聖騎士見習い
【王都クラウン】
その城下町から少し離れた場所に、ヘパイトスとアテナが暮らす家があった。
あの日、戦火の中から拾われた少女、ミャンジャム・イレイユも、今ではすっかりクーパー家の一員である。
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そして、十歳になったある日。
王都クラウンでは、十歳から聖騎士見習いになることができる。
ミャンジャムは聖騎士の門の前に立つと、大きな声で叫んだ。
「お願いしま~す!」
こうして、ミャンジャムの聖騎士見習い生活が始まった。
「よし! 今日も頑張るぞー!」
元気よく走り出すミャンジャム。
その隣には、同じ年齢の少年がいた。少年の名は、ナッシュ・スターク。名門貴族の家に生まれた少年であり、ミャンジャムと同じ聖騎士見習いだ。
「待てよ、ミャン!」
「なに?」
「今日こそ俺が先にゴールするからな!」
「へへ、負けないよ!」
二人は何かにつけて張り合いながら、毎日の訓練に明け暮れていた。だが……
「ミャン。また走り込みをサボっていただろ? 手を抜くんじゃない!」
訓練を終えたヘパイトスが、ミャンジャムを叱る。
「はーい……」
ミャンジャムは頬を膨らませると、小さな声で呟いた。
「クソジジイめ……」
「おい!」
それを聞いたナッシュがすぐに注意する。
「父親とはいえ、ヘパイトス様にクソジジイはないだろ!」
「だって、走るの疲れるんだもん」
「そういう問題じゃないぞ!」
「だーってさ、いっつも口うるさいんだよ?」
「お前なぁ……後で怒られろ!」
「はーい。分かったわよ」
ミャンジャムは反省しているような、していないような返事をした。
そんな毎日を過ごしていたある日。
ミャンジャムは、ナッシュと二人で王都の外へ出ていた。
本来、聖騎士見習いは王都クラウンと城下町から外へ出てはいけない。それでもミャンジャムには、どうしても行きたい場所があった。
「ねえ、ナッシュ!」
「なんだよ?」
「こっちこっち!」
無造作にナッシュの手を掴むミャンジャム。彼女に特別な想いはなかったが、不意に手を握られ顔を赤くしたナッシュ
「おい、待てって!」
ミャンジャムが向かっていたのは、ベリーの群生地だった。
アテナの大好きなベリー。それを自分で収穫して、母親に持って帰りたかったのだ。
二人で森を歩いていると、ナッシュが尋ねた。
「お前も聖騎士を目指してるのか?」
「もちろん!」
ミャンジャムは胸を張った。
「お父さんのようになるって決めてるの!」
「任命試験は十六歳からだぜ。それまでに強くならないとな」
「絶対受かるからね!」
「試験は聖騎士様に相手をしてもらって、認められたらなれるらしいぜ」
「勝たなくても良いの?」
「バカか!? 見習いが騎士様に勝てるわけないだろ?」
「あはは。それもそうだね」
ナッシュは呆れながらも、歩き続ける。
「お前の父さん、ヘパイトス様とは戦いたくねーな」
「お父さん、そんなに強いの?」
「騎士様の中ではナンバー2だからな」
「へ~。最強って誰なんだろ?」
「ガイル様だよ。強えーらしいぞ」
「お父さんより強いんだ」
「でもな、一番強いのはアテナ様なんだぜ?」
「どういうこと?」
「アテナ様は騎士じゃないんだ。冒険者だって話だぜ。お前、娘なのに知らないのか?」
「うん! 難しい話は頭が痛くなるからね♪」
「……お前なぁ」
ナッシュはため息をついた。
「でも、アテナ様は聖騎士じゃないから試験で手合わせすることはないから、まだ助かるな」
「うん。お父さんでも凄く強いのに」
そんな話をしながら、二人はベリーの群生地へと辿り着いた。すると……
「あ……」
そこには、一人の女の子がいた。頭には花を乗せ、涙を流している。
「お母さん……居なくなったの……。お腹が空いたの……」
「大丈夫?」
ミャンジャムは心配そうに近寄る。
「お腹空いてるの?」
そう言って、背負っていたリュックを下ろした。
「お弁当、残ってたかな?」
その瞬間だった。
「う、うわあぁぁぁ!?」
ナッシュの悲鳴が響いた。
「ナッシュ!?」
振り返ったミャンジャムが見たものは……
先ほどまで少女だった存在が、大きな口を開いてナッシュに襲い掛かる姿だった。
「きゃあああああ!!」
人間の姿に擬態した、食人植物。その巨大な口がナッシュへ迫る。
「させるかぁっ!」
ミャンジャムは飛び込んだ。アテナから教わった格闘技。小さな身体から繰り出される拳が、食人植物の身体を何度も打ち抜く。
「はあっ! やあっ!」
「ぐぎぎ……」
だが、倒れない。
ミャンジャムにはソードがない。格闘だけでは、決定的な一撃を与えられなかった。
「ミャン……もう、無理だ……」
ナッシュも消耗している。
ミャンジャムも息を切らし始めた。
(このままじゃ……)
二人が追い詰められた、その時……
「ザシュッ!」
「ギニャァァァァァ!!」
食人植物が断末魔を上げた。危機を感じた二人を救ったのは、一人の聖騎士だった。
そして二人は、その聖騎士の馬に乗せられ、王都クラウンへと戻ることになった。
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王都の門が見えてくる。
「帰ったら怒られちゃうね……」
「う、うん……」
ミャンジャムもナッシュも、親に知られれば説教されることを覚悟していた。そんな二人に、聖騎士は笑顔を向ける。
「任せておけ。俺がキミたちの両親に上手く言ってやろう!」
「いいんですか?」
「怒られたりしない?」
「任せておけ。こういう時の為に……」
聖騎士は胸を張った。
「俺がいる!!」
それは、二十代半ばのガイルだった。
王都の門番にも、
「俺が連れていたんだ。ん? ピクニックだよ♪」
と、軽い調子で言ってのける。こうして、二人はそれぞれの親へ引き渡された。
「ガイルに誘われてピクニックに行っていたらしいな?」
ヘパイトスがミャンジャムを見る。
「……う、うん……」
「本当か? 嘘はついていないな?」
アテナも優しく問い掛ける。
「正直に話して良いのよ?」
「……」
ミャンジャムの目から、涙がこぼれた。
「ごめんなさい!」
そして、泣きながら話した。
「あのね……お母さんにベリーを届けたかったの!」
「優しいのね、ミャンジャムは……でも、嘘をつくのはダメよ?」
アテナはそんなミャンジャムを優しく見つめる。
ヘパイトスも、
「やれやれ……仕方のない子だ」
と、困ったように笑った。
その日。ミャンジャムは、正直に話すことの大切さを学んだ。
もう、嘘は言わない。
そう、流れる涙に誓った。
そして――。
彼女は真っ直ぐ育った。
六年後。
ミャンジャムは十六歳となり、聖騎士任命試験を受ける日を迎えていた。聖騎士になるための最後の試験。
その相手をしてくれるのは――。
「……お母さん?」
ミャンジャムの前に立っていたのは、アテナだった。
「さてさて、ミャンジャムの成長、見させてもらおうかね?」
本来、聖騎士ではないアテナが試験官になることは認められていないのだが、アテナは国王に頼み込み、特別にミャンジャムの試験官を務める許可を得ていた。
そして今。
この国で最強の格闘家を前にして……ミャンジャムは、震えていた。
「…………お母さん、怖い」
聖騎士になるための最後の試練が、始まろうとしていた。いつも優しかった母アテナの楽しそうな笑みの奥にある鋭い目に、ミャンジャムは恐怖を覚えた
続け




