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確かに大人しい馬なんだろうなという印象を受ける。
誰を乗せてもお行儀よく歩く姿はきちんと訓練されている証拠。
今は森の中に入ったところ。
湖はきっとすぐそこだろう、水の匂いが漂ってきた。
森の中を馬の荒い声だけが聞こえる中、突き進んでいく。
日が差し込む道中はとても心地がいい。
しばらく進んでいくと、突然開けた場所に着いた。
その光景は、絶景。
とても美しい湖が目の前にあった。
「もう終わり?」
「ヒフン…」
アムが止まるとこの子も止まった。
だけど少しだけ名残惜しそう。
馬から降りようとすると、アムが手を掴んでくれた。
「アム、少しこの子借りてもいいですか?」
「?いいよ」
馬のお尻を叩いて声をかける。
「目の届く場所なら自由にしていいわよ」
「ヒフン!!」
「わっ!」
バシュンッ!と音がしたと思ったらもう馬はいなかった。
姿を追うと好き勝手に駆けている馬がいた。
とても気持ちよさそうに自然を感じてる。
「ふふっ」
可愛い子。
「僕たちも少し歩こうか」
「はい」
肘に手を乗せてゆっくりと歩き出す。
広大な湖に青々とした景色。
「好きです、この場所」
「僕も」
ゆったりとした時間が流れる。
「ボートはないんですか?」
「ないなぁ…乗りたかった?」
「はい」
「じゃぁ今度はボートがある湖に行こう」
「楽しみです」
「僕も」
どうしてか足が止まった。
不思議に思い見上げると、なんとも言えない表情をしていた。
「どう聞けばいいか考えていたんだ」
「?はい」
「でも…なにも思い浮かばなくて…」
私を知る為の質問かな?
「分からないから直接聞くことにした」
逆光でアムの顔がよく分からなくなった。
「どうやって全てを操作したの?」
一瞬、なにを言われているのか分からなかった。
だけど、背後にいる護衛の方が警戒して私に近付いてきて理解した。
この間した偽造工作のことを聞かれているのだと。
「私はアムのことを知る努力をしています」
「うん、ありがとう」
「いいえ、ですが私の全てを教える努力はしていないのですよ」
「…」
ラナ・サールビーの人生を教えることは簡単だ。
だけど私の人生を教えることをしようとはしていない。
むしろラナ・サールビーのことしか教えていないのが現状だ。
「どうしたら教えてもらえる?」
「どうでしょう?教える気にすらなっていません」
「っ………そ、っか………」
私のことを教えることは簡単だ。
スラスラと答えられる自信がある。
教えることに抵抗している訳でもない、教えた後、信じてもらえないのが面倒で教えないだけ。
「答えて頂きましょう」
チャキッ…と剣を取り出す音がした。
ゆっくり振り向くと護衛の方たちが剣を持っていた。
「っ、バートン!やめて!」
「殿下は下がっていてください」
私の答えは決まっている。
「なにが知りたいですか?」
「全てです」
「全て知り得たのでは?」
「直接お聞きしたい」
であれば真実を伝えよう。
「300年前にヘザリントン国で生まれました、両親は魔人と獣人でした。とても仲睦まじい二人は愛情を込めて私を育ててくれた、そんな両親のように愛を伝える相手が欲しいと思い、子ども作り──」
「戯言は結構」
戯言は今や真実となっている。
「これがラナ・サールビーの真実です」
「…」
「知っているでしょう?」
「なにを隠しているのですか」
「アムとの言葉遊びを本気に取ったのですか?」
「っ…私は真剣に問いています」
「私も真剣にお返ししています」
「…」
「…」
抜いた剣は振り下ろされることはない。
むしろ鞘の中へと戻っていった。
「私はあなたを警戒し続けます」
「結構ですよ」
それで不具合など起きない。
「バートン、二度とラナに剣を向けるな」
「了承できません」
「命令だ」
「了承できません」
やっぱりボートに乗りたかったと湖を見て思う。
「私は殿下をお守りすると誓ったのです」
「ラナは危険じゃないよ」
「そうでしょうか」
「ラナは隠してるだけ、ただそれだけだよ」
「その方法が危険なのです」
「……うん、分かってる」
「……なるべく剣は向けないようにします」
「ありがとう」
話は終わったのか会話が止まった。
「やっぱりお弁当は必須ですね」
「………ふふっ、そうだね」
散策が再開されたけれど、どこか空気がぎこちない。
そんな中、新鮮な空気をめいっぱい吸って自然を堪能していた。
「ラナを知ると、知りたいことが増えていくね」
護衛の方たちは大勢いる。
それならみんなでご飯を食べられるかも。
「どうせなら酒盛りにしませんか?」
「え?う、うん」
「良ければ護衛の方たちも」
「?分かった」
湖の淵に行き、大きなラグを取り出す。
様々なクッションも。
そこに酒盛り用の食事を取り出して配置していく。
うん、完璧。
「みなさんもどうぞ」
アムを座らせて横に座る。
「座って」
アムが命令するとおずおずと座り出す護衛たちとバートンと呼ばれていた男の人は一つずつ毒見を始めた。
「今日はいい天気なんです」
「うん?」
「いい天気に大勢の人、酒盛り日和です」
「ふはっ…!そうだね」
「どんな味のお酒が好きですか?」
「甘いお酒なら飲めるよ」
「それでしたらこちらを」
「ありがとう」
「毒見を」
毒見を終えるとお酒を口にしたアムは驚きの顔をしたけど、この顔はよく見てる。
私の物を口に入れるとその顔になるから。
「おいしい…」
アムが楽しそうに食事に手を付けると護衛の方たちも食べ始めた。
みんなも驚愕の表情をする。
美味しそうで、楽しそうで良かったと思いながらいつものように食事風景を眺めていた。
「ラナの全ては本当に不思議」
心底不思議そうな声を出したアムはちょっと困った顔をした。
「僕でも食べたことのない美味しい料理に美味しいお酒、一体どこから手に入れたのか気になるな?」
「では秘密としましょう」
そう伝えるとなぜかくすくすと笑い始めた。
「僕は今日まで焦ってたんだ」
湖を見つめる赤の瞳はキラキラと輝いている。
「だけど…時間ならあるから…だから、ゆっくりでいいんだよね」
時間は無限だ。
言う通り、ゆっくりでいい。
この湖のように凪いた時間しか流れていないのだから。
「なにを知りたいですか?」
「え?」
どうしてか、からかう心が生まれてきた。
この人は真実を知った時、どんな表情をするのだろうかと、少しだけ気になった。
「一つだけ」
一つだけなら教えたくなった。
「うーん…」
うんうんと悩みだしたアムは長くなるだろうと酒を煽る。
「ご両親はどんな方だった?」
予期していない質問だった。
「そうですねぇ…愛情深く育ててくれましたよ」
みんな愛情を注いでくれた。
「怪我をしたら心配する父も、私に仕事を任せる父も今思えば私という存在を信頼してくれていたんだと思います」
「ふふ、その言い方だと父親が二人いるみたいになっちゃうね」
「アムのご両親はどんな方ですか?」
「優しくて厳しい人たちだよ」
どんな幼少期を過ごしていたのか、これまた少し気になった。




