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まさか掃除に3日かかると思っていなかった…。
荷物はこれから辺境から送られてくるので薬に関しては問題ないけれど、想像以上のボロ屋は不具合が多い。
まぁでも…なんとかなるか。
とりあえずアムに居場所を送ろう。
『メル』
『話しかけないで!』
メルはまだ怒ってる。
そのうち時間が取れた時の為に今出来ることをしてしまおうと店内の整理を始めた頃、私を訪ねてきた人がいた。
「………ここ?」
外から声が聞こえてきて玄関を開けたらスラム街のような場には似つかわない王子様と護衛方がいた。
「お久しぶりです」
「…うん、話し合おうか」
「?」
店内に案内すると物珍しいのか護衛さえもキョロキョロと見渡している。
一通り観察が終わったのか、渡した紅茶を立ったまま飲んでいるアムは困惑の表情だ。
「ここは駄目だよ」
「お店のことですか?」
まさか駄目だと言われると思っていなかった。
「うん、違う場所にしよう」
「予算の関係でここしか空いていませんでした」
「お金なら僕が出すから」
そこまでしてもらう義理はないだろう。
「いえ、私が出します。そして私が出せる最大がこのお店なのですよ」
「…でも、ここは危険だよ」
「なんとかなります」
「……僕はね、君を守りたいと思ってるんだ」
まさか私を守るなんて言う人がいると思わなくて驚いた。
「心もそうだけど、肉体だってもちろん守りたいと思ってるんだ。だからここは駄目。こんな危険な場所に置いておけない」
気持ちは分かる。
我が子たちが危険な場にいたら手助けするし、危険がないように守りを強固にだってする。
「ではアムが守ってください」
「そのつもりだよ」
「でしたらこの家に住んでも危険じゃない方法を探してください」
「…」
私はこの家を手放すつもりはない。
本当にここ以外、空きがないんだ。
だからアムには守り方を変えてもらおう。
「じゃぁ護衛を──」
「このお店で護衛の方たちは目立ちます、営業妨害にもなります」
「……それなら……」
他の方法はまだ見当たらないみたい。
「今すぐ決めなくてもいいのでは?決まったら教えてください」
「…それまでここに?」
「はい、私の家はここですから」
「…それなら住む場所だけでも変えてみない?」
「予算外です」
「お城に住むのはどうかな?」
「私はまだ何者でもありません。婚約者でもない私は一体どういう立ち位置になるのですか?」
「それはどうにかす──」
「心を守ってくださるとおっしゃってくださったでしょう?何者でもない私が居着き非難される可能性は?」
「っ…」
「守り方は様々です。今は一度話を持ち帰ってください」
「………」
整理を再開しようと体を動かした私の後ろをチョロチョロと着いては来ず、きっと守り方について考えているアムはその場から動こうとしない。
しばらく経つとアムが近付いてきた。
「考えておく…」
まだ答えは出ないみたい。
「お茶にしませんか?」
「うん…」
二階に案内するけれど、みなさん屈強な体だからなのか階段がギシギシと音を立てて今にも崩れ落ちそう。
紅茶を淹れて、作っておいたレモンケーキを取り分けると暗かった表情が少しだけ明るくなった。
「お子さんは一緒じゃないの?」
「はい、あの子たちは別に居場所がありますから」
「そっか…あんまり会えなくなっちゃうね」
「どうしてですか?」
「辺境にいるんでしょう?」
「いえ、どうでしょう。分かりません」
「分からない?」
今はどこにいるんだろう?
家かな?それとも景色がいいところで温泉に浸かってるかもしれない。
「今はまだ怒っていますが、元気で暮らしていることは分かります」
「そっか、それなら良かったね」
「はい」
その時、玄関から音が鳴った。
「失礼しますね」
不動産の方かな?なんて降り立った先では小さな男の子と女の子がいた。
「あ、あの…」
「どうされました?」
「怪我、しちゃって…ここって薬屋さん?」
「そうですよ、割高ですが」
「わり?」
「高い料金設定をしております」
「「…」」
顔を見合わせて困った顔をしている二人の前にしゃがんだ。
「お金は持っていないのですか?」
「もってないんだ、でもっ、でもっ、」
男の子の方が泣き出しそう。
「ベニーをたすけて、ほしい、んだ!どこいっても、だめ、で、どう、どうした、らっ、ぼくっ、ぼくっ」
どうやら女の子の方が薬を必要としているらしい。
階段が軋む音がしてそちらを向くとアムが降りてきていたようだ。
「でしたら交換条件はどうでしょう」
「「こーかん?」」
「はい、私はこのお店を広めたいのですが、方法が分かりません。なので宣伝をしてくれませんか?」
「どーやって?」
「どこかで隣人に出会ったらここに割高の薬師がいると伝えてください」
「それだけ?」
「とても大切なことですよ、お金に代えられないほど大切なことです」
「わ、わかった!ぼくやるよ!だからっ、だからっ、」
「はい、交渉成立ですね」
女の子のおでこに触れると発熱しているのが分かる。
どこかで怪我をしたかもしれないから体を診てみたいんだけど…
「アム、邪魔です」
「っ、わ、分かった」
外に出て行ったアムはそこから動かないけれど、中に居られるよりはいいと女の子の服をその場で脱がせ始めた。
全て脱いだ後、ゆっくりと体を見てみると背中に魔印が刻まれていた。
魔蚊に似ていて、異なる。
これは…悪魔の印だ。
獲物を逃がさないよう、追跡の魔法でとても簡易な物だ。
普段はこんな風に熱なんか出さない、むしろ気付ける方が稀だ。
だけどこの子は魔力量が低い、だからだろう。悪魔の付けた簡易な印だけでも体には毒となり体を蝕んでいる。
「二人とも、目を瞑ってくれますか?」
「「うん」」
目を瞑ったのを確認して、背中に触れた。
「もう開けていいですよ」
「……からだがかるい……」
「ほんと!?」
「………うん!うん!へんなかんじしないよ!」
このままでは風邪を引いてしまうと思い、手早く服を着せてアムを呼び込んだ。
「「おねえちゃんありがとう!」」
「お礼なら結構ですよ、宣伝塔になってくれるのでしょう?」
「うん!ぼくがんばる!」
「帰る家はありますか?」
「こじいんがあるんだ!そこがぼくたちのいえ!」
「それならそこまで送りましょう」
「「わーい!」」
二人の手を繋いで歩き出した私は室内にいる人を思い出した。
「アム、私は少し出ます」
「僕も一緒に行くよ」
「そうですか?」
「うん」
家の鍵を閉めて歩き出すと、泣きそうな顔も辛そうな顔もない。
あるのは笑顔だけ。
「ラナは凄いね」
「なにがでしょう?」
「薬師は天職だね」
「私には腕がありますから」
「うん、ちゃんと理解した」
二人を送っていくと、どうやら黙って抜け出したらしく孤児院の人にこってりと怒られていた。
チラッと孤児院を見ると悪魔が扱う魔法陣が家にかかっていたのでこっそりと無効化しておいた。
「今度は僕がラナを送る番」
「そうでしたか」
それと守りの陣を施しておいたのと、悪魔にだけ見えるよう警告の言葉も書き記しておいた。
気付いた悪魔は近寄ることをやめるだろう。




