4-4 会場にふさわしい美女
「みなさん。ご歓談中ではありますが、ここで後夜祭恒例のビューティーコンテストに移りたいと思いまーす」
会場内がざわめき出した。
司会のメルバ・ベルローズの呼びかけにルシエル達も興味深く見ている。
「先ほどみなさんに提出してもらった推薦用紙の集計が終わりましたので発表したいと思います」
「えー、これから呼び上げる5名の方はどうぞこちらへお越しくださーい」
──礼拝堂の入り口で配られた推薦用紙。
今夜にふさわしいと思う女性の名前を書き、提出する。
「ではまず一人目、ブリジット・メイアンさん。壇上までお越しください」
彼女は宮廷文化の三年生。バルフィーユ伯爵の令嬢で、容姿端麗、非の打ち所がない。
「続きましてー、セリーヌ・キャンベラさん、レナ・マリエルさん、デイジー・ブライトンさん」
立て続けに呼ばれた彼女たちも、学年こそ違えど皆宮廷文化科の生徒だ。
クラスメイトたちからの祝福を受け、気品溢れる態度でそれに応えながら登壇した。
「そして最後五人目……ですが、同票だったので二人お呼びします。まずは、エレシア・ブリットさん」
錬金科二年でクラスの中でも一際輝いている彼女。どこかホッとした表情を浮かべている。
「そして、もう一人。――ハンナ・クレイリッジさん。以上六名になります」
会場内がどよめいた。
──あれって今日特別賞もらった魔導科の子でしょ?
──さっき見た時驚いたよ、彼女あんなに可愛かったんだ。
──なんであんなおとなしい子が?
周りにいる生徒たちがハンナに注目している。
本人は、もげそうなくらい首を左右に振っている。
「当然でしょ。うちのハンナはかわいいんだから。ほら、ハンナ」
シャーロットはハンナの背後に回り、両手でそっと背中を押した。
こうして今年のビューティーコンテストの六人が壇上に並んだ。
彼女たちは、レイ・アダン先生の生み出した光に、儚げに照らされていた。
そして、パイプオルガンの豊潤な音色が更に美を際立たせている。
ハンナは自分が注目されていることを忘れ、煌めく会場の美しさに目を輝かせ、
他の候補者たちは羨望の眼差しに、陶酔し、より高みへと気持ちを高めていった。
誰しもがこの光景に魅了されている。
「ハンナ、すげーな。なんか急に遠くの人みたいになっちゃったな」
エバンは腕を組みながら感心し、ジトッとした目をルシエルに向けた。
「なあ? ルーシーは誰を書いたんだ?」
「え? だ、誰だっていいだろ。お、お前こそ誰を書いたんだよ?」
「ん? オイラ? オイラはシャル。だって今日のシャル、すっげえ綺麗じゃん」
思いがけないエバンに、ルシエルの心臓が跳ねた。エバンはとても爽やかな顔をしている。
隣りにいたシャーロットは先ほどと同様、聞こえないふりをしている。
が、耳が赤い。
煌びやかな輝きに包まれた六人は、それぞれコメントを求められた。
ハンナは、硬直し、手元のハンカチを握りしめている。
そして、噛み噛みのコメントを残し、会場は笑いと激励の言葉が交錯していた。
グランプリを決める方法は、配られたティーライトキャンドルを当人の立つ円台のまわりに置き、
一番数の多かった者がティアラを獲得する。
ルシエル、エバン、シャーロットはもちろんハンナの元へ。
「早くこの場から立ち去りたい」と今にも泣きそうな顔をしているハンナを見てシャーロットは
「ほら、もっと背筋を伸ばして」と、温かいまなざしを送っている。
「ハンナ、すげえよ! なあ、ルーシー?」
「……」
ルシエルはハンナを直視できず、顔を赤らめている。
──(この娘、シャーロット・リンデルの後ろでこそこそしている娘じゃない。
何故私があんな田舎者と同票なのよ。ふん、あんな小娘、どうせ数票、それも身内の同情票しかもらえないわよ)
隣に立つエレシアは、笑顔を崩さぬまま、横目でハンナのことを見た。
彼女の周りにはいつでも誰かがいて、彼女も、当然と言わんばかりの態度を取っている。
クラスメイトのシャーロットはそんな彼女が少々苦手だった。
次々とキャンドルが置かれ、揺れる火が彼女たちのドレスをより輝かせている。
ルシエルの鼓動は早く、ハンナの顔を直視できない。
肩からのぞく肌が、光に照らされて淡く輝いている。
さっきから見ていたドレス姿のはずなのに。
手が汗で湿っている。
耳の奥で鈴の音が聞こえた。
心地よい音色。
その時、ハンナと目が合った。──鈴の音色が変わった。
その音は大きく鳴り響き、ルシエルを満たしていく。
恥ずかしくて目を背けたいのに動かない。
心音が大きく聞こえる。──すぐそこで。
ドクン、ドクン、ドクン。
司会のメルバの声で我に返ったルシエルはその場を離れた。
そして、テーブルに置いてあった飲み物を一気に流し込んだ。
「ねえ、ルシエル。別に、いいんだけど。それ、私の飲み物……」
「うそ? ご、ごめん……。間違えた」
シャーロットはハンナとルシエルを見たあと、天井を見上げ、口角を持ち上げた。
キャンドルの数は一目瞭然、ブリジット・メイアンが去年に続き二度目のグランプリを勝ち取った。
歓声が一際大きくなり、次に二位の発表がされ、デイジー・ブライトンはカーテシーをした。
続く三位の発表にエレシアは自身のキャンドルの数を数え、次は私の番と確信していた。
しかし、エレシアの名前は呼ばれなかった。
歓声とともに、ハンナの周りにクラスメイトが集まり讃えている。
一瞬、何が起きたのかわからない顔をしているハンナだが、その賛美の声を聞き、気恥ずかしくなり顔は紅潮している。
俯き身体の前で指をこねているハンナの姿をキリキリと奥歯を噛みながら睨みつけるエレシア。
──(なんで私があんな田舎者に負けるのよ)
エレシアは味わったことのない屈辱感に唇を噛み、翡翠のネックレスを指で触った。
拍手喝采。煌めく会場。そして、クラスメイトからのハンナコール。
ハンナは自分に自信がなく、皆の前で意見をはっきり伝える事ができない。
その自分が今、皆から讃えられている。
背筋が粟立ち、少し寒気を覚えたハンナはシャーロットを探した。
いつもこういう時はシャーロットに助けてもらっていたから。
泳ぐ視線の向こう側に彼女はいた。
隣りにルシエルも。
ルシエルにドレスを見てもらいたかったんだ。
そのために、毎晩遅くまで針を動かしていた。
ルシエルと目が合ったハンナは込み上げてきたものを抑えきれなくなり、
ハンカチで目尻をそっと抑えた。
壇上から降りたハンナはクラスメイトからの祝福を受け、その後、シャーロットの元へと歩み寄った。
「おめでとう、ハンナ。今のあなた、とっても輝いてるわよ」
「シャル……。なんか、恥ずかしいよ」
「何言ってんだよ、ハンナ。すごいことじゃないか。もっと前を向いていいんだよ。なあ、ルーシー。ん? どうした?」
エバンがルシエルの顔を覗き込んだ時、シャーロットが腕を引っ張り人差し指を自身の口元で立てた。
そして、二人から距離を取り始めた。
ルシエルの顔は真っ赤に染まっている。
けれどもその目はまっすぐハンナを見ていた。
「おめでとう、ハンナ。えっと、す、すごく、可愛い」
ハンナの肩は小刻みに震え、その瞳は潤み、頬を濡らしていた。
会場の明かりはやや落ち、ワルツが生徒たちを包み込んだ。
ひと組、またひと組と手を取り、静かなステップを踏み出す。
ルシエルは震える手を、そっと差し出した。
「僕と踊ってくれませんか?」




