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どきどき

「良かったねえ!話にのって良かったよ!」

 

 快活な笑みを浮かべてそう言うのはチャンフェイだ。

 今日も買い物帰りに辺りを軽く探したところ、彼女もこちらのことを探していたようで、目が合ったときに同時に目が輝いた、という感じがした。

 

「いやあ、気になってたんだよ、うまくいったか〜とか。あんたのことだから失敗はないだとうけど!」

 

「うーん、でも、まだ感想が聞けてないんですよね……」

 

 リーメイは手紙を渡したときのことを思い返した。

 ヨウは目を見張って尻尾をぴん、と立てると、手紙をさっと見てすぐに懐へしまってしまったのだ。

 ちゃんと読んでから返事を書くね、と言ったときの顔は少し複雑で、声色は優しかったが、表情は何とも言えない……どう表現したらいいか分からない顔をしていた。

 

「なんだいそれ。照れてなかなか返事を書いてくれないのかい?」

 

「す、すごい真剣に書いてくれてるんだと思います……!」

 

 リーメイは、昨夜のことを思い出してヨウを庇う。

 戸を軽く叩くといつもすぐに返事が返ってくるのだが、昨夜は返ってこなかった。心配になって戸をこっそり開けてみると、真剣に筆をはしらせているヨウの背中が見えたのだ。

 顔を覗いたわけじゃないが、あれを真剣と呼ばないのであればこの世に真実などない。

 普段は何も言わずに忍び足で近づいても気づくような人なのだから。

 

「あんたがそう言うならそうなんだろうねぇ。

 しかしそうだと、返事が返ってくるまで緊張しないかい?」

 

「します!」

 

「やっぱりそうかい!」

 

 リーメイの素直な即答に、チャンフェイは声をあげて笑った。

 

「あれだねえ。これはもう、待つしかないね!緊張するだろうけれど、皿とか割らないように気をつけな!あと包丁で指切るんじゃあないよ!」

 

 リーメイはどきっとした。先日指を切りかけたからである。

 

「な、なんで分かるんですか……!?」

 

「あちゃあ、注意が遅かったみたいだね」

 

 チャンフェイは眉尻を下げて、優しく微笑む。

 

「まあ、頑張って待ちな。あんたが書いたんだ、きっとまっすぐで直視すると眩しいくらいなんだろうさ、そしたら返事を書くのも時間がかかるってものさ」

 

「わたしの……返事を書くのに時間がかかる文章ってことですか……?」

 

 リーメイはしょげ、としながら頭を抱えた。

 頑張って書いたが、今考えるとなんであんなことを書いたのだろう?というものが色々ある。考えるときりがないもので、過去に戻ることができるのならば、いっそのことあの手紙を真っ二つに裂いて、もっとましな手紙にすりかえたい、と思うこともある。

 こう思うと、チャンフェイはすごい。自分で書いた作品……絵や文章を世に出しているのだから。彼女も最初から絵や文章がうまいわけではなかったのだろうが、きっと過去に書いた作品を全て燃やして灰にしたいと思ったことはあるだろう。

 それでも続けられるのだから、彼女はすごいのだ。

 

「そうしょげるもんじゃないよ、あんたの真剣さが伝わるものだから、相手もそれだけ真剣になるってことさ。

 それに、色々照れたりどきどきしたりする時間も必要さね。あんたも返事を貰ったらわかるよ、好きなやつから貰う手紙ってのは読むのに時間がかかるのさ」

 

 チャンフェイは年下の妹を元気づけるような口調でそう言った。

 

「……チャンフェイさんも、好きな人から貰った手紙を読むのは時間がかかるんですか?」

 

「勿論!一回目はね、興奮のあまり内容がちゃんと頭に入ってこない!だからもう一回読むんだよ、そんで噛み締めたくなるからまた読んで……最低でも三回は読むね。

 あたしでさえこうさ、他の人はもっと時間がかかるかもしれないねえ」

 

「さ、三回も!?」

 

「あんたも貰えば分かるさ……何回読んだか数えておきな?そんであたしに教えておくれよ?」

 

 チャンフェイがいたずらっぽく笑う。

 リーメイは気合を入れて、両頬を軽く叩いた。ヨウがそういう状態であるなら仕方ない。

 それに、真剣に返事を書いてくれているのだ、どんなに長くなろうと待つべきだ。ちょっとどきどきする時間が増えるけれど……

 

「お返事貰ったら、何回読んだかお話しますね!」

 

「そんなに気合いれて大丈夫かい?倒れたりしないかい?何かあんたのこと見てると、返事受け取ったら顔が真っ赤になってぶっ倒れるんじゃないかって心配になるんだよね」

 

 チャンフェイはリーメイの頬を軽くつつく。

 

「倒れはしませんよ!多分……」

 

 そんなこと……とは思ったが、はじめて一緒に寝たときでさえああだったのに、とリーメイは思い直した。

 もしかしたら倒れるかもしれない。

 

「自信ないのかい……まあ、覚悟は決めとくんだね……」

 

「覚悟ってどう決めるんですか……?」

 

「自分が参考にした本でも読んどきな。一応、準備運動くらいにはなるから、足を捻ることはないんじゃあないか?

 まあ、一番大変なところが、それが好きなやつから貰ったってところなんだけどさ」

 

 チャンフェイはリーメイの背中をさする。元気づけられているような気がするが、声色を聞くと、諦めて爆発してこい、と言われているようにも感じる。

 

「が、がんばります……」

 

「おうおう、無理しない程度にがんばりな」

 

 それからたわいもない話をして、暗くなる前には別れた。

 帰り道、リーメイは手紙の返事のことばかり考えていて、何度か転びそうになった。

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