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変化

 ホウは筆を動かしていた手を止めて、ふと顔を上げた。

 ほとんど音のない足音が聞こえると、自然とこうなるのだ。

 勘が告げている。ヨウが帰ってきたのだと。

 しかし今日は鬼を退治するのに出かけたはずだ。いくら強い彼といえど、多少なりとも時間はかかる。それなのに、やけに早いのはどういうことだろうか。

 ホウは戸を開けて、足音がする方向へ顔を向ける。やはりヨウがこちらに向かって歩いてきていた。

 返り血もつけずに帰ってきたヨウは、こちらに気づいて声をかけてきた。

 

「鬼の討伐、終わった」

 

「お疲れ様。今日はやけに早いねぇ」

 

「……腕が早く動くものでな、気持ちが落ち着かないとこうなる、というのは久しぶりだな……」

 

 ヨウは視線を床に落とし、そわそわと尻尾を揺らす。

 

「話は中で聞こう、入ってくれたまえよ」

 

 ヨウは周囲をさっと確認してから部屋に入った。

 戸が閉じる間に、ホウは空の様子を確認する。天気は崩れていない。

 

「君にしては珍しい。何だい?もしかしてリーメイと何か?」

 

 ホウがそう言うと、ヨウはゆっくりと頷く。

 

「それにしては雨一つ降ってやしない。悪いことではないね?」

 

「悪いことじゃない。僕には良すぎること、と言っていいくらいで……」

 

「もったいぶらずに話しておくれ。仲介したのは私だからね」

 

 ヨウは暫くどう言おうか迷うように黙っていたが、ゆっくりと息を吐くと、事の詳細を話しはじめた。

 

「リーメイが手紙をくれてね」

 

「手紙?ああ、字を教えているんだったね。手紙を書いてくれるなんて嬉しいことじゃないか」

 

「嬉しいことだよ。……その、内容があまりにもまっすぐすぎるというか、こんなにも眩しいものだと、気が動転するというか……」

 

「人の恋文を盗み見るような野蛮な真似はしないが……大まかにはどういう内容だったんだい?」

 

「……この日のこういう言葉が嬉しかったとか……一緒にいられる時間があたたかくて幸せだとか……」

 

 ヨウの声は消え入りそう、と言ってもよいくらいに小さかった。ホウは友人の珍しい様に目を見張る。

 

「ずいぶんと……なんて言うんだ、私の逆だな」

 

「まあそうだな……ホウが書いたらこういう素直な内容にはならない上に遠回しに言い過ぎて長くなる……」

 

「よく分かっているじゃないか。流石、私の友人を長くやっているだけある。

 そのおかげでリーメイのようなまっすぐな伝え方には耐性がないみたいだけどね?」

 

 ヨウは額を手で押さえて俯いた。その顔を見れば肯定か否定かは十分わかる。

 

「それで落ち着かなくていつもより調子がいいってことかい?」

 

「調子がいいんじゃない。力の加減が上手くいかないんだからな」

 

「鬼を斬るんだ、なるべくなら一撃がいい。だからそれは調子がいいってことなんじゃないかい?」


「相手の出方も見ずに全て直感で行ってしまった……」


「よく訓練された者は直感で大抵のことができる。」


「それはそうだが……邪気が溜まったときのように斬ってしまって……」


「そうかもしれないが、どちらにせよ君は冷静に動いているよ。何年も君を見てきた私が言うんだ、間違いないだろう?」


 ヨウは何度か頷き、やがて納得したような顔になった。


「そういえば、最近はそもそも邪気があまり溜まらないんじゃないか?」


「定期的に浄化はしてもらっているが……それはそうかもしれないな。浄化してもらったのはだいぶ前だ」


 ヨウは自分の手をじっと観察し、首を傾げる。


「聖竜の力を持つ者が傍にいると、邪気が溜まりにくくなるのか……?それとも、君の精神状態が良くなったからか?ほら、君が学生のころ……私の家に連れてくるようになったらちょっと良くなったことがあったじゃないか」


 ヨウはそのときのことを思い返した。確かにそうだった記憶がある。ちょっと良くなった、どころではなく、だいぶ良くなったことを覚えている。


「……恵まれた縁が、僕を変えているんだな」


 ヨウは自分の手を見つめたまま、目を細めた。


「人が変わるのは、周囲の環境もあるかもしれないが……一番は本人の意志だ。君が変わろうとしているから変わっているんだよ。」


 ホウは人差し指をぴんと立てて、説くような口ぶりで言った。


「……変わらないな、学生のころも同じことを言われた気がする」


 ヨウはやわらかな微笑みを浮かべた。


「そうだったかな。言った本人はあまり覚えていないものだよ。

 ……やられて悔しかったことはしっかりと覚えているがね?」


 ホウがいたずらっぽく笑うと、ヨウは眉尻を下げて笑った。


「知っている。僕も驚くくらいに昔のことでも覚えているもんな」


「勿論だとも。清算というのは必要なことだからね?」


 二人は暫く昔話をしながら笑いあった。どうやら良い変化だったらしい。ホウは内心で胸を撫で下ろした。


 

 

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