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第二十六話 炉を作る場所


 班分けから三日。


 ローデン村の空気は、目に見えて変わり始めていた。


 以前のように、誰もが全部をやるわけではない。


 見張り班は見張りを回り、加工班は保存と在庫確認を行う。建築班は木材を運び、水路班は流れを確認する。


 役割が決まったことで、人の動きに迷いが減っていた。


「見張り交代!」


 朝、カインの声が広場に響く。


 以前より通る声だった。


「北側二人、東一人! 槍確認してから行け!」


 若い村人達が返事をし、持ち場へ向かう。


 クロノは、その様子を少し離れた場所から見ていた。


「慣れてきたね」


 隣で板を抱えていたミリアが言う。


「うん。カインがちゃんと声を出してる」


「最初は絶対向いてないと思ってた」


「本人も思ってたんじゃないかな」


 二人が話していると、広場の向こうで怒鳴り声が上がった。


「だからそこは乾かしてから積めって言ってんだろ!」


 ドグだった。


 木材班の村人達が慌てて丸太を動かしている。


「湿ったまま重ねると腐る! あと歪む!」


「分かってるって!」


「分かってねぇから言ってんだ!」


 クロノは少し笑う。


「馴染んだね」


「うるさい方向でね」


 ミリアが呆れた顔をした。



 村の端では、炉予定地の整備が始まっていた。


 石を並べ、地面を踏み固め、水路からの距離も確認する。


 ガルムが地面へ鉄杭代わりの木を打ち込みながら言う。


「ここは悪くねぇ」


「本当?」


 クロノが聞く。


「風が抜ける。地面も固い。水も遠すぎねぇ」


 ガルムは周囲を見る。


「火扱うなら、最低限これくらいは要る」


 リッカは近くで縄を張っていた。


「煙も流れるしな」


 彼女はそこで少し顔をしかめる。


「ただ、狭い」


「広げる?」


「今じゃねぇ」


 ガルムが即答した。


「まずは回る形を作れ」


 クロノは頷く。


 最初から完璧を目指さない。


 今のローデン村に必要なのは、“動き続ける形”だった。



 少し離れた場所では、ルナが大量の石を運んでいた。


 普通なら荷車を使う量だ。


 だが、ルナは両腕で抱えたまま歩いている。


 村人達がもう驚かなくなっている辺り、感覚が麻痺し始めていた。


「ルナ! そっち!」


 建築班の若者が声を上げる。


「ここでいいか」


「おう!」


 ルナは石を下ろす。


 地面が少し沈む。


 若者が苦笑した。


「相変わらず力おかしいな」


「そうか?」


「そうだよ」


 ルナは少し首を傾げた。


 以前なら、その反応だけで場が凍っていたかもしれない。


 今は違う。


 村人達は、ルナを“怖い存在”だけでは見なくなっていた。



 昼。


 作業の休憩中、建築班の男達が木杯を回していた。


 中身は、昨日の“酒”である。


 ドグが飲み、顔をしかめた。


「……不味ぇ」


「そんなにか?」


 カインが飲む。


 数秒止まる。


「うわ、苦っ」


「だろ」


 リッカが呆れた顔をする。


「だから言ったろ。失敗した薬草水だって」


「でも前よりはマシなんだぞ!」


 村人側も必死だった。


 ルナも木杯を渡される。


 少し匂いを嗅ぐ。


 飲む。


「……苦い」


「お前昨日もそれ言ってただろ!」


 カインが笑う。


 ルナは真顔だった。


「苦いものは苦い」


 クロノは少し笑いながら木杯を見た。


 ちなみに、ルナは酒に弱い。


 ただ、この酒は度数が低すぎた。


 酔う前に“不味さ”が勝っている。



 その時だった。


 見張り台の方から声が飛ぶ。


「北側、異常なし!」


 カインが反応する。


「巡回戻ったか!」


 以前より、村の動きが早い。


 誰が何をするか決まっているからだ。


 クロノは、その流れを見ていた。


 まだ未完成。


 穴も多い。


 だが、“崩れない形”には近づいている。



 夕方。


 炉予定地には、土台となる石が並び始めていた。


 ガルムが腕を組む。


「ようやく形になるな」


「時間かかった?」


「辺境で炉作るんだ。むしろ早ぇ」


 ドグが近くで笑う。


「普通はもっと酷ぇぞ」


 クロノは石組みを見る。


 炉。


 火。


 鉄。


 今まで、この村には無かったもの。


「ここから変わりそうだね」


 クロノが小さく言う。


 ガルムは少しだけ黙った。


 それから、低く呟く。


「火が残ればな」


 クロノは、その言葉を聞いていた。


 火は便利だ。


 だが同時に、消える。


 だから守る必要がある。


 村も、同じだった。

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