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大変扇情的で素晴らしいと思います

 魔道具開発部の部室に行くと、ルーウェンは既に準備万端整えて待っていた。加えて、私より一足早く出て行った殿下もいた。

 そしてどういうわけか、二人は頬を赤く上気させながら、抱き合っていた。

 ……扉閉めようかな。


「エリィ! 待っていたよ!」


 ルーウェンに見つかってしまった。


「ええと……お邪魔しました?」


 殿下も私に気がついて、渋々といった様子でルーウェンから離れる。え? そういう趣味? というか頬を赤く染めている殿下。大変扇情的で素晴らしいと思います。


「エリン嬢、何か誤解していないか?」


 殿下は熱った体を冷ますためか、軽く襟元を緩めて胸元をはだけさせる。目のやり場に困るじゃん!?

 私は視線をあさっての方向に向けつつ答えた。


「いえ……その……私は何も見ていません」

「誤解しているな。僕はただ、ルーウェンと魔力を混ぜられないか試していただけだ。凄まじく反発したが」

「あ、ああっ、なるほど。そうでしたか」

「それじゃあエリィ。約束通り、実験の続きをしようか」


 ルーウェンがわくわくした様子で魔道具の試作品を用意し始める。


「はい!」


 やってみてわかったことだが、この魔道具開発というのは実に地味な作業だった。

 できそうな手応えを感じて深掘りしても何の成果も得られないこともある。

 ダメかもしれない可能性を1つずつ試して潰していく。

 ルーウェンいわく、実際に全部ダメなことも少なくないらしい。

 それでもできないことからできることを考察して、次の可能性を試す。

 私はまだ始めたばかりで、実感はあまりない。だが、殿下もルーウェンも、こんなことをもう3年続けているのだ。そしてようやく、その実現に繋がるかもしれない片鱗を掴もうとしている。

 ルーウェンとアレコレと話し合っているうちに、殿下は他の用事でもあるのかどこかへ行ってしまった。


「……だめだな。圧縮はできそうだが、これでは実用に程遠い。何より、エリィ以外には使えない」

「魔力量が必要だから、ですか?」

「それもあるが、それ以上にエリィの魔力操作が熟達しているからだ。普通は、勢いよく魔力を放出しろと言われても難しい。だが、君はそれをいとも容易くこなしている。どこでそんなにも使い慣れた?」


 どこでと言われても、心当たりなどない。魔力自体、扱えるようになったのは学園に入学した後だ。


「わからないですけど、そんなに難しいことなんですか?」

「少なくとも、僕がやってもエリィと同じ結果とはならないだろう。方向性を変えた方がいいかもしれないな。力任せ以外の方法を」


 それは今までの検証が水の泡になるのでは……?


「力任せ以外…………あの、殿下から聞いたんですけど、魔力を保存できる鉱石が見つかったと」

「ああ。見つかった。だが、あれには問題が」

「それはわかってるんです。そうじゃなくて、私が見たものは割と小ぶりだったんですけど、吸い込まれるように魔力が入ったんですよ。それって、内部で魔力に圧縮がかかっているんじゃないかって思ったんですけど……どう思いますか?」


 ルーウェンは真顔になったかと思うと、たっぷり5秒は考え込んでから口を開いた。


「まずは、鉱石の調達だな。試作品を殿下に譲っていただこう。それから、実際に濃度が低い僕の魔力を入れて何が起きるかを検証してみよう」

「……えっと、試すってことですか?」

「ああ。ありがとうエリィ。君はやはり素晴らしい女性だ!」

「あ、ありがとうございます……」


 ルーウェンは興奮すると、普段は線みたいに細い目がほんの少し見開く。


「ところで話を戻すが、君の魔力操作について」


 また急に話が変わった。


「え? ああ。ないですよ、心当たり」

「であれば、無意識かもしれないな。例えば、魔力特性が浮遊能力である子が普段から僅かに浮いて生活していた、という例がある。君もそういう魔力特性を持っていたりしないか? そういう事情であれば、魔力量が多いのにも説明がつく。魔力量は使えば使うだけ上限が上がるからな。幼い頃から四六時中消費していたのであれば、元が五等級でも一等まで上がる可能性は充分にある」

「ッ……あ、あり得ません。私の魔力特性は、そういうのでは……」

「そうか……なら、本当に才能ということか。羨ましい限りだ」


 私の魔力特性は、自己暗示。

 それを、普段から使っている? そんなはずはない。私は自分の中にある魔力を感知できるようになったのもここ最近なのだ。魔力暴走だって起こしたことはない。思考を振り払って、気を取り直すと殊更に明るい声を出した。


「まずは殿下に相談ですよね! 今日のところはここまでにしますか?」

「いや。それはそれで興味もあるが、今は力任せの方法をもっと試したい。得られる知見もあるだろうし、何よりエリィは使いたいだろう?」

「まあ……使えるものなら」

「ならば続けよう。そして、寮対抗戦までに形にする」



 その言葉通り、ルーウェンは本当に寮対抗戦に間に合わせてくれた。


 今回の寮対抗戦のルールは、以前殿下が言っていた通り鬼ごっこだ。生徒は皆腕輪を付けており、それを奪われるか破壊された時点で脱落。寮は全部で50あり、最後の1寮が決まったら終了。

 そんなシンプルなルールを前に、私は殿下と身を寄せ合って座っていた。


「しばらくは見つからないと思うよ」


 そう言ったのは、私の左隣に座るロレンス。


「俺としちゃあ、もっと戦いてえんだけどな」


 そう不満気に漏らしたのは、殿下の右隣に座るレオン。


「レオ。行きたいなら一人で行ってきても構わないぞ」


 笑い混じりに言ったのは、私の右隣に座るルキウス殿下。近い……! 体温を感じられるような近さ! いやそれを言うならロレンスもだけど!


「ルキウスを置いてはいけねえだろ。それに、ルキウスに喧嘩売ってくるような相手とは、やっとかなきゃ損だ」


 ちなみに、この場にフィリップとレジーナはいない。二人は二人で逃げるという作戦に決まった。愛の逃避行みたいな感じがして、ちょっと羨ましい。

 一方の私たちといえば、こうして中央校舎裏の端で身を寄せ合って座っている。

 こんなところで呑気に駄弁っていれば即座に捕まりそうなものだが、そうはならない。これこそがロレンスの魔力特性。自分と周囲の存在感を薄くする力。隠密魔法とでも言おうか。

 そう聞いてもよくわからないが、実際に先ほどから目の前を素通りしていく人たちはこちらに一瞥もくれない。

 ちなみに、今日は全員動きやすいように運動着だ。人によっては帯剣もしている。無論、怪我のないように刃の潰された訓練用だが。私も一応、片手剣を持ってきていた。


「エリンちゃん」


 ぼけーっと虚空を眺めていると、ロレンスに声をかけられた。


「はい、なんですか?」

「魔道具開発部に入ったんだよね? どう? ルーウェンとは上手くやれてる?」

「はい! ルーウェン様は私が1つ質問しただけで、10のことを教えてくださるんです。お話していて、とても楽しいですわ」

「あはは、そっか。それは良かった。それじゃあ、勉強よりもそっちに集中した方がいいんじゃない? 学業も大事だけど、魔道具の開発だって、ここでしかできないことだ」

「えっ。お、教えていただいてるの、ご迷惑でしたか?」


 これは遠回しな「もう教師役はやめたい」という意味なのでは。そもそも私が強引に押し掛けているようなものだし。と思ったのだが、ロレンスは笑って首を横に振った。


「違う違う。そうじゃなくてさ。成績優秀者になりたかったのは、魔道具開発部に入るためでしょ。だから、もう頑張る理由がなくなったんじゃないかと思っただけだよ」

「……ロレンス様。そんなことはないです。殿下の側室になるためには、勉強も研究も礼儀作法も全部できないと駄目だと思うので」


 堂々とそう断言した直後、隣で咳払いが聞こえた。ルキウス殿下だ。

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