面を転がる。
砂埃の舞う中、ドアから彼女が出てくるのが見えた。
「汚れた格好で入るなぁーーー!!!!」
辺り一帯に聞こえたんじゃないかと言うぐらい馬鹿でかい声だ。
だが、彼女の言う通りである。
今の俺たちは迷宮から直行しており、それなりに汚れていた。
「…この子たちかい?預かるから体洗ってきな!」
衛兵たちが抱えていた殿下と少女を一目見た彼女は二人を抱えるとノクスを初めとした衛兵たちを叩き出し、診療所のドアを乱雑に閉める。
叩き出された俺たちはお互いに顔を見合い、体を洗いに向かった。
──────────
実は、迷宮から出てすぐの所にギルド直轄の入浴施設がある。
これは冒険者たちからの要望で建てられたもので冒険者だけでなく、一般人でも入浴可能だ。
最初は冒険者だけだったが、その利便性と快適さがいつの間にか広がり、住人たちからの要望で都市からの補助金とともに一般人でも入浴可能となった。
そんなここだが、銭湯をイメージしてもらえると良いだろう。
この入浴施設は入浴するのに代金は要らないし、いつでも使えるというありがたい。
今はもうすぐ夕方になる時間なので人が多い。
俺たちはサッとシャワーで洗うと、すぐさま診療所に歩いて戻る。
昼食を食べていなかったことを思い出し、ノクスたちに出店で何か食べないか?と提案する。
もちろん代金は俺持ちで。
仕事とはいえ、彼らを巻き込んだ俺なりのお詫びだ。
ノクスたちは提案に飛びつき、迷うことなく串焼き肉の屋台に走っていく。
「…あいつら遠慮ってものがないのか。」
だがまぁ、悪いのは俺だしなぁ…と思い俺も歩いて追いかける。
だが、ここで問題が起きる。
同じ屋台にイオスとアイリスがいたのだ!
俺は咄嗟に隠れようとしたが、気づいた時にはもう手遅れだった。
「あ、ノエインじゃない。殿下は?」
「ノエイン、ここの美味しいわよ?あんたも食べたら?」
どうやら、殿下が一人で潜ったことには気づかれていないようだ。
何とか言い訳を考えないと!
すると、ノクスたち衛兵がイオスに向かって跪き丁寧な挨拶を述べる。
「あなたがイオスさんですか?お初にお目にかかります。
私ノエインさんの後輩でこの街の衛兵長を務めております、ノクスと申します。」
「ご丁寧な挨拶どうも。私はイオス、第四皇子の騎士をやってるわ。
ノエイン、あんた後輩なんていたのね?」
「…あ、あぁそうだな。」
はにかみながら何とか喋っていた俺だったが、ノクスが爆弾を投下した。
「殿下は今、馴染みの診療所で手当を受けております。
命に別状は御座いませんのでご安心を。」
ノクス、お前ーーー!!
思わず心の中で叫んだが、今はそれどころではない。
どうやってこの場から生きて帰れるかだ!
しかし、あれこれと考えているうちにイオスがゆらりと近づいてくる。
「どういうことか、説明してもらおうか?」
終わった…。
俺は逃げられないことを悟り、諦めた。
──────────
あの後、死を覚悟した俺だったが顔面をボコボコにされた辺りでノクスやアイリスが仲裁してくれた。
おかげでなんとか致命傷で済んだ。
着いてきてくれた衛兵たちは仕事があるのでここで別れ、俺とイオス、そしてノクスの三人で診療所に向かう。
アイリスはギルドに今回の話を話して来てくれるらしい。
詳しい説明はあとで俺が行くことになるだろうが、話を先に通してきてくれるとスムーズに済むので助かる。
診療所に戻ると、院長が個室に案内してくれる。
診療所は古いながらもキチンと隅々まで綺麗に掃除されており、手が行き届いているのがわかる。
部屋に入ると隣合う二床のベッドに殿下と少女がそれぞれ寝かされている。
二人とも穏やかな顔で寝ているようだ。
俺とイオスはとりあえず部屋に置かれた椅子に腰掛ける。
ノクスは座ったらいいのに、座ろうともしない。
まぁいいか、とりあえず顔を治療しようと魔法袋から道具を取り出そうとすると視界の端で起き上がる殿下に気がついた。
俺たちの物音で起きてしまったのだろう。
俺とイオスはすぐに立ち上がり、殿下に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?ノエインから一人で潜ったと聞いて驚きましたよ!!」
「…殿下、ご無事で何よりです。イオスには説明しておきましたので…ご安心を。」
本当に無事で良かったと思う。
正直、迷宮に一人で潜っても五階層ぐらいが限界だろうと踏んでいたからだ。
だが、殿下は想定よりはるか深くに潜った。
自分の判断ミスを悔いると共に、誇らしくもある。
普通、ソロ冒険者はあまり他人の救助をしない。
これは、救助を行い共倒れを避けるためだ。
一人だとどうしても限界がある。
正直、パーティを組んでいても救助は大変なものだ。
それを一人で成し遂げたというのだから驚きだ。
俺は心の中で見知らぬ少女を救った殿下に改めて敬意を表した。
そんな起きたての殿下はノクスにチラリと目をやる。
「お初にお目にかかります。迷宮都市テオの衛兵長を務めておりますノクスと申します。」
「こいつも元冒険者でねぇ、俺の後輩なんですよ?」
ノクスの丁寧な自己紹介のあとに、俺はノクスについて説明する。
ノクスとの交友は持っておくべきだ。
俺とイオスに何かあったとき、おそらく最後に頼れるのはノクスだ。
そんな俺の思いは胸にしまい、窓から射し込む夕焼けはだんだんと見えなくなる。
俺にとっても、殿下にとっても、激動の一日は少しずつ夜に包まれていくのだった。
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