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第十八話 回すための休み


 牙槍の破損が見つかってから二日。


 道作業は止まったままだった。


 加工小屋では固定部分の確認が続いている。干し台も以前より量を減らしていた。


 止めている。


 意図して。


 それが今までとの違いだった。


「……なんか、変な感じだな」


 カインが空を見ながら言った。


 今日は見張りだけ。道作業もなければ、武器の試作も最低限しかない。


 手が空いている。それが落ち着かなかった。


「暇か?」


 近くの男が笑う。


「いや……暇っていうか」


 カインは頭を掻いた。


「止まってる感じがする」


 その言葉を、クロノは少し離れた場所で聞いていた。


「止まってるわけじゃないよ」


 ゆっくり近づきながら言う。


「整えてるだけだね」


 カインが眉をひそめる。


「同じじゃねえのか?」


「違うよ」


 クロノは笑った。


「止まると、回らなくなる。整えると、また回る」


 カインは少し考える。


「……分からん」


「だろうね」


 クロノはあっさり頷いた。


「でも、前より疲れてないでしょ」


 カインは反射的に否定しかけ――止まる。


 確かに、肩の重さが少し違った。


 ここ数日は、夜になると腕が上がらなかった。だが昨日は、少し余裕があった。


「……まあ、ちょっとは」


「それが大事だよ」


 加工小屋では、ミリアが確認済みの槍を並べていた。固定方法を書き換えた板も横に置かれている。


「こっちは問題なし」


「そっちは?」


「まだ少し緩い」


 確認役の村人が返す。


 以前なら、ミリアが全部見ていた。


 今は違う。


 隣で確認している若い男が、固定部分を押さえながら言った。


「これくらいか?」


「もう少しだけ締める。締めすぎると割れる」


 教えながら、動かしている。


 クロノは入口からその様子を見て、小さく頷いた。


(任せ始めてるね)


「見てるだけか」


 後ろから声がした。


 ルナだった。


「少しね」


 クロノは振り向く。


 ルナは加工小屋の中を見る。


 村人たちが話しながら動いている。怒鳴り声はない。焦った空気も、前より少ない。


「……静かだな」


「いい状態だからね」


「休んでいるのにか」


「休むのも必要だからね」


 ルナは少しだけ眉を寄せた。


「弱くならないか」


 クロノは少し笑う。


「壊れる方が弱いよ」


 ルナは黙る。理解は、まだ半分くらいだった。


 龍人の里では、強い者ほど動いた。止まるのは弱さだった。


 だが、この村は違う。


 止まることで、崩れなくなっている。


「……変だ」


「そうだね」


 クロノは頷く。


「でも、前と同じにはしたくないからね」


 ルナは、その言葉を少しだけ考えていた。


 昼頃になると、村の空気はさらに緩んでいた。


 加工を終えた村人たちが、水路の近くで座っている。誰かが干し肉を齧り、別の誰かが笑っていた。


「最近、飯ちゃんとしてんな」


「前は水を運ぶだけで終わってたからな」


「肉が残るとか意味分からん」


 そんな声が聞こえる。


 クロノは少し離れた場所から、それを見る。


 働いている。


 でも、生きるためだけではなくなってきている。


 その時だった。


「おい、クロノ!」


 カインが手を振る。


「なんだい?」


「ルナが困ってるぞ」


 クロノがそちらを見る。


 ルナの周りに、子供が集まっていた。


「姉ちゃん強いんだろ!」


「槍やって!」


「狼倒したやつ見たい!」


 ルナが珍しく困った顔をしていた。


「……囲まれてるね」


 クロノが少し笑う。


 ルナは助けを求めるように、ちらりとクロノを見る。


 その視線に、クロノは少し目を細めた。


「少しくらいなら、いいんじゃない?」


「……何をだ」


「教えるの」


 子供たちの目が輝く。


「やった!」


「すげえ!」


 ルナは少しだけ黙る。


 それから、小さく息を吐いた。


「……壊しても知らんぞ」


「壊れる方が悪い!」


 子供が笑う。


 木の棒を持たされる。


 ルナはしばらくそれを見ていた。


 どう教えればいいのか分からない。そもそも、教えたことがない。


「……こうだ」


 ぎこちなく構える。


 子供たちが真似をする。


「違う!」


「腕が逆!」


「足!」


 気づけば、ルナの声が少し大きくなっていた。


 クロノは、その様子を見ていた。


 少し前まで、ルナは村の外側に立っていた。


 だが今は違う。


 子供たちが笑っている。ルナも、完全ではないが、その輪の中にいる。


 カインが横に来る。


「……なんか、普通だな」


「誰が?」


「ルナ」


 クロノは少し考え、それから笑った。


「普通だよ。強いけどね」


 日が傾き始める。


 道作業はまだ再開しない。加工も量を抑えたままだ。


 だが、村の空気は悪くなかった。


 無理をしていない。


 誰かが壊れそうな空気もない。


 止める場所を、決めている。


 クロノは、水路の流れを見る。


 水は、急がない。


 だが止まらない。


「……これくらいがいいね」


 小さく呟き、頬がゆるむ。


 その横で、ルナが子供に囲まれながら、少し困った顔をしていた。

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