第二十五話 班を作る
焼けた荷車を見つけた翌日。
ローデン村の空気は、いつもより静かだった。
盗賊が近くにいる。
それを知ったことで、不安は広がっている。だが、以前のような混乱にはなっていなかった。
見張りは増やした。
槍は入口近くへ集めてある。
夜番も整理し、水路や加工の作業量も少し落としていた。
止める場所を決めている。
それが、今のローデン村だった。
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朝。
広場に村人達が集まっていた。
クロノは板を持ち、全員を見回す。
「昨日見つけた商隊は、盗賊に襲われていた」
ざわめきが広がる。
「規模はまだ分からない。でも、数人じゃない可能性が高い」
村人達の表情が硬くなる。
クロノはそこで言葉を止めなかった。
「だから、役割を分ける」
カインが腕を組む。
「班ってやつか」
「そうだね」
クロノは頷いた。
「全部を全員でやるのは、もう限界だ」
以前のローデン村は、それでも回っていた。
いや、正確には“回していた”。
疲れても、足りなくても、とにかく全員で埋める。
だが、それでは崩れる。
「だから分ける」
クロノは板へ線を書く。
「農作業班。加工班。見張り班。建築班。鍛冶班。水路管理班。それと運搬班」
「多くねぇか?」
村人の一人が言う。
「人足りるのかよ」
クロノは静かに頷いた。
「足りないから分けるんだよ」
広場が少し静かになる。
「全部を全員でやる方が、先に潰れる」
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ミリアが板を覗き込む。
「加工班は今まで通り?」
「少し変える」
クロノは答えた。
「確認役を固定する。作業した人間とは別に確認する形にしたい」
ミリアは少し考える。
そして頷いた。
「……分かった。確認担当を分ける」
「抱え込みすぎないでね」
クロノが言う。
ミリアは少し嫌そうな顔をした。
「分かってる」
「本当に?」
「……善処する」
カインが吹き出す。
「全然分かってねぇ顔してるぞ」
「うるさい」
だが、少しだけ空気が軽くなった。
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ゲルドが腕を組む。
「農作業は誰が見る」
「ゲルドにお願いしたい」
「老人使いが荒いな」
「経験が必要だからね」
ゲルドは鼻を鳴らした。
だが、断らない。
「水の配分はハンスにも見てもらう。若い連中も数人固定したい」
「エダン辺りか」
「うん。畑仕事慣れてるしね」
少し離れた場所で呼ばれたエダンが驚いた顔をする。
「お、俺か?」
「若い側のまとめ役を頼みたい」
エダンは慌てたように頭を掻いた。
「いや、そんな大層な……」
「ゲルド一人だと負担が重い」
クロノが言う。
「手伝ってほしい」
エダンは少し黙り、それから頷いた。
「……分かった」
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「建築と木材は?」
ドグが聞く。
「君に頼みたい」
「俺か」
「支柱、木材、炭焼き。全部繋がってるから」
ドグは少しだけ笑った。
「……まあ、嫌いじゃねぇ」
「道はどうする」
ゲルドが聞く。
広場の空気が少し変わる。
今のローデン村にとって、道は特別だった。
外へ繋がる道。
だが同時に、危険も呼び込む。
クロノは少し考えた後、口を開く。
「完全には止めない」
村人達が顔を上げる。
「でも急がない。まずは炉と防衛を優先する」
ドグが頷く。
「妥当だな」
「建築班から数人だけ回す形にする。見張り付きで、守れる範囲まで」
「伸ばしすぎねぇのか」
カインが聞く。
「今はね」
クロノは頷いた。
「守れない道を作る方が危ない」
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ガルムは板を見る。
「鍛冶班は少人数でいい」
「理由は?」
「炉がまだ無ぇ」
即答だった。
「道具も設備も足りねぇ。今は準備段階だ」
クロノは頷く。
「分かった」
「だが、金具は急ぐべきだ」
ガルムは続ける。
「槍も荷車も、木だけじゃ限界がある」
「炉完成までは補強中心だね」
「そうなる」
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カインが板を覗き込む。
「じゃあ俺は?」
「見張り班だね」
クロノは迷わず言った。
「戦闘と警戒。初動も任せたい」
カインが少し黙る。
「……俺がまとめるのか」
「できそう?」
クロノが聞く。
カインは少し考え、それから頭を掻いた。
「上手くは分からん」
「うん」
「でも、やる」
返事は早かった。
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その時だった。
「酒は?」
広場が静かになる。
言ったのはドグだった。
「……酒?」
ミリアが聞き返す。
「休む場所も必要だろ」
ドグは当然のように言う。
「働くだけじゃ、頭死ぬぞ」
村人達がざわつく。
「酒なんか作る余裕あるのか?」
「後回しだろ」
クロノは少し考えた。
だが、すぐに否定はしなかった。
「必要だね」
ミリアが目を丸くする。
「本気?」
「休むための場所はいる」
クロノは穏やかに言った。
「働き続けるだけだと、結局崩れる」
ドグが少し笑う。
「分かってんじゃねぇか」
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昼頃。
村の端では、簡易酒造の話が始まっていた。
と言っても、大層な物ではない。
果実を漬けた酒。
以前から村にあったものだ。
ただ――味は酷い。
「一応、酒だ」
村人が木杯を差し出す。
ドグが飲む。
数秒止まった。
「……薄い」
ガルムも飲む。
「苦ぇだけだな」
リッカが一口飲み、真顔で言った。
「これ酒じゃなくて失敗した薬草水だろ」
村人達が地味に傷つく。
「そこまで言うか!?」
「前よりはマシなんだぞ!」
ドグが顔をしかめる。
「前はもっと不味かったのか……?」
絶妙に空気が重くなった。
ルナも木杯を渡される。
少し匂いを嗅ぐ。
飲む。
「……苦い」
カインが吹き出した。
「お前はどうなんだよ!」
「苦いものは苦い」
真顔だった。
クロノは少し笑いながら木杯を見る。
「でも、改善はできそうだね」
「樽が悪ぃ」
ガルムが即答する。
「温度管理も雑だ」
リッカが続ける。
「発酵が死んでる」
ドグまで乗る。
クロノは、そのやり取りを聞いていた。
不味い。
でも、終わりではない。
改善できる。
それは酒だけじゃなかった。
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夕方。
班分けされた村人達が、それぞれの場所へ散っていく。
見張り班は槍確認。
建築班は木材整理。
加工班は在庫確認。
水路班は流れを見に行く。
全部を、クロノ一人がやっているわけではない。
それぞれが動き始めている。
クロノは、その光景を静かに見ていた。
ローデン村は、少しずつ“村の形”を覚え始めていた。




