32・まさかまさかの王子と邂逅なだけ
お久しぶりです。
半年ぶりですかね...長らくお待たせしました!
「僕の名は、イザヤ・ラティニア=フィロテラス。……この国の、第二王子です」
吐息を感じる程の至近距離。
絹布の肌触りの様に滑らかで静か、そして優しい声がアイリスの心をそっと抱擁した。同時に背中を支えられる少女の中で、小さな小さな熱が心臓を包む。
鼓動が、早くなる。
甘酸っぱい感情が胸の内で渦を巻き、次第に感情が昂ぶるのをボンヤリと朧げに感じる。同時に自分の頰が薄赤くなるのを感じた少女は、微かに震えた声で名乗りを返す。
「わ、たくし、は……アイリス=フェルヴェルフォン。フェルヴェルフォンの、領主代理を、しています」
言葉が途切れ途切れになったものの、少年の真紅の瞳を見つめるアイリスはそのことに気付いていない。
互いに挨拶を交わした後に、伯爵令嬢はまるでヴェールが覆っているかの様なあやふやで覚束ない思考を巡らす。
(第二王子……イザヤ、殿下。赤い目に金髪……確かに王族だわ……あれ、王族……王族!?)
不意にアイリスの脳内に、何処かから騒々しい警報音が鳴り響いた。強引に意識を現界へと戻されたため、今の状況を冷静になって考え直す。
そこで彼女は、気付いてしまった。
事故とは言え、王国の第二王子に正面から衝突すると言う万死に値する様な非礼を働いたこと。更に畏れ多くも『気遣い』という『恩』を頂き、伯爵家の領主代理という卑しい身分にも関わらず体を支えてもらっていること。
アーヴェナ=シェイストームなら気に留めなかったが、幼い頃から貴族教育を受けてきたアイリス=フェルヴェルフォンの本能が告げる。
______これは、不味い。
アイリスの思考が光速で巡り、恐ろしく俊敏な動きでそっとイザヤ第二王子が背に回した手を除け、最短で右膝をついて頭を垂れる。
俗に言う『三跪三礼』という最高の敬意を表す、礼儀作法を記憶の底から引っ張り出して身体で表現する。さらに、基本的に王族の瞳を許可もなく視界に入れてしまうのは不敬とされるが、その掟を図らずとも破ってしまったアイリスは現在進行形で尋常でない冷や汗をかいていた。
そして。
イザヤが何かを言おうと口を開きかけたのが感じられた為、せめて罰せられる前に謝罪の言葉を伝えようと必死に頭を下げるアイリス。
「申し訳ありませんっ、殿下とは知らずに不敬を働きました……っ。どうか許してください、卑しい身分では有りますが殿下の聖恩を受けたく存じます……無礼千万と承知の上でございます、どうか、どうか……!」
呼ぶと同時に己の頭を勢いよく大地へを押し付けるアイリス。
本来なら貴族にとって土は不浄と忌避され、頭をつけるなど到底有り得ないのだが______この場合は御構い無しである。
彼女は全力で頭を地に打ち付け、額に土を擦り付けてでもイザヤの恩赦を引き出さねばならなかった。
基本的に、フィロテラス王国では『礼』と『清』を重んじる。故に国王であっても正妻や公認下での側室以外の女性に手を出すと言う狼藉は許されず、卑しい賎民であっても最低限の礼節は弁えているのが普通だ。
そんな国の、天に最も近い御方の子息である第二王子に対して非礼を働くこと。
それすなわち、死を意味する。
まだ色々なことに手を出し始め、領地経営どころか恋愛にすら手が届いていない状況だ。
志半ばで殺されるなどたまるか______と、何としてでも死を回避したいアイリスは必死だった。魔術で回避しようと思えば可能だが、極力後の火種になるような事件は避けたいのである。
「あ、あの……」
それから何秒経っただろうか。
暫くしてアイリスの耳に入ったのは、小さな、そして声の高い少年の呟きだった。
「……許すも何も、案内を待たずに入ろうとしたこちらに非がありますので……あぁっ、どうか、やめてください……」
何処か戸惑いを滲ませている声にアイリスは心の中でそっと安堵した。どうやら、急にここで斬首なんて羽目にはなりそうにないようだ。
しかし完全に安心は出来ない。
第二王子がどのような人物か分からない今、下手に顔を上げて気変わりでもされたら困るのである。
不遜な考えを浮かべつつ。
アイリスはゆっくりと顔を上げた。
中途半端ですがここまでです。
受験期に入ったのでこれから益々更新できなくなりますが、暇つぶしに月一は必ず更新しようかなと思ってます。
長い、長ーい目でご覧下さい。




