4-2 似ているふたり
壁際に並んだ数々の料理。
それは、各寮のシェフ達が腕によりをかけて作ったものだ。
ルシエルたちもそれぞれ自分の皿に取り分けるところだった。
「エバン、いくらなんでもそれ、やり過ぎだよっ」
「えー? 好きなもん何でも食べていいんだろ? どれもすっげー美味そうだし」
「だったら、後でもう一度取りに行けばいいじゃないか。
そんなに盛ったら、もう何食ってるかわからないだろ……」
「だって、もう一度行った時、料理が無くなっていたら食べられないだろ? そんなのもったいないもん」
皿からこぼれそうなごちゃ混ぜになった料理たちを見たルシエルは、
来年はこいつと一緒に行くのはやめよう。──そう誓った。
そこへ上品に盛り付けたシャーロットとハンナが戻ってくる。
「あの、エバン? それって、一人で食べるのよね……?」
何を当たり前のことを聞いているのだ?という顔を向け、エバンの顔は食べ物を詰めたリスのようになっている。
シャーロットとハンナは顔を見合わせ、ルシエルの方を見た。
ルシエルは黙ってコクリと頷いた。
「──そういえば、ハンナとシャルって小さい頃からずっと一緒にいたの?」
「え? あ、うん。親同士が仲が良くて……」
ハンナは目を泳がせながらグラスに口をつける。
「いいなぁ。オイラ、引っ越しばっかりでさ。昔からの友達っていないんだよな」
エバンは相変わらず頬を食べ物でいっぱいにしている。
「そうだったのね。お父様の仕事の関係か何かで?」
「う、うん、まぁね……。
お? なにこの肉。すっげー美味いな! まだ残っているか見てくる」
あっという間に平らげた空の皿を持って慌てて料理卓へと向うエバン。
「あー、わたしも飲み物取ってこよーっと」
シャーロットは、棒読み全開の声で言い、そそくさとその場を離れた。
ハンナはシャーロットの後ろ姿を目で追いながら、耳を赤くする。
そして、しばし沈黙。
ハンナは勇気を出して誘ったはいいが、面と向かうと緊張に輪をかけ喉が張り付いてしまった。
一方ルシエルは、今まで散々ハンナと話していたのに、意識してしまい硬直している。
ましては二人きり──。
「「あ、えっと、」」
「あ、ハンナからどうぞ」
「あ、いや、ルシエルから……どうぞ」
──そしてまた沈黙。
ルシエルは冷たい飲み物を口に含み、無理やり喉を開いた。
「んんっ、えっと、ハンナって動物、好き?」
「う、うん。私の町はとても田舎で、農家が多くて、
それで、そのー、動物もたくさんいるんだ」
「そっかぁ。だからなのかなぁ」
「え? 何が?」
「あぁ、今日の対抗戦の吊り橋で、抜け道を案内してくれたでしょ?
あれ、獣道だよね? 動物のこと詳しくないとあの道は選べないなと思って」
──クラス対抗戦中盤、ルシエルが騎士科のアレス・ガルドナーと相対し、
ハンナの案内で抜け道を使い相手を翻弄した。
藪の中を潜り、斜面を下り、時には彼女の土魔術で地形を変え、アレスたちの追跡を絶った。
「あの時のハンナはすごかったなぁ。
ハンナがいなかったらアレスから逃れられなかったよ、絶対に」
ハンナは照れと嬉しさが混ざって「へへっ」と目尻を下げる。
それはいつものハンナの表情だったことにより、ルシエルの緊張は炭酸飲料の泡と共に弾けた。
「ほんと、全身葉っぱだらけだったもんね。ルシエルは顔まで黒くして」
ハンナはくつくつと笑い、さらに続ける。
「わたし、動物の声が少しだけわかるの。
けど、会話は出来ないから、聞く専門なんだけどね」
──ハンナは幼いころから、大人数の場所が苦手だった。
だからひとりで森へ行き、動物たちの鳴く声を聞く。そんな時間が好きだった。
会えば「こんにちは」と声をかけ、立ち止まれば話しかける。
ある日、いつもより奥へ入り込み、帰り道を見失った。
声を出しても誰にも届かない。
日も傾きかけ、ハンナはどうすることもなかった。
森は夜になると漆黒になってしまう。
怖くて、不安に押しつぶされて、どうにかなってしまいそうな感覚がハンナに襲いかかる。
泣くことしか出来なかった。
その時、地面から白く小さな光が浮かび上がり、ハンナの周りを回りはじめた。
光はやがて顔の前で止まり、視界を包み込む。
眩しくて目を閉じ、瞼の奥まで明るさを感じ、次に目を開けた時、ハンナは森の入り口に立っていた。
振り返ると、一頭の鹿がこちらを見ていて、目が合うと森の奥へポーンと跳ねて消えていった。
それからしばらくして、再び森に足を踏み入れた時、
いつもの森が、やけに賑やかに感じられた。
優しい声が、たくさん聞こえる。
嫌な感じはまったくない。むしろ心地いいざわめきだった。
それからハンナは森へ入る頻度が徐々に増えた。
そして、それが動物たちの声だと気付いたのは、しばらく経ってからのことだった。──
「すごい! そんな特技があったなんて。だから微精霊とも話ができるんだ。
──そっかぁ、声がわかるのかぁ。ハンナは獣医さんになったらきっと名医になるね」
ルシエルは何度も頷いた。
「わたし、将来獣医になりたいんだ。
小さくてもいいから、いつか自分の治療院が持てたらいいなって」
「うん、うん、絶対出来るよ!ハンナなら。
ハンナは優しくて思いやりがあるから絶対にいい獣医さんになるよ」
ハンナは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
そして、自分の気持ちに正直になろうと、思った。
「そういえば、エバンとシャル、遅くない?」
ルシエルとハンナは料理卓の方に二人を探し、視線が止まった。
そこには、料理卓のそばにあるハイテーブルに肘をつき、
ニヤニヤとこちらを見ている、二人の小悪魔がいた。




