5.5話-2:ノエインの憂鬱
この迷宮都市を囲むように建てられた城壁に設けられた、訪れたものを威圧するような大きな門の端にある詰所を訪れたノエインは迷うことなく詰所の扉を叩く。
詰所には数人の衛兵が常駐しており、中には見知った顔が何人もいた。
扉を開けたのもその一人、かつて俺と同じく冒険者をやってた連中だ。
「はいどちらs…ってえぇ!?ノエインさんじゃないですか!!
隊長、ノエインさんが来ました!!」
「ここは…何も変わってないようだな?」
相変わらず狭いところだ。
表は六畳程の狭い受付しかなく、基本は裏の部屋で待機している。
受付にいた衛兵は慌てて裏に衛兵長を呼びに行った。
慌てすぎて靴が脱げてしまってるじゃないか。
やれやれ…と拾い上げ持って行ってやろうと立ち上がると裏からかつての仲間の姿が現れる。
「久しぶりだな、衛兵長。元気にやってたか?」
「先輩こそ、奥さんは見つかったんですか?」
こいつ…久しぶりに会ったというのに、わざわざ人が気にしてるとこ突きやがって。
だが、同時にこういうやつだったなと懐かしさも感じる。
短髪の青髪に、衛兵だと一目でわかる銀色で統一された軽装備。
彼の青髪はまるで性格を反映しているように、冷静でちょっと冷たい。
だが、そんな要素も全て…あの時に戻ったかのように、鮮明に覚えていた記憶と同じだ。
かつての仲間を思い出し、思わずウルッと来てしまったが涙をこらえ、用件を話さなければ。
俺は深々と頭を下げる。
「俺が今、仕えている殿下に何かあった時探すのを手伝って欲しい。」
「…別に頭下げなくても助けますよ?僕は、この街の守護者たる衛兵長ですので。」
クスッと笑ってしまった。
何か損した気分だが、引き受けてくれたのはありがたい。
何も聞かずに引き受けでくれたのはちょっと想定外だったが、彼なりに何か変わるような出来事があったのだろう。
昔、冒険者をしていた時なら話を聞いてもらうだけでも一苦労だったのにな。
──────────
「…なるほど、一人で潜らせるとかアホですか?」
「俺なりに考えてのことだったんだよ~。」
俺は今、衛兵詰所の休憩室でノクスと二人で思い出話に花を咲かせたあと今までの経緯を一通り話した。
だが、一人で潜らせたと言ったらやはりズバッと言われてしまった。
14歳を一人で潜らせるのは俺だって普段なら多少躊躇はする。
だが、今回は共有付きの共鳴石を渡してある。
どこかに落としさえしなければ、現在地までわかるこれがあれば大丈夫だと思ったのだ。
「たとえその時場所が分かっても、共鳴石が砕けたあと移動されたら意味ないじゃないですか。」
「だからお前に頼みに来たんじゃないか~。
助けると思って、な?」
この共有、実は彼の魔法が元になっている。
当然、付与してあるので固有魔法に比べれば劣化している。
なので、固有魔法を持っている彼に捜索を頼みに来たのだ。
「そりゃまぁ、俺の固有魔法なら捜索は出来ますが…刻印つけてないので絞り込みが大変じゃないですか?」
「あ、それは大丈夫。一人で潜るようなやつそうそういねぇだろ。」
「まぁ、それはそうですけど。」
単独攻略するのは基本的に弱すぎて組めないかその全く逆、圧倒的な強さかの二択。
なので、彼の共有の元となった索敵ならば一人でいる冒険者ぐらい簡単に探せるだろうと思ったのだ。
というかしてくれないと、何かあった時に俺のクビどころの騒ぎじゃなくなる。
それにしてもなんで一人で行かせたのだろうか。
今更心配するぐらいならこっそり着いて行けば良かったな、と胃をキリキリとさせながら後悔する。
そんな俺を見てか、ノクスが白湯を持ってきてくれた。
ありがたくいただいていると、異変を感じた。
「ノクス、来てくれるな?」
「えぇ、階層を一気に移動しました。おそらく落とし穴でしょう。
急いで行きましょう!」
俺は白湯をガっと胃に流し込み、立ち上がる。
しかし白湯は俺には熱かった。
喉が焼けるような痛みに襲われ、悶絶しながら置かれた水に手を伸ばす。
水は、速やかに喉を冷やし痛みを消し去ってくれた。
「ごほっ…っ…すまない、行こう!」
俺とイオス、それに数名の衛兵が迷宮目掛けて狭い詰所から飛び出す。
全速力で迷宮に向かう我々を見て、街の人たちも何かを感じ取っているのだろう。
こちらを見ながら話しているのが見える。
だが、そんなことは今どうでもいい。
俺たちの噂話より殿下の身の安全が最優先だ。
ちくしょう…無事でいてくれよ?
俺はとても冷静さを保てなかった。
いつものように穏やかでは居られず、思わず無事を祈り続けた。
──────────
迷宮をひた走る一同だが、もちろん位置の把握も忘れない。
右手で襲い来るモンスターを蹴散らしながら、左手に握られた共鳴石で位置を確認する。
「どうやら、まだ十階層にいるようだ!!」
「不味いですね…あそこは初心者が行っていいような場所では無いですよ!?」
「あぁ…俺もそう思う!!」
ノクスの懸念は当たっている。
殿下には初めて仕えた時から剣術は嫌という程仕込んでいるが、それでも並の騎士とトントンがいいところだろう。
しかも、対人なのでモンスター相手にはあまり有効ではない。
対人とは違い、対モンスターは全くの別物で初見殺しなんかは当たり前だし人間相手と同じように考えて油断してるとすぐあの世行きだ。
迷宮の各層を普通ならばありえない速度で駆け抜けているが、それでも十分程はかかるだろう。
今は十階層までノンストップで駆け抜けているが着いてきた衛兵たちは被弾もあり、もう付いてくるのもやっとと行ったところだ。
だが、衛兵もこんなことまずしてないだろう。
少しばかり、責めるのは酷というものだ。
「ここからは私とノエインで先行する!
お前たちは無理のない範囲で付いてこい!」
ノクスが号令を腹の底から叫ぶ。
それに合わせるように、俺とノクスはさらに速度をあげた。
第七層…第八層…第九層…。
新人たちが何事かと道を開けてくれたので想定より早く第十層に着けそうだ。
だが、ここで恐れていた事が起きた。
共鳴石が砕けたのだ。
「ノクス、共鳴石が砕けた!」
「くっ、不味いですね…。」
だが、俺たちにはどうすることも出来ない。
すーっ、と深呼吸をし冷静になろうとする。
幸い、もうすぐ第十層だ。
そう思い駆け抜けていると階段が見えると同時に、三人組の冒険者が視界に入ってくる。
「そこの冒険者、どけぇー!」
俺の怒声にビビったのか、三人組はアタフタしながら左右に散る。
本来ならこんなことしては行けないのだが、今は緊急事態だ。
第九層から俺とノクスは飛び込む。
階段をちまちま降りている暇などないからだ。
すると、第十層が見えると同時に馬鹿でかいカマキリが見えてくる。
「ノクス、合わせろ!」
「言われなくとも!」
俺が何をするか、理解してくれていて本当に助かる。
俺は【氷結する剣】を唱え、デカブツを凍らせると同時に魔法袋から大剣を取り出す。
この大剣も使うのは久しぶりだ。
名前はアストロ、星という意味を持つ。
文字通り、この大剣は俺の希望の星であり続けた。
こいつで斬れないものなどない。
ただ…重くて扱いずらいのが難点だ。
カマキリが魔法で凍ったのを見て、この大剣を振り下ろす。
それと同時に、ノクスが槍で氷漬けのカマキリに猛攻撃を加える。
俺の圧倒的な一撃と、ノクスの目にも見えぬ連撃で氷は真っ二つに割れる。
だが、モンスターより今は捜索だ。
こんなデカブツ、殿下が倒せるわけがない。
なので、近くに待機しているはずだか…。
俺はノクスに確認をしてもらおうと振り向く。
「そこの右手前の通路に二人、近くにほかの冒険者はいないようだ!」
殿下は一人で行っているはずだ。
まさか誰かが助けてくれているのか?
「ノエイン、ここだ!」
通路から、たしかに殿下の声が聞こえた。
どうして二人でいるのだろう。
そんなことを考えるより、まずは確認しなければならない。
俺は大剣を魔法袋にしまい、通路に駆け寄る。
すると、そこには少女を抱えながら通路にもたれかかる殿下がいた。
見た感じ、殿下より少女の方が酷そうだ。
だが、まずは殿下を安心させねば。
俺は腰を落とし、安心させようと声をかける。
「もっと頼ってくれてもいいんですよ?」
これは俺の本心だ。
共鳴石が割れるのが直前だったのは一人で何とかしようとしていたのだろう。
だが、俺は殿下の騎士であり懐刀だと自負している。
第一、殿下はまだ子供。
だから…もっと頼って欲しいのだ。
そう思っていると、殿下がフラリと倒れそうになったのでサッと手を伸ばし支える。
どうやら、限界だったようだ。
俺は殿下を支えつつ、ノクスに二人の応急処置をしてもらう。
応急処置が終わると、俺はノクスに少女を任せ、俺は殿下を背負う。
「何とか間に合ったようだ。そちらの少女は頼んだよ?」
「もちろんです、それに間に合って良かった。
一歩間違えば先輩のせいで死人が出るところでしたよ。」
こいつめ、本当に…。
だが、茶化してくれるぐらいが今の俺にはちょうどいい。
フッと思わず笑ってしまった。
こんなふうに弄られるのは久しぶりだったから。
二人で地上に向かい歩いていると、付いてきていた衛兵と合流した。
遅れてきた衛兵に俺は殿下を、ノクスは少女を預け武器を取り出す。
「「護衛は任せろ。」」
迷宮から帰るまでが冒険。
衛兵に守ってもらうより、俺とノクスで守る方がいいだろう。
幸いにも、ノクスも同じ考えだったようでハモってしまった。
さぁ…帰りましょう。
俺は殿下の頭を一撫ですると、襲い来るモンスターたちに雨のように攻撃を降らせながら叫ぶ。
「かかってこい、相手になってやる。」
「ふふ、昔を思い出しますね。」
ノクスの言う通りだ。
俺は頷き、魔法を唱える。
これぐらいはしなければ、そう思い撃退に一層力が入るのだった。
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