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森で遭遇したもの

【クラウン城の敷地内】


「せいっ!」

「いやーっ!」

「どらぁぁ!」


昼前の訓練場には、今日も聖騎士たちの声と武器がぶつかり合う音が響いていた。


木造の柵で囲まれた訓練場の中央では、一組の男女が向かい合っている。


「せいっ!」


青い髪をなびかせた少女、ミャンジャムが、両手で握った槍を突き出した。



それを金髪の少年、ナッシュがソードで受け流す。


「甘い!」


「まだまだぁ!」 


ミャンジャムはすぐさま槍を引き、今度は横薙ぎに振るう。ナッシュは一歩下がってかわした。


二人とも、先日の聖騎士任命試験を突破したばかり。


以前とは違う。

今日からは正式な聖騎士として、実戦を想定した訓練を続けている。


「……そこっ!」


少し離れた場所では、ピンク色の髪と大きなコヨーテの耳を持つ少女が、木製の人形に向かって鞭を振るっていた。


パシィンッ!


鋭い音とともに、鞭の先端が人形の胴体を打ち抜く。


「……ふう」


コヨミ。

十八歳のコヨーテ科獣人族。

聴覚に優れた彼女は、周囲の音を常に拾いながら訓練を続けていた。


その耳が、ぴくりと動く。


「……?」


誰かが走ってこちらへ近づいてくる。

しかも、かなり急いでいる。コヨミは鞭を下ろし、そちらへ顔を向けた。

やがて――


「お前ら、ここにいたのか!」


訓練場へ一人の聖騎士が駆け込んできた………ガイルだった。


「どうかしました?」


コヨミが尋ねる。


「お前たちに初任務を持ってきたぞ」


「初任務!?」


ミャンジャムが槍を肩に担ぎながら駆け寄る。


「もう来たの!?」


「正式な聖騎士になったんだ。いつまでも訓練だけしているわけにはいかんだろ」


そう言ってガイルは、一枚の命令書を取り出した。


「ほら」

挿絵(By みてみん)

三人の前で広げられた命令書。

そこには、ミャンジャム、ナッシュ、コヨミの三人の名前が記されていた。


内容はこうだ。

 

クラウン城から北西へ約六十キロ。

そこから広がる森林地帯へ逃げ込んだ二体のランブルベアを捜索し、討伐せよ。

さらに、その下にはもう一つの指示が書かれていた。


任務中は、クーパー夫妻のいずれか一名を同行させ、監視役とすること。


「へぇ……」


ミャンジャムの目が輝く。


「これが私たちの初任務かぁ!」


「浮かれるなよ」


ナッシュが釘を刺す。


「分かってるって!」


そう言いながらも、ミャンジャムの顔は嬉しそうだった。

     


「それなら、ワシが行こう!」


依頼書を見たアテナは、即答した。


「え?」


「初任務じゃろ?かわいい娘たちの晴れ舞台じゃ。ワシがついていくに決まっておる」


「いやいや、アテナ。そこは俺が……」


ヘパイトスが口を挟む。


「お前さんは……」


「俺とて娘の成長が見たいぞ!」


アテナはにっこり笑った。


「だからワシが行くんじゃ」


「いやいや、そうじゃなくてだな……」


「万が一、手や指を傷めたらどうするのじゃ?」


「………むぅ」


結局、ヘパイトスは同行を諦めることになった。


鍛冶師である彼にとって、手を怪我することは致命的だ。


もしもの戦闘に巻き込まれて手を負傷すれば、鍛冶仕事に支障が出る。


宮廷一の鍛冶師のヘパイトスの手は、国にとっても財産なのだ


「……ワシも行きたかった」


そう言って、ものすごく拗ねた顔をしていた。


「ふふっ」


その様子を思い出したアテナは、馬車の手綱を握りながら笑う。


「『どうしてもワシが行く』と言ったんじゃがのう。あやつは最後まで親バカじゃったぞ」

挿絵(By みてみん)

荷台にいる三人から、小さな笑い声が漏れた。


「ヘパイトスさんらしいですね」


ナッシュが笑う。


「うん」


コヨミも微笑む。


「でも……」


ミャンジャムは、自分の槍を握り直した。


「初任務かぁ……」


笑ってはいる。しかし、三人とも武器を手放してはいなかった。


緊張しているのだ。それを察したアテナは、あえて何も言わなかった。


やがて馬車は草原を抜け、指定された森林地帯へと入っていった。

     



【森林地帯】


馬車を降り自らの足で、森の中を捜索すること、一時間。


「……待ってください」


突然、コヨミが足を止めた。


「どうした?」


ナッシュが尋ねる。コヨミは目を閉じ、耳を澄ませる。


「……何か聞こえます」


「何か?」


「大きなものが……二つ」


木々の向こう。地面を踏みしめる、重い音。


ズシン……。

ズシン……。


「間違いありません」


コヨミが鞭を握り直した。


「ランブルベアです」


アテナは三人を見た。


「よし。行ってこい」


三人が振り返る。


「今回、ワシは監視役じゃ」


アテナは腕を組む。


「お前さんたちが本当に危険な状況に陥らない限り、手は出さん」


「分かりました!」


ミャンジャムが槍を構える。


「行こう!」

「おう!」


ナッシュがソードを抜いた。


「はい!」


コヨミも鞭を構える。


「グオオォォォ!」


森の奥から姿を現した二体のランブルベアが、三人へ向かって咆哮した。


「来ます!」


コヨミが鞭を振るう。


 パシィンッ!


ランブルベアの目の前を鞭が走り、その動きを牽制する。


「グオォォ!」


もう一体が、鞭を振るった後のコヨミを狙って突進してきた


ガシィィィン!


勇気を出したナッシュが、そのランブルベアの前に立ち、強靭な爪の攻撃をソードで受け止めた。


「今だっ!」


ミャンジャムが踏み込んだ。


「せぇぇぇいっ!」


槍がランブルベアの脇腹を捉える。


「グオオオオッ!」


怒り狂った一体がミャンジャムへ突進する。


「させるか!」


ナッシュが横から割り込んだ。


ソードでランブルベアの爪を受け止め、その巨体を正面から食い止める。


「ミャンジャム!」


「任せて!」


ミャンジャムが再び槍を構える。


コヨミが鞭で牽制し、ナッシュが攻撃を受け止め、その隙にミャンジャムが攻撃する。三人は自然と、それぞれの役割を理解していた。


一人ではなく、三人で戦う。


その連携によって……


ズシンッ……

ドタッ……


やがて二体のランブルベアは、地面へと沈んだ。


「……やった」


ナッシュが息を吐く。


「やったぁぁぁ!」


ミャンジャムが槍を掲げる。


「初任務、成功です!」


コヨミも笑顔を見せた。少し離れた場所では、アテナが腕を組んで微笑んでいる。


「うむ」


三人の戦いを、最初から最後まで見ていた。


「よくやったのう。ほれ、飲むがよい。喉が乾いたじゃろ?」


「ありがとうございます!」


三人はアテナから飲み物を受け取ると、あっという間に飲み干した


多少の傷はある。

だが、三人は自分たちの力だけで任務を成し遂げた。聖騎士になったばかりの三人にとって、それは大きな一歩だった。



「……ん?」


そのときだった。

ミャンジャムが森の奥へ視線を向ける。


「ねえ……あれ、何?」

挿絵(By みてみん)

「どうした?」


ナッシュもそちらを見る。

木々の向こう。森の奥を――


何か青い、大きな物体が動いている。

ゆっくりと。まるで森の中を進むように。


「なんでしょう……?」


コヨミも目を細める。


「何じゃろうな……」


アテナも静かに見つめている。しかし、その正体までは分からない。



「私、ちょっと調べてくる!」

挿絵(By みてみん)

ミャンジャムが走り出そうとした。


「……止まれ!」


「え?」


鋭い声が響いた。

ミャンジャムが振り返る。

アテナが、青い物体とは別の方向を指差していた。


「……あそこじゃ」


青い物体が去っていく、その右側。

木々と茂みの隙間。

薄暗い森の奥に……何かがいた。


メタリックな身体。

ミャンジャムとほぼ同じほどの背丈。

木々の陰に身を潜めながら、じっとこちらを見ている。


「……!」


三人の表情が変わった。

さっきまでの初任務達成の喜びが、一瞬で消える。


アテナも腕組みを解いた。

その顔から笑みが消える。

静かに。ゆっくりと。戦闘態勢へ移行する。


その瞬間――

メタリックな身体を持つ何かが、動いた。


「……っ!」


森の中に、張り詰めた緊張が走る。四人は、ただその存在を見つめていた。


それが何なのか。誰にも分からない。


ただ一つだけ確かなことがある。

この森で、彼女たちは――

得体の知れない何かと遭遇した。



続け。

仕事などの都合により、明日以降は毎日投稿が出来ません。

水曜日と日曜日の朝6:50分に投稿する予定ですので、今後も読んで頂けると嬉しいです

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