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♂転性してもエアラインパイロット♀  作者: 月隠優
第一章 パイロット復帰

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6話 買い物2

 駅まで戻ると、咲ともう一人の女の子がジュース片手に待っていた。


挿絵(By みてみん)


「遅い!」


 着いたと言ったじゃん、と文句は言っている。

 だが怒っているというより、待ちきれなくてうずうずしていたのが丸分かりだった。


「ごめんって。こいつが歩くの遅いから」


「いや、お前がスキー板見たいって言うから」


「咲ちゃん、この子誰?」


 咲の友達が、露骨ではないがしっかりとした警戒心を込めて奏へ視線を送る。

 それはそうだ。突然知らない女の子が一緒に現れたら、普通はそうなる。


「え、知らない。それより服買ってくれる条件って何?」


「こいつの服選び。俺は車に荷物置いて、そこのカフェで休んでるから」


「楽器も持ってって。あ、千尋ちゃんのも」


「いいんですか?」


「大丈夫。預かるね」


 拓也は両手に楽器ケース、肩にはさっき買った奏の服の紙袋を引っかけて、さっさと歩いていく。


 あいつ、逃げたな?


「あ! そういえばお金もらってないよ!」


 それまで奏のことを気にしてちらちら見ていた咲だったが、お金が手元にないことに気づいた瞬間、拓也が消えていった方向を真顔で見た。

 しかし、時すでに遅し。


「大丈夫です。私がもらってます」


 奏がポケットから財布を出すと、咲はあからさまにほっと胸を撫で下ろした。


「なるほど。うーん、名前は?」


「えーっと、奏って言います」


「おー! 奏ちゃんね。私は咲で、こっちは部活仲間の千尋ちゃん」


「よろしくね」


「よろしくお願いします。さっそくで申し訳ないのですが、トイレ行ってきてもいいですか?」


「オッケー。じゃあここで待ってるね」


 待て待て。

 ほったらかしにされるとは聞いてない。


 奏は足早にトイレへ向かい、個室に入るなりポケットからスマホを取り出した。

 拓也へ電話をかけると、わりとすぐに出る。


【「ねえ、今どこ?」】


【「今、車着いたところ。どうした?」】


【「どうしたじゃない。咲ちゃんは楽しそうにしてるけど、もう一人の子にめっちゃ怪しまれてる」】


【「普通に有馬だーって言えばいいじゃん」】


【「もっと気まずくなるだけだって」】


【「じゃあ誤魔化すのか? そんな必要ないだろ」】


【「確かにそうだけど……。どうなっても知らないよ」】


【「どうなっても?」】


【「お前の社会的立場が危うくなるかもしれない」】


【「……。おい、やめろ」】


 通話終了。


 普通は、友達のお父さんがまったく知らない女の子を連れてきたらびびるだろう。

 千尋さんに変に思われても仕方がない。


「ごめんなさい。お待たせしました」


「いいよいいよ。今日はどんな服をご所望ですか?」


 咲の目がきらきらしている。

 完全に楽しくなっている目だ。


「咲ちゃん、この子……」


「あ、私、そのー、有馬です」


「有馬ちゃん!? へー。あの人、娘さんいたんだ」


 ――そうきたか。


「あの人?」


「えーっと、お父さんの友達の有馬さん。うちのお母さんと結婚する前から仲良かったんだって。私も何回か会ったことあるの」


「意外! 私のこと覚えててくれたんですか?」


「ん? でも有馬さん、私と同い年の子供なんていたのかな?」


 やべ。

 そもそも私なんか存在したはずがない。


「じゃあ全く知らない子じゃないんだよね。よかった……」


「びっくりさせちゃってすみません」


「いやいや、私こそ変なこと考えちゃった」


 千尋は両手をぶんぶん振る。

 申し訳なさそうにはしているが、まだ若干引っかかっている顔ではある。そりゃそうだ。


「あれ。でも有馬さん、結婚してたのかな?」


 咲め。

 勝手に娘の存在を作り出しておいて、その存在を自分で疑うな。


「まあいいや! それよりどんな服?」


 いいんかい。

 奏は心の中で苦笑した。


「そ、そうですね。さっき行った店で外で着る服買ったので、次は部屋着が見たいです」


「じゃああの店だね」


「あそこ一択だね」


「じゃあそこ行きましょ。どっちですか?」


 連れていかれたのは、ふわふわした心地いい香りのする寝具屋だった。

 ピンク、水色、白。

 色がとにかく可愛い。視界全体が柔らかい。

 しかも妙に女の子らしい空間として完成されていて、奏は店に入った瞬間ちょっとたじろいだ。


「どれにする? ちょうど私もこの可愛いやつ欲しかったんだよね」


 咲はハンガーに掛かった、綿素材の前開きパジャマを手に取る。

 ピンクと白を基調にした、見るからに“かわいい”やつだ。


「え! めっちゃ可愛いし肌触り良っ」


「でしょでしょ。奏ちゃんもこれどう? 可愛いでしょ」


 咲はパジャマを奏の体に重ねた。

 鏡の前で合わせられると、逃げ場がない。


「いいじゃん。サイズ感も多分バッチリ」


 奏は重ねられたパジャマを、ハンガーごと受け取る。

 そして何気なく値札を見た。


「Mサイズ……は!……」


 16900!?


 びびりすぎて、危うく声に出るところだった。

 パジャマってそんなするのか。

 寝るだけだぞ。

 いや、着心地とか素材とか分かるけども。


「い、いいんじゃないですか」


 若干声が上ずる。

 しかし咲はまったく気づかず、次の獲物を見つけた顔をした。


「見て見て! こっちのも可愛いよ!」


 あー、これ終わらないやつだ。

色々見て回ったものの、最初に目に入ったパジャマを購入。

咲はピンク×白、千尋は水色×白。そして奏はオレンジ×白。

買ってしまいました。


次回からお仕事です。

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