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♂転性してもエアラインパイロット♀  作者: 月隠優
第一章 パイロット復帰
9/29

7話 フランクフルト1

「はい。えーっと、こちらが有馬さんの新しい身体検査証明書になりますね」


「ありがとうございます」


数週間後、無事に実機訓練の許可が降りた。

乗務員が集まる食事スペースで拓也を待ちながらコーヒーを啜る。


苦い。


「で、これからどうするんだ?」


奏からの連絡を見て拓也が家から空港にやってきた。

今日はどのみちスタンバイで自宅待機だったので、荷物を持って空港に来る分にはなんの問題もない。


「セントレアでタッチアンドゴー訓練かな?でもその前に実機慣れ。気圧で耳痛くなるかどうかまだわからんし。拓也の明日のフランクフルトついて行こうかな」

「パスポートは?」

「とっくにできてるよ」

「手際いいな」

「そりゃ仕事戻るためなら嫌でも良くなる」

「じゃあ明日のノータムまとめておいて」

「それお前の仕事」


総務の人曰く制服が来るのはまだ少し時間がかかるらしい。さっさと訓練終えてパリにシフト入れられたら晴美さんに連絡しなくては。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「で、どうしてこうなった?」


朝9時。拓也の車に何故か咲と拓也の妻の楓佳さん、そして千尋が乗っている。


「千尋もフランクフルト行きたいって言うから。奏ちゃんにお願いしたらチケットとってくれた」

「おいお前」

「ごめん負けた」

「しかもビジネスなんて奏ちゃんのお父さんもなかなか太っ腹で」

「あ、それはエコノミーが満席だったから...って言ってた」

「私旅行なんて3年前家族でシンガポール行ったきりだなー」


なんやかんや実は千尋が1番楽しみにしているような...


「楓佳まで...何日いるつもりだよ」

「4日」

「おい俺明日帰るんだぞ。ご飯は?」

「自分で何とかして」

「まじかよ」


ーーーーー


「じゃあラウンジで待ってるから。奏ちゃんは?」

「私ですか?そもそもチケット取ってないので入れませんよ」

「え?」

「え?」


どうやら着いてくると思ってたらしい。

思われててもおかしくないが、まあとりあえずフランクフルトまでは行くので許してほしい。


「では、私あっちなので、失礼します」


フライトバッグを引っ張りながら足早に事務所に向かう。


「あんなに荷物持ってきてたからてっきり張り切ってるんだとおもってた」

「だよね。普通そう思うよね」

「やっぱり奏ちゃんって不思議ちゃん?」

「咲のお父さんと馴れ馴れしく話してる時点でおかしいことだらけだよ」

「そう?...。たしかにそうだね...」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「で、お前はぼさっと男子更衣室入ってくんな」


拓也が奏の頭を掴む。


「ごめんって、くせで」


拓也は着替え終わると事務所でパソコンと向き合う。

機体の状態、空港、最新の気象などの情報を最終確認する。

制服を着ると拓也も目がガチになる。


奏も隣のパソコンで概要を確認。フランクフルトでは天気が少し悪そうだ。

「昨日の予報より風強いな」

「どの辺?」


拓也が奏のパソコンを覗き込む。


「全体的に、偏西風が...ちょっと速度上げないと予定時間間に合わないかも」

「燃料増やそうかな」

「賛成」


「遊馬さんですか?」

「はい」


若い男2人が拓也声をかける。


「本日御一緒させていただきます佐内です。先日千歳で、フランクフルトは4回目になります。よろしくお願いします」

「田村です。一昨日セントレアで、フランクフルトは今回が初めてです。よろしくお願いします」

「遊馬です。俺は何回目かもう覚えてない。到着は俺と佐内でやるか。帰りはまた考えよ。後あいつだが、」


拓也はパソコンに集中している奏を引っ張る。


「俺の助手だ。丁重に扱え」

「助手、ですか?」


1番扱いが雑なのお前だけどな。


「有馬です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


4人で打ち合わせをして機体に向かう。

拓也と佐内は外に出て外部点検。田村と奏の2人はコックピットに残り、田村はCDUにデータを入力する。


「お前キャプテンの助手だか知らんけど絶対なんか触るなよ」



「大丈夫です。触りません」


外部点検が終わると、キャビンアテンダントとのブリーフィングが始まる。


「キャプテンの遊馬拓也です」

「田村です」

「佐内です」

「有馬です」


「...。」


「えーっと、出発時は特に問題ありません。巡航中も基本は大丈夫です。到着時は揺れます。何か質問は?」


雑。


みんなそう思った。


「キャプテン」


「どうした田村?」

「こいつ誰ですか?ガキ連れてくるキャプテンなんて聞いた事ないんですけど」

「助手だ。一応期限内の免許は持ってるけど諸事情あってしばらく俺の助手になって貰ってる」

「誰がお前の助手だって?」

「とにかく心配するな。分からないことあったら俺じゃなくてこいつに聞け。とりあえず田村と佐内は準備進めておけ」

「はい」


ーーーーーーーーーー


「準備は?」

「すみませんまだできてません」

「遅い早くして」

「はい...。すみませんトイレ行ってもいいですか」

「ああ」


田村はヘッドセットを外して急いでトイレに向かう


拓也はヘッドセットをつけてシートベルトをはめる。

後には佐内が作業を続ける。


(そう)手伝え。遅れそう」

「わかった」

「CDU入力の続きお願いします」

「おっけーわかった」


慣れた手つきでどんどん入力していくと佐内は驚いた顔をする。


「驚いた、助手ってのは本当なんだ」


まあ当然の反応だろう。しかしこの人たちとは初対面。面識があれば体のことも説明しようがあったかもしれないが、初対面には何を言っても冗談にしか聞こえない。

早いとこ噂にでもなってくれればいいが。


「有馬さん?でいいですか」

「どうしたんですか佐内さん?」

「いや大したことじゃないんですけど、ベテランっていうのも納得できます。その...どのくらいなんですか?」

「入社25年目です」

「25!!??」

「どうした佐内?」


拓也が振り返る。


「なんでもないっす、」


顔に描いてある。ただの高校生かと思ってたーみたいな顔。

出発準備は大方整った。


「有馬さん春樹ってやつ知りませんか?」

「知ってるよ。あ、あいつにご飯誘われてるの忘れてた」

「俺そいつと同期です」

「あ、そうなんだ。ていうかいつ約束してたっけ...」

「別に無視でもいいんじゃないすか」

「いや、そうしたいところだけど色々お世話になったから」

「あいつが先輩の?らしくないな」


拓也はなんのことだか分からず客が乗り終わる報告を待つ。

田村も戻ってくると最終確認をする。


客が乗り終わるとプッシュバックを開始。

滑走路まで田村が操縦し、離陸からは拓也が担当する。

今日は天気も良くルートの変更がほとんど必要ないので上昇も全てオートパイロット頼りだ。


しばらく上昇して加速する体勢に入ったところでシートベルトサインを消す。

ここからのキャビンは忙しい。

飲み物、前菜のサービス。夕食の準備。


一方パイロットは出発後の確認を済ませ混雑する空域を超えたら順番に休憩に入る。

奏と佐内はコックピットを出てクルーバンクに行く。

B787ではクルーバンクは前後客室の上にあり、狭い階段を登ると3部屋のカプセルホテルみたいな部屋と座席が一つ用意されている。


クルーバンクまで上る階段は大人には狭いが奏にはちょうどいい大きさだ。

クルーバンクに入ったら軽く着替えてご飯を食べて寝る。


5時間後アラームが鳴ると佐内は起きる。

奏もつられて起きコックピットに向かう。

前では田村と拓也が待ってましたと言わんばかりの顔。


「お待たせ」

「お待たせしました」

「おお、やっとか」


状況確認を終えると田村が席を立ちあがる。


「じゃあ佐内よろしくな」


佐内が席に座ったのを確認すると拓也も座席を動かし始める。


「キャプテン?」


田村が不審な眼で拓也を見つめる。

拓也はそんなこと気にしないで席を立ちあがる。


「じゃあ、あと頼んだ」

「いいの?」

「だってお前ライセンス期限は大丈夫だろ?身体検査も通ったんだし、あと俺寝たい」

「こんな子供に座らせるって正気ですか?、」


田村は眉間にしわを寄せる。


「おれまだ眠くないのでキャプテン寝てきてください」

「別に心配しなくてもいい。こいつはお前より優秀だし体力も有り余ってる」

「大丈夫田村さん、私に任せて」

「佐内さんも何とか言ってくださいよ」

「え、俺は別にいいですけど」


佐内は計器に目を通しながらさらっと答える


「こいつのどこが優秀なんですか?」


田村の声が少し大きくなった。


「お前は今日俺が燃料を追加した理由を知ってるか?」

「え、フランクフルトの天気が悪くて待機やダイバートの可能性を考えたからじゃないんですか?」

「不正解だ、そんな分の燃料は最初からとっくに予定している」

「じゃあなんで」

「佐内わかるか?」

「偏西風が強いからですか?対空速度が予定よりも速くておかしいと思ったんですけど、まだ予定より遅れてますね。速度上げますか?」


タブレットと計器を交互に見ながら佐内は答える。


「それが正解だ。そしてそれを俺に指摘したのはこいつだ。速度上げるタイミングは好きにやれ。混んでると思うから早めに着きすぎるのだけはやめろよ」

「了解です」

「わかったら田村さっさと休め」

「わかりました」




ドイツのフランクフルト。

めっちゃ広いハブ空港です。

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