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食事を終え、開店準備をしている間もアムがいる。
私のことを知り、アムのことを知って欲しいという気持ちは本当みたいでたくさん質問される。
「ここに来る前はどこに居たの?」
「エヴァーツ街に居ましたよ、両親と一緒に」
「視察で行ったことがあるよ、自然豊かでいい街だよね」
薬を指差してはどんな効能があるのか聞いてくるアムは何事にも興味津々みたいに見える。
「アムは王都に住んでるんですか?」
「うん、今回は初めて魔物討伐に着いて来たんだ。将来を決める為に」
「将来?」
「王位には第二王子である兄が継ぐし、第一王子である兄は騎士団長になってるから」
「アムはまだなにも?」
「恥ずかしいけど、まだなにも。得意なこともないんだ」
得意なことなんてたくさんありそうだけど。
「アムは懐に入り込むのが上手ですから、参謀や宰相にでもなったら上手くいきそうなのに」
「…え?」
「失礼なことを言いましたか?それなら──」
「あ、ううん。そんなこと言われたの初めてで…」
どうしてだろう?
人懐こく、人に嫌悪を抱かせない人というのは案外貴重な人材だと思うけれど。
「嬉しいな」
「そうですか」
開店準備も終わった私はいつもの定位置に座り、本を広げる。
「いつもそうして過ごしてるの?」
「はい、私のお店はあまり人が来ませんので」
「どうして?僕の傷だってこんなに綺麗に治してくれたのに」
「うちは割高ですから」
「そうなの?」
「はい」
お腹を摩るアムは不思議そうにしてる。
「そういえばお礼がまだだった」
「お代なら貰ってるので結構ですよ」
「それでも言いたくて」
「受け取ります」
「ありがとう、治してくれて。お陰で君にまた会えた」
アムがそう言うと背後の人が声をかけてる。
「寂しいけど行かなくちゃ」
それならと腰を上げて棚の中からお守りを取り出す。
「これを」
「なあに?」
「討伐に出るのでしょう?」
「うん」
「実験段階なので効果は分かりませんが、低級魔物なら弾けるお守りです。良ければどうぞ」
「いいの?」
「実を言うと実験されて欲しいのです」
「…ふはっ!それなら実験されようかな」
「お願いします」
名残惜しそうにお店から出て行くアムは大切そうにお守りを握りしめていた。
全員が出て行ったのを確認した後、後ろを向いて尋ねる。
「どうしたの?」
「あれ誰」
朝方見た時より複雑そうな顔をしてる。
「運命なんだって」
「っ………は?」
驚くのも無理はないよね。
私もビックリしてるもん。
「うんめい…?」
そうだ、そんなことよりかけっこを一緒にしようかと改めて提案しようとしたけど、叶わなかった。
「………幸せに出来る訳ないじゃん」
「そうなの?」
「当たり前でしょ!運命だからなんだっていうのよ!」
「どうして怒ってるの?」
「どうして怒らないの!?なんでよ!なんで…!」
あまりにも悲しそうな顔をするから抱きしめようとしたけど、その手を振り払われた。
「本当にこれが望んだことなの!?」
「なにを…」
「私はまだ納得してない!!」
「どう──」
問いかけた言葉は宙に浮いたままになった。
目の前から姿が消えたから。
追いかけようとしたけど、先にあの子の伴侶に相談したら私は行かない方がいいと言われたので仕方なく店内に残った。
その日は1人、お客様がいらしたけれど私はどこか上の空だった。
♢
「ただいま」
店内に入ってきたのはアムだった。
落胆しながら立ち上がると、腕を怪我しているようだった。
「治していきますか?」
「お願いできる?」
「高いですよ」
「ふふっ、それでもお願いします」
「はい」
お代を伝えて腕に触れる。
これなら魔法陣よりも飲み薬の方がいいだろう。
魔法陣で人体を治すと少なからず負荷がかかる。
一番いいのは自然治癒だ。
それを手助けする薬とお水を渡した。
♢
【アスカム・ヘザリントン】
「ラナはなにが好きかなぁ?」
僕に運命がいた!
とても可愛らしくて小さな女の子だったんだ。
黒の髪は艶やかで、同じ色の瞳は真っすぐに人を見る癖がある子。
僕よりずっと年上だけど、寿命近くにならないと老けない僕達は見た目じゃあまり分からない。
北の辺境へ行く道のりは正直、気が乗らなかった。
だって僕に討伐なんて合っていない。
そんなことは誰だって知っている。知っているからこそ護衛がたくさん着いて来るんだ。
「ねぇ、バートン、ラナはなにが好きだと思う?」
「殿下がお考えになった方が喜ぶかと」
「そっか」
小さな頃から側に居てくれるバートンに問いかけた僕は贈り物よりもラナの言葉を思い返していた。
『アムは懐に入り込むのが上手ですから、参謀や宰相にでもなったら上手くいきそうなのに』
なにげない言葉だった、だけどなにより嬉しかった。
僕は一番上の兄のように力がある訳じゃない。
二番目の兄のように頭は良くない。
いつも劣っている自身の能力に嘆いていた。
だけどそんな僕でも出来ることがあると言ってくれたのは運命でもあるラナだった。
「僕って宰相になれる?」
「適任かと私も思いますよ」
「そっか」
兄のように魔物を屠れたら…兄のように頭が切れて施政者として相応しくなれたら…そんな気持ちがある僕に新たな道を勧めてくれた。
「殿下!」
「うん!」
でも今は目の前の業務に集中しよう。
これだって僕が任された仕事なんだから。
軽い傷を負ってしまったけど、なんとか僕一人の力で魔物を倒せた後、辺境伯の屋敷に戻らずラナの元へ戻った僕は傷を治す為に薬を飲み干していた。
そんな時。
「認めないから」
力強い声が背後から聞こえた。
護衛たちも女性の存在に気付けなかったのか、その声が聞こえて初めて警戒した。
振り向くと背の高い女性がいた。
ラナは小さく、160センチくらいしかない身長と違って目の前の女性は2メートルはある気がする。
僕は185センチだから見上げてしまう、ここにいるみんなも見上げてる。
金の髪は腰まであって、黒の瞳は吊り上がっている。
「認めないからね、絶対」
そう言いながら僕の元まで来た。
「メル、どうしたの?」
「運命なんて認めないって言ってんの」
どうやらラナの知り合いらしい。
「どうして?」
「運命だからなに?幸せに出来るとでも思ってんの?」
僕に向けられた言葉だとやっと気付けた。
だから僕は真剣に彼女へと向き合ったんだ。
「幸せにする、僕が必ず」
「どうやって」
「望みがあれば叶えるし、お金にも困らせないよ」
「望み?叶えられる訳がないでしょ」
「そうだとしても努力したい」
彼女は友達なのだろうか。
ラナのことを心配してるのかな。
そう、そうだよね。
いきなりやってきて運命だなんて…混乱させちゃうよね。
でも、彼女は獣人だ。耳と尻尾がそれを示してる。
ラナには分からなくても、彼女には分かる。だから運命には寛大だと思ったんだけど。
「あんたなんかにママは渡さないから!!」
「……………は?」
ママ?今、ママって言った?
「マ、ママって………ラナのこと?」
「そうよ!」
まさか結婚してたとは思わなかった。
だって一人暮らしだって言って…
「だ、旦那がいるの?」
「いませんよ」
ラナが答えた言葉に安堵した。
「亡くなったの?」
「いいえ、私に伴侶はいません」
じゃぁどうして子どもが…う、ううん、今は聞かないでおこう。
頭が破裂しそうだ。
「ママは渡さない!!出て行って!」
そうは言われても僕だって引けない。
だって僕の運命なんだ、とても大切な人なんだよ。
「僕は──」
「今日は帰ってくれませんか?この子の話を聞きたいので」
「………分かった」
泣く泣くではあったけど、外に出た。
きっと今頃は子どもの話を聞いているんだろう。
「殿下」
「ん」
「調べますか」
「…」
僕はラナのことを知りたい。
でも、それは調査したいという意味じゃない。
「ううん」
「調査は既に行っておりますが」
「え?」
「殿下のお相手です、調べないというのは無理です」
こんなのでも僕は王族、だから必要なことなんだろう。
ラナが毒見を諭してくれたように。
「分かった」
でもその内容を知りたいとは思わない。
僕が直接ラナから聞きたいから。




