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世界の音を、君はまだ知らない  作者: 此崎 りつ
二章 実技試験編
15/17

2-3 人柄に触れる

休み時間、ルシエルとエバンたちは教室でクラスメイトとカードゲームをして遊んでいる。

自分で設定したキャラクターを成長させ、ダンジョンを攻略し、ドラゴンを倒す。

今、男子生徒に人気のある対戦型カードゲームで、

皆それぞれ好きなジョブ──勇者や賢者、魔術師、呪術師、錬金術師など── 

を決めて得た経験値と共に成長してゆくものだ。

持ち札は基本五枚で、順番に十二面体のサイコロを振り、攻撃カードやアイテムカードなどを引き、役を作っていく。

ルシエルは錬金術師、エバンは勇者のカードを所持しており、他の生徒たちも各自オリジナルキャラクターを用意して対戦している。


「はい、じゃあここでルシエルはカード二枚な」


クラスメイトのテッドがメインとなりカードを配給する。


「よし!緑のポーション三枚揃ったー」


ルシエルは拳を上に掲げ、揃った緑のカードを一枚のホログラムが施されたカードと交換する。


「またかよー、ルーシーばっかズルイよなぁ、じゃあオイラはこれで勝負だっ!」


パシュッと出したエバンのカードには装飾品が施され光輝く剣のカード、いかにも勇者が持つような聖なる輝きを持つ剣が映し出されていた。


これに対するルシエルは、目を細めながら手のひらでカードを覆いながら場に置き、ゆっくりと手をどけた。


「──炎のゴブリン召喚」


「コノヤロー、今まで温存してたな!ずるいぞルーシー」


「フフフッ、甘いなエバンくん」


ルシエルは大きく腕組みをして不敵に微笑する。


「くそーっ、このままもう一回勝負だ!」と教室に響き渡る声で言ったとき、

「おーい、ルシエル、先輩が呼んでるぞ」と耳に飛び込んできた。


ルシエルはガハハと笑いながら振り向いた先には

騎士科3年オーウェン・ベルハートが手招きをしている。

思わず喉が張り付いてしまい、むせ返った。

──まさか、今朝の事で来た?気が早すぎない?

オーウェンの方へ行くが、その足取りは重たい。

なぜならエバンに先輩から組手の申し出を受けたとまだ伝えていないからだ。


「あ、オ、オーウェン先輩、どうしたんですか?」


指で頬をかきながら白々しい声でルシエルは近寄ると、オーウェンはグイッと肩を組みルシエルを引き寄せ腕に力を込める。


「エバン、組手の話なんて言ってた?もちろんやるよな?」


堅い腕で喉を締め上げられているようでうまく声が出せないルシエル。

オーウェンの鋼のような腕をパンパンと叩き、喉をヒューヒューと鳴らしながら「えっと、あのー」と返答に困っていたら


「おーい、エバン・ヒルティ、ちょっといいかー?」


屈託のない笑顔とアンバランスな肉体を持つオーウェンは大きな声でエバンを呼びつけた。

教室内の空気の流れがピタリと止まり、クラスメイト達も戦々恐々としている。

騎士科の生徒はいわゆるスクールカーストで言うトップに位置するエリート集団である。

廊下ですれ違う時、他の科の生徒は端に寄るほどだ。

中でも騎士団候補生と言われている者には逆らえない感じの圧力さえ持ち合わせている。

エバンは扇状にしたカードを持ちながら「なんすか?」と興味のない声で応じた。


「ルシエルから聞いてないか?俺と組手をやろうぜ」


教室内がざわついた。

ああ、ルシエルが餌食にされる、、、。

去年も騎士科の一年生が散々組手をさせられノイローゼになったらしいとの噂が出ている。

遂にこのクラスからも犠牲者が出るのか、と誰もが思ったその時、


「え?嫌ッス」


空気が完全に凍りついた。

クラスメイトは面倒事に巻き込まれまいと見て見ぬふりをしている。

肩を組まれているルシエルは背筋が粟立ち、耳の奥で金属音が聞こえる。

オーウェンは優しくて頼りになる先輩で、後輩に対して怒っているところを一度も見たこたはないが、

これと決めたことはやらないと気が済まない、少々融通が利かない性格だ。

それを身を持って知っているルシエルは声にならない声を出し、見上げた。

オーウェンは笑顔を崩さぬままこめかみをひくひく揺らしている。


──これはまずいことになった。


「あ、いや、先輩、これは」


ルシエルは上目づかいでエバンの代わりに弁解しようとすると、

エバンは、まるでオーウェンを透かして見ているような目で


「オイラ、そういうの興味ないんで。なぁ、ルシエル、早くゲームの続きやろうぜ。失礼します」


と言って腕の中に納まっているルシエルを引っ張り出し「じゃ」と元の席に戻った。

あっけにとられたオーウェンはその場で立ちつくしていたが、周りの目が自分に集中していることに気が付き、

このまま引き下がるわけにはいかないと鼻息を荒くして教室内へ大股で入った。

その時、


「おいおい、オーウェンやめろよ、行くぞ。もういい加減にしろって。なんか、悪かったな──」


一緒にいた三年生に両肩をグイッと持ち上げられ、ひきずられるように教室を後にし、それでもなお遠くの方から


「──エバン・ヒルティ、、、お、おれ、と、くみ、、、お前ら離せーーー」


オーウェンの願いは、廊下の喧噪の中に溶けて消えた。

一瞬にして氷の世界へ変えられた教室の氷は次第に溶けてゆき、いつもの和やかな教室へと戻っていった。



「──エバン、ごめん。じ、実は今朝先輩から組手の申し込みを頼まれてたんだ。なんか、言い出せなくて、、」


ルシエルはばつが悪そうに頭を掻く。


「いいって、そんなこと。ルシエルが気にすることじゃないし」


エバンはゲームカードを大事に持ったまま頬を持ち上げる。

嫌なものは嫌とはっきり言えるエバンを羨ましく思うルシエルは、

吸い込まれそうなくらい澄んでいる彼の瞳を見て

シャラン、シャランと鈴の音がするような感覚を覚えた。

ルシエルは温かいのもに包み込まれたように、体温も気分も上昇している。


今までも友達はいたが、心の内を話すまでの友はいなかった。

と言うよりも、ルシエル自身が蓋をし、殻に閉じこもっていたから微妙に距離があったのだが、

エバンになら全てを話してもいい。

そう思うようになってきた。

家族のこと、自身に抱えている違和感のことなど、いつか時期が来たら話そう。

そう心に決め、手招きしているエバンの方へ向かった。

先ほどの場所に戻るとエバンは何か含みのある顔で、


「早くさっきの続きやろうぜ。ルシエル、カードまだちゃんと持ってるだろ?

さっきルシエルで終わったからオイラの番な」


テッドと顔を見合わせたルシエルは小さく頷き、サイコロを振りカードを一枚引き、


「ほい、どどーん!魔法の鞘とエクスカリバー、そして光の盾で、だーいぎゃーくてーん」


ルシエルの周りを飛び跳ねながら何度もまわり


「オイラの勝ちー。昼の飲み物はルーシーのおごりなー」 と大声で叫び挑発している。


「ちょっと!これ、イカサマしただろ⁈おかしいよ、有り得ない!

そんなすっごいカードが三枚も持てるはずないだろー。

なぁ、エバン、白状しろよー。絶対におかしいって!」


ケタケタと笑うエバンとテッド。

さっきまでの凍てついた空気はどこへいったのやら。

心を許せる友達ができてよかったと思った矢先の裏切り。

ルシエルは顔を赤くしながら逃げるエバンを追いかけ回している。

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