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魔装騎兵との遭遇

【森の中 未知なるものとの遭遇】


「……あれは……」


深い森の中。

目の前に立つ、銀色の異形を見つめながら、アテナが小さく呟いた。


「以前、古代遺跡調査班から聞いた、魔装騎兵とかいう奴かもしれんの……」


それは人の姿に似ていた。

だが、人ではない。

全身を覆う銀色の装甲。

鋭く尖った肩。顔にあるのは人間の目ではなく、赤く光る二つの光。


そして、まるで生き物のように動く関節。

 

ミャンジャムは無意識に喉を鳴らした。


「ごくっ……」


その瞬間だった。


カシューン、ガションガション……


魔装騎兵が、ゆっくりと歩き始めた。


「……来るぞ!」


ナッシュが剣を構える。

コヨミも鞭を握り直した。

ミャンジャムも槍を構える。

だが……


「待て……全員動くでないぞ」


アテナが静かに言った。

魔装騎兵は、一定の距離まで近づいたところで足を止めた。


森に、妙な静けさが戻る。

誰も動かない。誰も声を出さない。

先ほどまで森にいた動物たちの姿も消えていた。


ただ、赤く光る二つの目だけが、こちらを見つめている。


「…………」


次の瞬間。


「危ないっ!!」


アテナが叫んだ。


 ドンッ!!

挿絵(By みてみん)

「えっ!?」


ミャンジャムの身体が横へ吹き飛んだ。


いや。吹き飛ばされたのではない。


アテナがミャンジャムの腰へ体当たりをして、無理やり押し倒したのだ。


その直後――


 シュオオオオオッ!!


ミャンジャムが先ほどまで立っていた場所を、赤い光線が突き抜けた。


凄まじい熱量を持った光線は、そのまま森の奥へと伸びていき、木々を焼き払っていく。


 ボオオオオッ!!


「な……」


 ナッシュの顔から血の気が引いた。


「…………」


コヨミも言葉を失っている。

背後では、木々が炎を上げていた。

もしアテナが気づかなければ。


今ごろ、ミャンジャムの身体をあの光線が貫き、蒸発していたかもしれない。


「ミャン!」


「お、お母様……!」


ミャンジャムが起き上がろうとすると、アテナが手で制した。


「動くでない」


「え……?」


「下がっておれ」


アテナは鋭い目つきで立ち上がった。


「ワシがやる」


アテナが一歩ずつ魔装騎兵へ近づいていく。その姿から、先ほどまでの穏やかな母親の雰囲気は消えていた。


静かだった。


だが、その静けさの奥には……凄まじい闘気があった。あまりに濃密なそれは、赤い光として視認できるほどだった


「…………」


魔装騎兵が左腕を動かした。


 ギギギギッ……。


その腕から、一本の鋼鉄製の刃が伸びる。

剣が生えた。

闘気をみなぎらせるアテナ。


(こんなお母様の顔、見たことがない。これが、本気の武闘女神なんだ……)


アテナはそれを見ても止まらない。

むしろ、さらに歩みを速めた。


魔装騎兵の赤い目が再び光る。

だが……


「遅い」


アテナの姿が消えた。

いや。

消えたように見えた。


次の瞬間には、魔装騎兵の懐へ入り込んでいる。


「はあああああっ!!」

挿絵(By みてみん)

 ドゴォンッ!!


アテナの掌底が、魔装騎兵の胴体へ叩き込まれた。


今までミャンジャムとの稽古で見せていた攻撃とは違う。

完全に本気の一撃。


「ギャッ、ギャッ、ギャッ……」


あまりの音量に、遠くの木々に止まっていた鳥たちさえも一斉に飛び立った。



魔装騎兵の身体が大きく宙へ浮いた。

そのまま……


 ドォォォォン!!


およそ百メートル。

魔装騎兵は森の中を吹き飛び、盛り上がった土の上にあった巨大な岩へ激突した。


ビキィッ!


岩に亀裂が走る。

大量の土砂が舞い上がった。


「やった……!さすが、お母様!」


ミャンジャムが思わず声を上げる。


「おぉ、凄いですね」


ナッシュも息を吐いた。


「なんて威力、あれが本気の武闘女神、アテナ様……」


コヨミも、アテナのあまりの強さに安心し、ほっとしたように目を細める。


しかし……


 ガシャン。


「…………え?」


土煙の向こうから、音がした。


 ガシャン……。


そして。


ウィーン、ガシャン。


魔装騎兵が立ち上がった。ただ飛ばされただけだと言わんばかりに、スムーズに起き上がる。


「……嘘!?」


ミャンジャムの顔が固まる。

身体中に傷はある。

装甲も一部が歪んでいる。


だが――

倒れていない。

あれほどの一撃を受けたにもかかわらず。

アテナの表情が変わった。


「致命傷にならんじゃと……」


その言葉に、ナッシュとコヨミも息を呑む。アテナは魔装騎兵から目を離さなかった。



「……距離が空いた今のうちに、全員脱出するぞ!」


アテナの号令とともに、四人は一斉に走り出した。


誰も振り返らなかった。

今の自分たちには、あの存在が何なのか分からない。ただ一つだけ分かっている。


あれは、戦って倒せる相手ではないかもしれない。

少なくとも、今は。


撤退する四人を見送った魔装騎兵は、静かに森の奥に消えていった

          



【クラウン城聖騎士会議室】


数時間後。


聖騎士大隊長のガイルに呼び出された聖騎士たちは、緊急の会議を開いていた。


中央に座るガイルが、アテナの報告を聞いている。


「……つまり、その魔装騎兵とやらは、目から光線を放ったと?」


「ああ、一瞬で森が真っ赤になった」


「そしてアテナ殿の攻撃を受けても、戦闘を継続した……と?」


「そうじゃ、すぐに立ちおったわ」


会議室に、重い沈黙が落ちた。

アテナは、自分が放った一撃について淡々と説明した。


それを聞いている聖騎士たちの顔には、明らかな動揺が浮かんでいる。


アテナの強さを知らない者など、この場にはいない。


「国王よりもアテナを本気で怒らせてはならない」


クラウン城で働く者なら、誰もが知るその言葉


そのアテナが全力で放った一撃。

それを受けても倒れなかった存在。

それが、あの森の中にいる。


「……これは、我々だけで判断する問題ではないな」

挿絵(By みてみん)

ガイルが口を開いた。


「調査部隊を編成する必要がある」


誰も反対しなかった。


その日。

クラウンでは、これまで誰も知らなかった存在についての調査が始まった。

          

アテナをもってしても撃破できなかった、人にあらざるもの。まさに生命を賭けての調査活動になるだろう。



その夜。



【クーパー家の寝室】


ミャンジャムはベッドの中で目を開けていた。


「…………」


眠れない。

目を閉じると、あの赤い光が浮かんでくる。


魔装騎兵。

アテナの全力の攻撃。

それでも立ち上がった、あの姿。


「……怖い」


小さく呟いた。

すると……


「ミャン。眠れんのか?」


隣からアテナの声がした。


「……うん」


ミャンジャムは少し迷ってから答えた。


「だって……お母様の攻撃でも、倒せなかったから……あんなのが存在してるなんて知らなかったから……」


アテナは何も言わなかった。


すると反対側から、ヘパイトスの声が聞こえてきた。


「そうか、そんなにすごい奴がおったのか」


「お父様……」


「確かに、わしが行かんくてよかったな。指どころか腕を折られておったかもしれんな、わはは」


「……もう!」


ミャンジャムは少しだけ頬を膨らませた。いつものヘパイトスだ。


それだけで、ほんの少しだけ心が軽くなる。


「ミャン」


アテナが手を伸ばした。


「魔装騎兵のことは、調査部隊に任せておけばよい」


「…………」


「ワシらは、今までと同じように生活しておればよいのじゃ」


「……うん。そう……だよね……」


ミャンジャムは頷いた。

それでも、まだ少し怖かった。


そんなミャンジャムの手を、アテナが優しく握る。

反対側から、ヘパイトスもミャンジャムの手を握った。


「…………」


両側から伝わってくる温もり。

ミャンジャムは、ゆっくりと目を閉じた。


「おやすみ、ミャン」

「今日は疲れたろ?おやすみ」


「おやすみなさい……お母様、お父様……」


しばらくすると、ミャンジャムの呼吸が穏やかになった。

挿絵(By みてみん)

アテナとヘパイトスは、眠った娘の手を握ったまま、優しく微笑んでいた。


ホーホー……


外では、静かな夜が更けていく。

森で出会った、謎の魔装騎兵。

 

その正体も。目的も。


そして、なぜあの森に存在していたのかも……まだ、誰にも分からない。


ただ。

ミャンジャムにとって今夜は――


両親の温もりに包まれた、穏やかな夜だった。




続く。

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