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【アスカム・ヘザリントン】
僕とラナの子ども。
メルに言われて初めて意識した。
過去ばかりを、そして今を知ろうとしていた僕は初めて未来を意識した。
それと同時に今も見た。
取り乱したメルと悲しそうにしたライを抱きしめている光景を。
とても美しいと感じた。
周囲の人達もそう感じているのだろう、あまりに美しい光景に見惚れている。
家族の愛が、全ての愛がそこに詰まっていると思った。
その時──
「ねぇー、どこにいい人間がいるのー?」
ラナの背後に突如、ラナと同じ色味を持つ黒髪に黒目の男が立っていた。
人間じゃない。
なぜかそう感じた。
恐ろしく、禍々しい男を見て恐怖に陥った。
僕以外もそう感じているのかジリジリと後ろに下がる護衛たちとは違い、バートンはすぐに男を排除しようと動いた。
「なあに?僕と遊びたいの?」
余裕そうにバートンの剣に触れた。
とても簡単に静止しているような彼とは反対にバートンの顔は険しい。
「陛下たちをお守りしろ!」
その言葉でやっと護衛らが動いた。
男が現れた瞬間、立ち上がった僕たちを守るように囲む。
「楽しくなさそうだけど、ま、いっか。遊んであげる」
その時、ラナが動いた。
目にも見えぬ早さで男の手を掴んだ行動を見て、ラナのことをまだなにも知らないと知った。
「邪魔するのー?」
メルとライを見ると恐れているようには見えない。
だけどどこか気まずそうにしてる。
「やっぱりここって禁止区画ー?」
「そうよ」
「なあんだ、残念」
消えた!?一体どこに消えたの!?
今まで確かにそこに居たのに、ラナが手を握ってたのにどこへ………
そんなことに気を取られていた僕はバートンの動きに気付けなかった。
シャキン…
ラナの首にバートンが剣を置いた。
「バートン!やめて!剣を降ろして!」
「聞けません」
どうしてそんなことをするの?
ラナはなにもしていないのに。
男だって現れただけだ。
なにもしてないじゃないか。
「あの禍々しい男はどなたですか」
ラナの知り合いだと僕も思う。
だってとても気安く話しかけていたから。
「どうやって侵入し、消えたのか説明を」
あの男が危険であることは分かる。
でもそれでラナに牙を向くのは違う。
「黙秘は通じません、返答を」
「バートン!やめてよ!」
「殿下をお守りしろ」
「「はっ!」」
「ラナは危害を加えないよ!僕は傷を治してもらったけど傷を受けたことはないだろう!」
緊迫した状況に似つかわない声音が聞こえた。
「キラキラ出す?」
まるでお茶を勧めるような、そんなライの声。
「答えてください、それとも牢屋で話し合いますか」
ラナは笑った。
僕を見て確かに笑ったんだ。
「牢屋がお好きなようで」
「バートン!!」
笑みを浮かべたラナはバートンの剣に触れた。
たったそれだけだ。
それだけなのに剣が消えた。
「なっ!?」
目を見開いて驚いているとラナがチラッと僕を見た。
そしてまた笑ったんだ。
ううん、そんなことよりバートンがラナを拘束しようとしているのを止めないと。
こんな時に見惚れている場合じゃない。
「バートン!やめろ!!」
声を荒げた時、ラナが真顔になった。
瞬間、ラナが消えたように見えた。
ううん、正確には見えない速度で動いたんだ。
一瞬にしてバートンの背後に回り、腕を捻り、テーブルに体を落とした。
ガシャンッッ!!
「バートン、あなたもう少し訓練しないとアムを守れそうにないわ」
「っ」
ああ、本当に。
僕はラナのことをなにも知らないんだ。
なに一つ。
「………ラナ?」
答えが欲しくて問いかけた僕を無視してライとメルに目配せした。
二人も見えぬ速度で拘束してる護衛の腕を捻り、テーブルに落とした。
素知らぬ顔で、まるで日常の一つみたいに。
「二人とも」
「「うん」」
ラナが僕を見つめてる。
「キラキラを出して」
そしてまた笑ったんだ。
その時──
ザザッ!と音がしたのは僕たちが一斉にしゃがんだから。
メルとライの姿がとても神々しく見え、咄嗟に跪いた。
これはなに?
ううん、僕は知ってる。
同じ感覚が走ったことがあることを。
仲のいい精霊と出会った時も似た感覚があった。
体中から光を帯びて、崇め称えなければならないと。
今も同じ感覚がする。
でも、違う。
あの時の比じゃない。
精霊かと思ったけど、違う。
もっと神聖ななにか………
これは、
これは、
神様だ。
間違いない、メルとライは神様なんだ。
神様がいるかどうかという問答を昔にした。
だけどそういうことじゃない、問答をするしないじゃない。
だっている。
目の前に。
神様が。
「バートン、そこに居られると座れませんよ」
「っ、失礼いたしました」
椅子を引く音が3つ。
まだ神聖さは続いている、息苦しささえ感じてきた。
「これ美味しいんだ」
「そうなの?今度貰っておくね」
「ママ、紅茶が冷めちゃう」
「くすくすっ、ごめんね」
異質さが目立っている。
だって僕たちはまだ顔を上げられない。
なのにいつものように家族の会話が繰り広げられている。
和気あいあいと。
え、待って?
メルとライが神様なのは今も充分痛感してる。
それならラナは?
ラナも神様なの?
神様の母、ということになるの?
「座りなさい」
父より鋭い声音で強制的に僕たちの腰を上げさせたのはラナだった。
誰もが勢いよく立ち上がり、僕たち家族は元の場所に座った。
そこで見たのはやはり、キラキラと輝いている二人だった。
「あの子は私の友達なんです、家族のような子で…だから許してもらえませんか?」
さっきの禍々しい人のことを説明してくれているけれど…正直飲み込めてない。
そんな僕とは違い、話しかけられた父は緊張しながら言葉を吐いた。
「……だが侵入者は侵入者だ」
「はい、ですから…」
会話に割り込める人は誰もいない。
「私に免じて許してもらえませんか?」
ラナに免じて…。
それは神々の母である存在のラナが許可を求めているということになる。
そんな許可を求められて非を言える人は、
「……相分かった」
いない。
「もういいよ」
ラナがそう言うと輝かしい光が消えた。
神々しさも消え、さっきまでの二人に戻っている。
「今日はここまで」
ラナの言葉が合図となって二人が立ちあがった。
「お茶会、ありがとうございました。とても楽しかったです」
「「ありがとうございました」」
その場を収束させる訳でも、説明する気もなさそうなラナたちは呆然とする僕たちを置いてさっさと帰って行った。
「……なんだったのだ」
静寂の後、兄がぽつりと言葉を吐いた。
そのお陰でみんな我に返った。
「僕………神様が運命の相手、なの?」
「「「「…」」」」
ラナは神様なのかな。
圧倒的な存在を前にして様々なことを考えた僕から出てきた最初の言葉がそれだった。
そういえば…
「笑顔…」
僕が驚きながらラナを見ていたら最後にもう一度、笑った。
あの笑顔が忘れらない。




