聖騎士との出会い
【世界情勢】
惑星エリスアでは、人族と、魔物を従える魔族との戦争が、いつどこで起きてもおかしくない。
大きな国同士が争うこともあれば、突然、魔族の軍勢が小さな町を襲うこともある。
私が暮らしていた町は、とても小さな町だった。それでも、町の人たちは毎日を懸命に生きていた。
朝になれば仕事へ向かい、昼になれば食事をして、夜になれば家へ帰る。
特別なことなんて何もない。
だけど、私はそんな毎日が好きだった。そんな小さな幸せで満足していた。ずっと、この町で暮らしていくのだと思っていた。
――あの日までは。
突然、大きな音が聞こえた。
何が起きたのか分からなかった。
外へ出てみると、町の向こうから黒い煙が上がっていた。
そして、炎が見えた。
「……え?」
逃げ惑う人たち。
泣き叫ぶ声。
建物を壊しながら進んでくる大きな魔物。
その魔物たちを率いていたのは、人とは違う肌の色をした魔族たちだった。
あっという間だった。
さっきまで私が知っていた町が、炎に包まれていく。
道には倒れた人たちがいる。
いつも遊んでいた場所も、いつも通っていた道も、全部が怖い場所に変わっていた。
町を守るために警備隊の人たちが魔物と戦い始めてくれたけど……響いてくる警備隊の悲鳴
私は怖くなって走った。
どこへ行けばいいのかなんて分からない。誰が助けてくれるのかも分からない。ただ、魔物から離れたかった。
「……誰か……助けて」
そう言いたかった。
でも、声が出なかった。
私は一人で歩き続けた。
町の中を抜けても、逃げる人の姿はほとんどなかった。時々聞こえるのは、遠くから響く戦いの音だけ。
お腹は減り、喉は乾き、足は棒のようになっていた。もう、そんなに歩けない。あの角を曲がった先で、次に私の前に現れるのは、私を助けてくれる人なのだろうか。
それとも……怖い魔物なのだろうか。そんなことを考えながら歩いていた私の前に……
大きな緑色の魔物が二体現れた。
「……っ!」
足が止まった……大きい!
私なんか、一瞬で食べられてしまいそうだった。
怖い……逃げなきゃ。
そう思ったのに、足が動かなかった。
魔物は私を見つけると「ニヤリ」と笑い、こちらへ近づいてくる。私の目の前まで来た。
私は、その場で目を閉じた。
(もう、ここで終わるんだ)
そう思った。
「バキィィン!」
突然、大きな音が響いた。
「……?」
恐る恐る目を開ける。
そこには……
大きな魔物の前に立つ、一人の騎士さんがいた。その後ろに倒れているのは、さっき私を見て笑っていた魔物たち
そして、その騎士さんの手が私の頭にそっと置かれた。
「怪我はないか?」
低くて優しい声だった。
私は何も言えず、その人を見上げた。騎士様は鎧を身に着け、武器を持っている。怖いはずなのに……なぜか怖くなかった。
その人は私を見つめると、少しだけ優しく笑った。
「……ついてくるか?」
私は小さく頷いた。
行く場所なんて、もうどこにもなかったから。その人についていくしかなかった。
「生存者はもういない!引き上げるぞ!」
騎士さんが仲間たちに声を掛ける。そして私を馬に乗せると、自分もその後ろへ乗った。
「しっかり掴まっていろ」
私は言われた通り、その人の腰に両手を回した。馬が走り出す。燃え続ける町が、どんどん遠くなっていく。
私は何度も後ろを振り返った。
私が生まれ育った町。
私が暮らしていた家。
一緒に暮らしていた人たち。
全部が、炎の向こうへ消えていった。私は、その人の背中に顔を伏せた……怖かった。そして、悲しかったんだ。
でも、不思議と少しだけ安心していた。この人がいるから。騎士さんの身体は温かかった。
それから数時間。
私を乗せた馬は、ある家へとたどり着いた。
「よし、いい子だ。大人しく小屋に入っていろ。後で食べ物を持ってくるからな」
騎士さんは馬から降りると、馬小屋に馬を入れて、家の扉を開けた。
「帰ったぞ」
すると、家の中から綺麗な女の人が出てきた。
「あら、おかえりなさい……おや?小さなお客さんね♪」
女の人は騎士さんの後ろにいる私を見ると、一瞬驚いていたけど、すぐに優しい笑顔になった。
「まあ……」
女の人は私のところへ近づいてきた。そして、汚れた私の服や顔を見る。
「寒かったでしょう?」
「う、うん……」
そう言って、女の人は私を家の中へ招き入れた。
暖炉の火が暖かい。
私はその暖かさに包まれて、初めて自分の身体が冷え切っていたことに気がついた。
女の人はキッチンへ向かう。
しばらくすると、湯気の立つカップを持って戻ってきた。
「体、冷えてるでしょ。これでも飲みなさい」
私は差し出されたカップを見つめた。甘い匂いがする。
「……これ……?」
「ミルクよ。熱いから注意して飲んでね」
女の人は優しく微笑んだ。
私は恐る恐るカップを両手で受け取った……温かい。
その温かさが、手から身体へ少しずつ広がっていく。
一口飲んだ……甘かった。
そして――
なぜだか、涙が出た。
「……おいしい……」
女の人は何も言わず、ただ優しく笑っていた。その様子を見ていた騎士さんが、私の前に座った。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」
私は顔を上げる。
「名前は?」
私は、自分の名前を答えた。
「……ミャンジャム。ミャンジャム・イレイユです」
「そうか。ミャンジャムか」
騎士さんは少し考えるように私を見つめた。そして、優しい声で言った。
「ミャンジャム。今日から俺の娘にならないか?」
「……え?」
私は言葉の意味が分からなかった、娘。私が?この人の?
女の人も嬉しそうに微笑んでいた。
「もちろん、私も歓迎するわ」
私は二人の顔を交互に見た。
今日、私は何もかも失った。
帰る場所もなくなった。
家族もいなくなった。
そう思っていた。
だけど――
今、私の目の前には二人の人がいる。暖かいお家がある。
そして、私の手の中には、まだ温かいミルクがある。私はカップをぎゅっと握った。
「……はい。ありがとう」
私は小さな声で答えた……今日から私は、この二人の家で生きていく。
そして――
私は騎士さんを見上げた。
あんなに強くて、あんなに優しい騎士。
「私も……」
小さく拳を握る。
「私も、あんなかっこいい騎士さんになるんだ」
それが、私……ミャンジャム・イレイユの始まりだった。
続け




