6-0 雪解けの朝
屋根から落ちる雪の音がいつもより大きい。
カーテンから漏れる光は魅了するほどの煌めきを放っている。
ルシエルは頬を軽く叩き、布団を綺麗にたたんで、その上に枕を置いた。
パンの焼けるいい香りが、食欲を誘う。
「おはよう、母さん」
「おはよう、ルシエル。早いわね」
「うん、早く起きて朝食は僕が作ろうとしたんだけど、遅かった」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。なら、ベーコンと卵を焼くのお願いしちゃおうかしら」
二人は頬を持ち上げ、キッチンに並んで立った。
昨晩、ルシエルはアーサー・エルウッドについての違和感を母に話した。
目を見開き、口元を押えたミレイユはその場で固まり、
──「何かの間違いではないのか?」
と、にわかに信じがたい顔をしていたが、
チルが同時に感じていたことも説明をしたところ、表情が変わった。
「だから、母さんも用心してほしい」
クリストフから託された父の手帳のこと、アーサーは意図的にこちら側に接触しているのではないかということ。
僕たちの知らないところで何かが動いているのではないかという疑念。
それらを話すとミレイユはルシエルの肩にそっと手を置いた。
「母さんは大丈夫。それにロザリーの事も心配いらないわ。
お父さんのかわりにチルがいてくれることだしね。
あなたこそ、無理なことはしないように」
ミレイユの目は全てを包み込むような優しさにあふれていた。
ルシエルは首を縦に振り、しっかりとした声で「はい」と答えた。
* * * * *
──「ロザリー、チルのことよろしくね」
「うん、まかせて。お兄ちゃんも元気でね」
「チル、母さんとロザリーのこと頼んだよ」
ロザリーの指の上にいるチルは、青い羽をぶるると震わせ、チチっと鳴いた。
「じゃあ、母さん。行ってきます」
ルシエルは新たな決意を胸に、家をあとにした。




