表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
♂転性してもエアラインパイロット♀  作者: 月隠優
第一章 パイロット復帰

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/32

5話 買い物1

「……ちょっ! 待って」


 拓也が後ろを振り向いても、すぐ近くに俺の姿はない。

 少し先まで歩いてから、ようやく立ち止まった。


「あ、わりい」


「大丈夫だけど、速すぎ。疲れた」


 今まで自分もこれだけの速さで歩いていたのかと、奏は少々驚きながら追いつく。

 前は普通についていけていたはずなのに、今はちょっと油断するとすぐ距離が開く。歩幅の差は想像以上だった。


「私、渋谷なんかほとんど行ったことないや。人多いな……」


「そりゃ土曜の昼だし」


 周りを見渡す。

 カップル、学生、買い物帰りらしい人たち、意外と多いサラリーマン。

 少し立ち止まるだけで人の流れに押されそうになる。昔はもう少し頭一つぶん高い位置から眺めていた景色を、今は見上げる立場で見ているのが妙に落ち着かない。


「どこか良さげなところあるの?」


「全然わからんから、さっきメールで助っ人呼んだ」


「咲ちゃん?」


「部活終わったら友達と来るって。なんか一着買ってやるって言ったら秒で返信きた」


 最後に彼女に会ったのはいつだっただろう。

 たしか、小学校高学年くらいの頃だ。

 今はもう高校生らしい。


「そりゃ頼もしい」


「まだ時間かかるらしいから、適当に見て回ろ」


「うい」


 有名な交差点は、信じられないほど人で溢れていた。

 ぼーっとしていると、拓也とはぐれるし、他の人の流れに飲まれる。

 しかも今の自分は、以前みたいに少し背伸びして周りを見渡す側ではなく、完全に埋もれる側だ。


 拓也はふと足を緩めて、道の反対側にある店を指差した。


「とりあえず、この辺のとかどうだ」


「絶対高いやつじゃん」


 一着十万とかしそうな店じゃないか。

 まあ奢りなら構わないけど、流石に日常で着るには気が引ける。


「もうちょっとリーズナブルの……ああいう店とか?」


「意外と可愛い店選ぶな」


「なんかよくわからんけど、可愛いの見ると無意識に見惚れちゃう事あって……」


「なんだそれ。まあ、そういうこともあるか」


 店に入ると、カバンコーナーがあるからか、上質な革の香りが漂っていた。


「いらっしゃいませ〜、ごゆっくりご覧ください」


 慣れた口ぶりで、女性店員が服を畳みながら声をかけてくる。


「どういうのがいいかな?」


「とりあえず普段着は咲ちゃんに選んでもらうとして……この店で買うなら仕事でも使える服かな」


「そんな派手じゃなくて、大人っぽいやつか……これとか?」


 拓也が指差したのは、虎柄模様がびっしり敷き詰められたコートだった。


「んなもん着てったら注目の的だわ」


「着てなくても視線は集めるぞ。お前、ぱっと見中学生か高校生だし、そんな奴がブリーフィングルームうろちょろしてたら嫌でも目につくわ」


「そんな大袈裟な」


「何かお探しのものございますか?」


 さっきの店員が、にこやかに近づいてくる。


「そうじゃん。こういうのはプロに聞いた方が早いって。えーっと、こいつの外出用の服で、三、四着おすすめなのありませんか?」


「中学生の方でしたら、あちらの列にある服が大変人気となってま――もしよければご覧ください。私も数着探してきますね」


「???!!」


「???」


 俺が鏡を見て目を見開くと、店員は少し首を傾げたままスタスタと奥へ行ってしまった。


「あ、ありがとうございます。とりあえず……」


「中学生……か?」


「そう見えてもおかしくない」


 店員が勧めてくれた一角は、たしかに若い子に人気がありそうだった。

 露出多めの服から、ぶかぶかの萌え袖系まで、かなり幅広い。

 どれも可愛いのは可愛い。

 そして、どれもなかなかいい値段がする。


 ハンガーに掛けられた服を大ざっぱに目で追っていく。

 一つのハンガーに二枚組み合わせて掛けてあるものもあり、組み合わせの妙にちょっと感心した。

 しっかりした店だけあって、どれも質感がよく、変な安っぽさがない。


「とりあえず、これとこれは買っとこうかな」


「いいじゃん。試着とかしなくていいの?」


「いつもネットだったし、ぱっと見サイズ感も合ってるから大丈夫」


 白い長袖Tシャツと、ベージュのワンピースっぽい組み合わせ。

 それに、水色のパーカーを鏡の前で自分に重ねてみる。


「なんだ、スカートはくんだな。嫌がると思ってた」


「最初はな。でも意外と便利だった」


「便利?」


「お客様、身長153cmくらいでよろしいですか?」


 不意に店員に話しかけられて、奏は少し肩を揺らした。


「そうなのか?」


 拓也が奏の頭に手を置く。


「はい。だいたい」


 身体検査で測った時は152.4cmだった。

 見た目でそこまで分かるものなのか。プロ怖い。


「こちらに二着ほど用意したので、もしよろしければあちらに試着室ございますので、試してみてください」


「ありがとうございます。これ持ってて」


「ほい」


 畳まれた服を持って試着室へ入る。

 カーテンではなく扉があり、中に入ると完全に個室だった。

 暖かみのある明かり、茶色のふかっとした絨毯、模様入りの壁。妙に落ち着く空間だ。


「そちらの服は試着されなくて大丈夫ですか? もしよろしければお渡ししますが」


「いえ、大丈夫です。あの……手袋とかあったりしますか?」


「はい、あちらにございます。お荷物お持ちしますので、どうぞご覧になってください」


「ありがとうございます」


 別のスタッフが来て、奏が選んだ服を不備がないか確認しながら丁寧に畳んでいく。


「こちらのですと、外は革で中は柔らかい生地になっていて、薄くて暖かいので大変人気となっております」


「いいですね。これの黒色ってありますか?」


「そちらに」


 店員さんは、拓也の手元のすぐ下を示した。


「本当だ……」


 革独特の質感と薄さは、とても使い勝手が良さそうだ。

 しかも暖かい。これは普通に欲しくなる。


「娘さんといらっしゃるお父さんって珍しいですね。今日は娘さんのお誕生日だったりするんですか?」


「あ、いえ全然。親じゃないです」


「……?」


 店員が何を考えたかには触れないでおこう。

 拓也が余計なことを言い出さないか少しだけ心配になる。


「あいつは仕事の同僚で、なんなら上司です」


「あれ、そうなんですか。それは大変失礼しました」


「ああ、気にしないでください」


 店員が頭を下げるので、拓也も慌てて手を振る。

 妙な空気だった。


 手袋を持って店内を見ていると、奏が試着室から戻ってくる。


「どっちもいい感じ。この際だから買っちゃう」


「言うまでもなく鴨じゃん」


「そうかもしれないけど、実際気に入った。拓也もなんか見てったら?」


 拓也は手袋を奏の前に出した。


「なるほどね。いいじゃん」


 そのまま会計へ向かう。


「お買い上げ七点で、十三万五千三百円となります」


「え、で何、どこまで奢ってくれるん?」


「ちくしょう」


 結局、退院祝いとして全額拓也持ちとなった。


「その代わりって言っちゃなんだが、咲たちの分は頼んだ」


「じゃあ、ちょっと遅いけど私からの高校入学祝いって事で」


 ちょうどそのタイミングで、拓也のスマホに連絡が入る。

 咲が友達と二人で渋谷に到着したらしい。

 しかも、自撮り写真つきで。

自分もちょっと良さげな店行ったら、店員さんに

(お客様の場合○○cmですから...)

と1cmの誤差で当てられてビビった記憶があります。


次回は拓也の娘も来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ