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火傷を負っている女性はマデリンという名前らしい。
「また少し消えたわ」
「そういう魔法陣ですから」
用意しておいた薬をマデリンに渡す。
「今でも痛みがあるのでしょう?割高ですがこちらの痛み止めはいりませんか?」
「貰うわ」
「こちらは先払いを」
「ええ、………本当に高いわね」
「はい」
王都に移ってからは値段を変えた。
辺境に居た頃よりも割高に設定してある。
「三の殿下がいらしているのでしょう」
「三というのはアムのことでしょうか?」
「ええ」
アムは周囲からそう呼ばれているのか。
「殿下が運命のお相手を見つけたと貴族の間では有名よ?」
噂は回るのが早い。
ということはあの子たちが宣伝したお陰で来た方ではないのか。
「そうでしたか、終わりましたよ」
「どうしてこんな場所でお店を開いているの?殿下に頼めば一等地で出来るでしょう?」
「噂話の提供はしたくありません」
「あら、残念」
マデリンが出て行き、店内は閑散としている。
しばらくしたらアムがやって来た。
「お疲れですか?」
「少し疲れたかも…」
「ハーブティーはいかがです?」
「もらおうかな」
来客には二階に居ても気付ける為、アムが来たらいつも二階で過ごしている。
護衛の方たちも一緒に。
「ラナはなにが好き?」
今日は私の好きを知りたいみたい。
「嫌いな物の方が少ないですね」
「ティアラは好き?」
「普通です、アムはなにが好きですか?」
「ラナが作ってくれるご飯もお菓子も飲み物も好き」
美味しそうにハーブティーを飲むアムは私の手作りを気に入ってくれている。
「今度デートして欲しいんだ」
「いいですよ」
「王家の湖があるんだ、そこに行こう」
「はい」
湖ではボートに乗れたりするのでしょうか。
久しぶりに乗りたくなりました。
「ちょっと!!」
階段の方から声がしてそちらを向くとメルがいた。
「なに近付いてんのよ!」
ドンッ!とテーブルを叩くからハーブティーが零れる。
「ママに近付くなって言ったでしょ!?」
これは困った。
メルはアムの側にいることを良く思っていない。
だけどライは知って欲しいと言う。
果たしてどちらの言葉を優先したらいいのだろう。
「僕はラナの側にいたいんだ」
「どうせ死ぬくせに!」
「死?」
ドカッ!と椅子に座るとアムのハーブティーを飲み干した。
「僕は死なないよ?」
その言葉でなにかを思い出しそうだったけど、なにも思い浮かばなかった。
「嘘つき!お前たちは全員嘘つき!」
落ち着かせようと肩に触れたらライまでもがやってきた。
「メル!様子見しようって言ったじゃん!」
「はぁ!?無理に決まってるでしょ!」
夫婦喧嘩が始まってしまった。
「ていうか!ライはそれでいいの!?」
「幸福ならそれでいいじゃないか!」
「ママのどこが幸福なのよ!」
酷い言われ様な気がするよ。
「それでもいいと俺は思う!」
「私は納得してない!」
バチバチとした音が鳴る。
まるで天候さえも操るような雷の音が。
「メル」
「ぴっ!」
声をかけると大人しくなったメルにもう一度話しかける。
「それ以上暴れるなら他でやりなさい」
「…ごめんなさい」
「いいよ」
謝ったメルはまだ気に食わないのか気を取り直してアムに向き合う。
「で?」
「う、うん?」
「ママをどう幸せにするのよ」
「そ、それは…」
「ふんっ!こんなに時間があっても考え付かないなんて!馬鹿な男!」
「ば、ばか………」
どうしたらメルは落ち着いてくれるんだろう。
「アムに、運命に近付かなければメルはもう怒らない?」
「っ、そんな簡単に離れられるの!?」
離れろと言ったり離れちゃ駄目みたいなことを言うメルの感情は上下してる。
「メルが離れてというならもう近付かないよ」
「ま、待って!」
「そんなママ見たくない!」
つまり離れちゃ駄目、ってこと?
「ライ、メルはどうしてこんなに怒ってるの?」
「それは言えないんだ」
「そっか」
ガタンッ!と音を立てて立ち上がったのはアム。
「ぼ、僕は離れたくない!ラナの側にいたいんだ!出会った時よりずっとずっとそう感じてる!」
「ラナなんて呼んでるくせによく言うよ!」
「他になんて呼ぶの?」
「知らない!」
その時、護衛の一人が動いた。
「失礼、お名前をもう一度伺ってもよろしいですか?」
「「「…」」」
言われて私たちは気付く。
なにかを怪しまれていることに。
一体なにを怪しまれてるの?メル?ライ?
あ。
子どもがいるなんて偽装はしていない。
きっと調査されたんだ、二人のことを。
『ママ、なにこの空気』
どうやら直接脳内に話しかけることにしたらしい。
『私のことを調査されてるんだと思う』
『なんで』
『アムが王族だからじゃない?』
『ああ、それは調査されるよね』
今から偽装しておこう。
でも今は………
「帰る」
撤退した方がいいだろう。
「待っ──」
護衛が話しかける前にメルとライは階段を降りて姿を消した。
「ぼ、僕は離れないよ!」
「私も離れませんよ」
「ほんと?」
「はい」
メルの本意は分からないけど、離れちゃ駄目なことは分かった。
言ってることは無茶苦茶だけど、なにか思うところがあるんだろう。
「それにしても…追いかけてきたのかな」
「さあ、どうでしょう。王都に住むのかもしれませんね」
「そっか…」
アムが複雑そうな顔をした。
ということは調査にも少なからずアムも関わっている可能性が高い。
二人のことを気にしているのは護衛だけじゃないってことか。
「今日はおかえりください」
「え、で、でも…」
「どうしました?」
「まだ側にいたくて…」
今だと護衛に問い詰められる可能性がある。
それは避けたい。
「デート、楽しみにしてます」
「っ、うん!僕も!」
「日程を決めてきてもらえますか?」
「分かった!」
「お見送りします」
一階まで降りてアムを送り出すと二階で気配がしたので登って行くと二人がお茶をしてた。
「メルにできることある?」
「子どもがいた過去を作るだけだから大丈夫」
「俺も手伝うよ」
「ありがと」
どうせならと三人で“ラナ・サールビー”の人生の過去を辿り、子どもがいる軌跡を作り出した。
久しぶりに二人と過ごせて私は幸せ。
「もう怒ってない?」
「…まだ怒ってるもん」
甘えたくなったのか小さな獣の姿になったメルは私の肩に乗って首にすりすりと頭を擦り付ける。
「ママはちあわせになるにょ」
「幸せだよ」
「………もっとだよ」
「そっかぁ、頑張ってみるね」
「うん………きょーはいっちょにねりゅ」
「私もそうしたいと思ってたの」
「はやく!」
「ふふっ、うん」
久しぶりに我が家に戻って三人で一緒に眠った。




