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湖デートの後、どこかアムと距離が近くなったような気がする。
空いた時間に来てくれる時の穏やかな時間が楽しくなってきた。
「今日で終わりです」
マデリンに最後の魔法陣を施す。
殆ど火傷の跡は見当たらない身体に。
「これからどうしようかしら」
「どういう意味でしょう」
最後の跡が消えていく様を眺めているマデリンは困った声音で言う。
「今まで火傷の跡があったからこそ強くなれたこともあるの」
「そうでしたか」
「気を張っていたけれど…なんだか憑き物が落ちたようだわ」
傷跡は心にも傷跡が残る。
それは傷を治しても残る場合がある。
「マデリンは元々、そういう気質だったと考えればいいのでは?」
「あら、強気な性格は火傷が作り上げたのよ」
「火傷を負ったマデリンの心が作り上げ、それが基盤となって今がありますよ」
「………そう、そうね」
「変わりないですよ」
「随分な自信ね」
「現に傷が治ってもマデリンには変わりないじゃないですか」
「………ふふっ、ほんとね。治ってしまっているわ」
ふぅ…と息を吐いたマデリンは憑き物が落ちたというより、清々しい顔をしてる。
「良ければ今度、お茶会に来ない?」
「遠慮しておきます」
「どうして?わたくしの誘いを断るの?」
「アムの立場を理解していません。ですので誰かと“仲良く”するのには早計かと」
「あら、貴族ではないのによくそこまで頭が回るのね」
本気で関心されてる。
「終わりましたよ」
「ありがとう」
「いいえ」
ふと、アムの顔が浮かんだ。
「仲良くなりたくなったら懇意にお願いします」
「ふふっ、考えておくわ」
「ありがとうございます」
アムと近しい関係性になったら変わることもあるだろう。
その時、マデリンと“仲良く”なったら立場が確たるモノになる気がする。
「またね」
「ありがとうございました」
マデリンと入れ替わりに来たお客様は見知った顔だった。
「「おねーちゃん!」」
悪魔の印を付けられた子だった。
「どうされました?」
「たいへんだ!いえにおしつぶされてるひとがいる!」
「案内してくれますか?」
「「うん!」」
手を引っ張られてお店から出た私は喧騒に目を細めた。
どうやら近くでなにかが起きたようだ。
路地裏を抜けていき大通りに出ると煙が昇ってる。
もっと進むと燃え盛る炎が見えた。
だけどあれは………
「お願いがあります」
「なあに?」
「ガラステーブルの棚に魔法陣があるのです、それを取ってきてもらえますか?」
「「わかった!」」
子どもたちと別れて炎の方へ行くと何軒か炎で崩れ落ちていた。
ドシャアアアアアアアアンッッッ!!
激しい音がした方に目を向けると魔物がいた。
入り込んだのか、それとも人為的か。
いや、それを考える時ではないか。
騎士隊服の方達が集まってきている。
魔物はそちらがどうにかしてくれるだろう。
今の私に出来ることは…
「私は薬師です!治癒が必要な方はいらっしゃいますか!」
無償で働くのは痛手だけれど、仕方ない。
「こっちに来てくれ!」
「分かりました!」
瓦礫の下敷きになっている人が魔法で引っ張り出されてる。
他にも火傷を負った方や煙を吸ってしまった方が道に転がっている。
「診てくれ!」
「おい!やめとけ!」
「なんでだよ!こいつを助けたくねぇのかよ!」
「ちげぇ!こんなとこで治癒なんて行えねぇだろっつってんの!」
上を見ると確かに建物が崩れ落ちそうになっている。
騎士の方達は魔物を相手にしていて崩壊には気付いていない。
「そちらの噴水まで移動させてください!みなさんも!危険ですので下がってください!」
ここで治癒を行っては二次災害になる。
怪我人を運び、私も手伝っていると子どもたちが戻ってきた。
「おねーちゃん!これ!」
「ありがとうございます。ここは危険ですので孤児院に戻っておきなさい」
「「うん!」」
数十人は怪我人がいるが、治癒を行える者は一人もいなさそうだ。
一人一人具合を診ていって傷の深さを確認して優先順位をつけていく。
足が折れて首元を火傷している方からにしましょう。
早速、持ってきてもらった魔法陣を施していく。
ドンッッッ!!
大きな音がしてそちらを向くと建物が崩壊していく様を見た。
その衝撃で突風が吹く。
「おい!あんたも非難しろ!」
「こちらの方が先です」
「ここも危なくなるぞ!」
「黙っていてくれませんか、治癒に集中したいので」
全ての怪我を治すより大きな怪我を治していこう。
建物が崩壊していき、魔物が暴れる中、治癒を施していった。
♢
【???】
第三王子のお姫様。
それがこの薬師のあだ名だ。
高すぎる店はここらじゃ入る奴はいねぇ。
それに新参者だ、治癒の腕を信じてもいねぇ。
みんな思ってる、“お姫様”だからこその値段設定なんだろうと。
だが、違った。
目の前で治癒を行っているお姫様は自身が煙にまみれることなど気にせず怪我を治していく様はまるで神の所業だ。
みるみるうちに怪我が治っていく、綺麗に、跡形もなく。
そんなことはあり得ねぇ。
治癒をしたところで内臓が塞がる訳でも、あったはずの傷がなくなる訳でもねぇんだよ。
薬師なんて薬を調合するだけの職だ。
こんな風に治していくことなんて出来ねぇんだよ。
だが、治ってく。
見たことのねぇ魔法陣を展開し、的確に治していく。
「どなたか私のお店を知っている方はいらっしゃいませんか!」
誰も彼もが奇跡の業に見とれてた。
「あ、お、俺なら分かるぞ!」
「左奥の棚、上から二番目にある緑の薬を持ってきてもらえませんか」
「任せろ!」
お姫様の店に行って薬を取った俺はまた駆け出した。
戻ってみると全ての人間に治癒を行ったのか、魔法陣は見当たらない。
「はぁっ、はぁっ、持って、きた」
「ありがとうございます、左から三人目、右から二人目の方に飲ませてください」
「分かった!」
その時、今までで一番デカい音が聞こえた。
近くの建物が崩壊したんだ。
これは巻き込まれるぞ。
ああ、駄目だ。
俺達は、死ぬ。
「っっ、ラナ!!」
咄嗟に目を瞑った俺はその声で目を開けた。
何事かと前を見ると王子様が引き連れた護衛らが建物の崩壊を魔法で防御していた。
「ラナ!ここは危険だよ!」
「ちょうど良かった、こちらの方々を移動させてください」
「ラナも」
「問答している時間はありません、出来ますね?」
「あ、う、うん!分かった!」
王子様自ら率先して怪我人だった奴らを運び始めた。
お姫様もどこにそんな力があるのか分からねぇが、軽々と人を持ち移動させていくのを見て周りに居た奴らも手伝う為に体を動かした。
「ラナ、大丈夫?」
「私なら大丈夫です」
「顔が真っ黒だよ」
「それでも美人でしょう?」
軽口を叩いてる二人は親密そうで、入る隙なんてどこにもないと表しているようだった。
「ふふっ、うん、綺麗だよ」
その後、入り込んだ魔物は無事捕獲し、建物の崩壊も収束を迎えた。
そしてここらに住む隣人たちはお姫様の認識を変えた。
お姫様ではなく薬師だと。




