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治癒薬を大量に作り終えた私は大通りに出た。
いつもは活気に溢れている通りも今は閑散としている。
どこか元気がなく、人との距離が遠い。
そんな場所で思いきり息を吸い込む。
「私は薬師です!流行り病の治癒薬が完成しました!配布しますので私のお店までいらしてください!」
ザワッと空気が揺れた。
今すぐ手に入れようと私に群がってくる人達に宣伝をお願いし、お店まで来るように頼んだ私は急ぎ足でお店に戻った。
お店に戻ると数分も経たずに扉が開き、そこからひっきりなしに人がやってくる。
焦り不安げな隣人達を見て、想像以上に流行り病は広がっていたことを体感した。
♢
【アスカム・ヘザリントン】
ラナに言われた言葉は僕の頭を冷やしてくれた。
お城に戻り、すぐに行動した僕の耳にラナの動きが入った。
「治癒薬が完成し、無料で配布しているようです」
「治癒薬が…」
もちろん国としても流行り病を重く捉えていた。
だからこそ治癒師を集め、薬の開発に勤しんでいたけれど…そっか…薬が完成したんだ。
「ラナに頼んできてくれる?」
「かしこまりました」
ラナに頼りきりだけど、今はそんなことを思う時じゃない。
ラナが作った薬は広範囲に必要だ。
お店で配るのは限りがあるだろう、だからこそ僕が国を動かしその薬を配り歩く。
まずは配布の環境を整えて、こちらでも薬を作れないか提案する。
やることは山積みだ。
確かに暴動が起きそうな雰囲気を感じていた。
その対策に翻弄していたけど、目線が違っていた。
僕がすべきことは先の混乱ではなく、今の混乱だ。
「会議をする、集めて」
「かしこまりました」
ラナから許可を取った僕の手元には大量の薬がある。
配り歩く為にはまず人員の確保と場所の確保だ。
僕は僕のできることを、精一杯やろう。
♢
アムに言われ薬を渡した後もお店に来る人は絶えない。
配り続ければいいんだろうけど、薬の量にも限界がある為、薬を求めている人達を待たせ薬を作りまた配るを続ける日々。
さすがの私も疲弊してきた頃、やって来る人が減ってきた。
それはきっとアムが翻弄してくれているお陰だろう。
空いた時間で休みを取りたいけれど、まだ休めない。
今度は予防薬を作らなければならないのだから。
手持ちの薬草もなくなってきた頃、アムの遣いが訪ねてきた。
「薬の補充をお願いできますか」
「お持ちします、それとこちらに記載した薬草を持ってきてもらえませんか。薬草が足りなくなってきました」
「お伝えしておきます」
「お願いします」
遣いの人に薬を手渡した私の心にアムの笑顔が浮かんだ。
「お待ちください」
髪留めのピンを取り外して渡す。
「これをアムに」
「必ず」
なんとなくアムには私の証を持っていて欲しい。
「薬を配ってるってほんと?」
「はい、こちらにどうぞ」
次、休む時はボートの上でアムと過ごしたいな。
♢
【アスカム・ヘザリントン】
薬が追い付かない。
僕はきちんと理解していなかったんだ。
どれほど民が疲弊しているのか、病に侵されているのか。
なにも理解していなかった。
「F地点では薬を求める人の暴動が起きました」
薬を渡せない今、量産するしかない。
ラナから製造方法を教えてもらっているけれど、誰一人成功したことはないんだ。
薬草を砕く精密な細かさ、途中で扱う魔法陣も酷く難しく扱える者がいない。
その為、ラナが作ってくれる薬を待つのが現状だ。
「僕が行く」
「危険です」
「王族からの言葉なら鎮まることもあるだろう」
「…」
人員の確保も場所の確保も治癒師の確保もできている。
出来ていないことは民を落ち着かせること。
「変わりましたね」
「なにが?」
「殿下ですよ、ご立派になられました」
「それならラナのお陰だね」
「…」
「まだ警戒してるの?」
「いえ、どう対応すればいいのか戸惑っております」
「ふふっ、それもそっか」
F地点に行く準備を進めている中、遣いが戻ってきてラナの薬を持ってきてくれた。
これで少しは助けられる。
「こちらをお預かりしました」
ハンカチにくるまれているのは髪留めだった。
「ラナの?」
「はい」
ラナの顔が見たい、一緒にお茶をして他愛ない話をしたい。
そんな気持ちを落ち着かせてくれるようだった。
「うん、僕も頑張る」
護衛を最小限にしてF地点に向かった。
城下町では薬が行き届いているのか活気のある街に戻っていたけれど、離れてみると嫌な静寂が流れている道中だった。
ラナの言う通り、病は人から笑顔を消していく。
心さえ病気になってしまうんだ。
「今は危険です」
F地点に到着したけれど、まさに今暴動が起こっているところだった。
「だからこそ行くべきだろう」
馬車から降りると怒号が響いていた。
騎士に詰め寄る人達は烈火の心を持ち、凶弾している。
己の未来に怯え、縋りつく場所もない今、全ての矛先は国へと導かれている。
一歩ずつ、確かに歩く僕に気付く人もいる。
目が合ったその感情は悲しみだろう。
ああ、本当に。
僕はなにを見ていたんだ。
民がこんなにも怯えているというのに、自身で気付くことさえできなかった。
「ここまでです」
バートンに制止された場所から声は届くだろうか。
いや、届かせてみせる。
「みなさんに現状を伝えにきました!」
まだ怒号は続いている。
「お願いします!どうか聞いてください!」
憎しみはそこかしこに。
「今!薬を渡すことはできないのです!」
僕の言葉にやっと怒声が消えた。
「薬の量産を試みていますが、現状はとても厳しい!」
僕が伝えられることは真実しかない。
「ですが確保出来次第、必ず皆さんにお渡しすると約束します!困窮している今、必要なのは薬だけではないはずです!ですからそちらのケアもさせてください!」
僕の言葉が届き始めた。
「お前らはいいよな!安全な場所で暮らしてんだから!」
僕は見られることに無頓着だった。
だけどそれは過去だ。
「僕たちも感染する恐れがあります!王城にも充分な薬はありません!」
今の僕ができること。
「薬って………王子様のお姫様が作ってくれてるって本当?」
「本当です!僕の運命がたった一人で作ってくれています!数に限りがあるのには技術が足らず、誰も真似できる者がいないからです!皆さんの気持ちは痛いほど届いています!ですからどうか!どうかもうしばらくお待ちいただくことはできませんか!」
民らは隣人と目を合わせ、話し出す。
僕の言葉に結論を出す為に。
「でも…主人は苦しそうで…いつ倒れるか…」
「治癒師は明日にも来ます!薬ではありませんが体調を診る為に派遣させて頂きます!」
そうだ、心。
心までもが病に蝕まれる。
その為に安心できることを。
「食料も水もお渡しします!治癒師も出来る限り配置させていただきます!」
その時、一人の男が背を向けた。
やっぱり駄目なのかと思い落胆していたところにバートンから声をかけられた。
「よく頑張りました」
「なにもできてないよ…」
「そんなことありません、見てください。暴動を起こしていた人達が帰っていきますよ」
ハッと顔を上げてみると確かに人が減っていた。
それは暴動が治まった証拠。
「僕でもできたんだ…」
良かった。
声が届いた。
ラナは今も薬を作ってるのかな。
落ち着いたらラナが行きたがっていた湖に行こう。
そしてボートに乗るんだ。




