8話 フランクフルト2
「ねえねえ咲、外明るいね」
映画を見終わった千尋が、窓の外を見ながら咲に話しかける。
「今日はずっと明るいよ」
「そうなの?」
窓の下に広がっているのはユーラシア大陸。
どこなのかは、さっぱり分からないけれど。
コックピットでは、巡航中の確認が続いていた。
「この先さらに風強そうだから速度上げるね」
「揺れはしませんよね」
「多分大丈夫だと思うけど、兆候があったらすぐにベルトサインして」
「わかりました」
ちょうどそのタイミングで、キャビンアテンダントが飲み物を持ってきた。
「お飲み物いかがですか?」
奏が座っているのを見て、CAがほんの少しだけ目を丸くする。
見慣れない顔が当たり前みたいにそこに座っていれば、そりゃ驚く。
「大丈夫ですよ。この人、俺より全然ベテランなんで」
拓也が軽く言う。
「ラーメン下さい」
「太りますよ」
「冗談です。コンソメスープ下さい」
「今準備しますね」
CAが下がると、佐内が奏の腕を見て言った。
「有馬さん、日焼け止め塗りました?」
「何でですか?」
「それは塗ってないってことですね。だめですよ、塗らないと。ただでさえ日中のフライトは肌に悪いですから」
佐内は奏のフライトバッグへ視線を向ける。
「すみません。僕のカバンの中に日焼け止め入ってるんで、取ってもらってもいいですか? 多分一番上に……」
「コンソメスープです。こっちの黒い方ですか?」
「いや、白い方」
奏のバッグが黒なので、想像と逆だったらしい。
CAは少し恥ずかしそうに笑った。
「これ本当に効果あるんですか?」
「あるに決まってるじゃないですか。まさかそんなこと疑って使ってなかったんですか? それにしては肌白いような……」
「いや、どちらかと言うとめんどくさかったからかな」
「……塗ってください」
「そうですよ、塗らないと」
CAにまで言われた。
「は、はい」
奏はしぶしぶ受け取る。
飛行機に乗ってるだけで、日焼け止めを勧められる日が来るとは思わなかった。
やがて機体はドイツへ近づき、降下を開始する。
操縦席には拓也と佐内。後ろには田村と奏が座っていた。
「混んでますね」
無線を聞いていた佐内が、ぼそりとつぶやく。
「想定の範囲内だ」
拓也は短く答える。
だが、その言い方は“余裕”というより“自分にもそう言い聞かせている”に近かった。
「あ、また一機ゴーアラウンドした」
別の無線を聞いた奏が、さらっと言う。
「そ、想定の範囲内だ」
さっきより少しだけ説得力が落ちた。
田村は何も言わなかったが、顔はちょっと強張っていた。
管制から待機命令が出る。
拓也は待機する場所を確認し、旋回を開始させた。
その横で、燃料残量とも睨めっこしている。
まだ二時間半は飛んでいられる。
だが、さらに長時間の待機やゴーアラ、代替空港へのダイバートを考えると、のんびりもしていられない残量だ。
「頼む、アプローチ許可出してくれ。出してくれたら無理しない範囲で一発で下ろすから」
「あ、拓也、またダメだった。風があるのと視界があんまり良くないらしい」
奏は、さらっと追加の圧をかける。
「まあオートランドで……」
「横風制限値超えてます」
佐内が新しく来た気象データを確認して答える。
「……わかってる」
拓也の返事が短い。
これは本格的に面倒なやつだ。
三十分ほどして、ようやく管制からアプローチ許可が出た。
「よし、降りるぞ。アプローチボタンプッシュ。あと田村、アプローチ許可出たって後ろに伝えて」
「わかりました」
「奏は無線聞いてて」
「はーい」
「佐内は機内アナウンス。かなり揺れるぞって」
「承知しました」
みんな一斉に動き出す。
コックピットの空気が、一瞬で仕事モードの濃度を増した。
『本日はAIR航空をご利用くださり、誠にありがとうございます。操縦士の佐内です。えー、ただいま着陸に向けて本格的に降下を開始しました。この先、厚い雲を抜けるなど、大変気流の悪いところを通過します。大きな揺れが予想されますが、安全な飛行に影響はございません。どうかご安心ください。着陸までは二十分を予定し……!!』
急に機体が揺れた。
『……予定しています。しばらくお待ちください』
「なんですか?」
田村が身を乗り出す。
「多分、前飛んでる飛行機の乱気流。えーっと、拓也。リクエストターンleft、方位ヘディング230とか?」
「奏さん、220で十分じゃないですか?」
佐内が方位を変えるダイヤルへ手を伸ばしながら、奏に確認する。
「ついでにあの雲も避けたい」
「レーダーじゃ異常ありませんよ」
「少しでも揺らしたくないのと、あの雲ぱっと見やばそう」
「俺も奏に賛成だ。佐内、230許可もらって」
「わかりました」
佐内はダイヤルを230にセットし、管制へ旋回許可を取る。
許可が出ると、ボタンを押して機首が自動でその方位へ向いた。
速度を徐々に下げ、フラップを展開。
着陸装置を下ろし、最終進入航路へ乗る。
そして管制から着陸許可が出た。
雨が強くなってきたので、拓也はワイパーを入れた。
「見えた! エアポートインサイト」
「チェック。頑張ってください」
「ああ」
その頃、客室では。
「咲、暗くなったよ?」
「それはあれ、雲の中だからだよ。だいぶ厚そうだね」
『本日はNHA航空をご利用くださり、誠にありがとうございます。操縦士の佐内です。えー……』
「わざわざアナウンス入れるほど天気悪いみたいだね」
「普段はないの?」
「さあ? お父さんたちの気分だとおも――!!」
機体が急にぐらりと揺れた。
「咲、今のすごかったね」
「私もあんなに強烈なの初めてかも。これから雲突っ込むし、もっと揺れるかも」
「こわ」
「大丈夫大丈夫。なんやかんや言って、この飛行機アクロバットしても壊れないから」
「本当?」
「……」
「……」
機体はしばらく揺れ続けた。
やがて雲の下に出ると、ヨーロッパの街並みが見えてくる。
天気は悪いけど。
そして着陸。
機体は激しく接地し、急激な前Gとともに減速する。
『皆さま。当機はフランクフルト国際空港に着陸いたしました……』
スポットへ入り、機体が停止する。
シートベルトサインが消えるまで立つなとアナウンスがあったにもかかわらず、周りの人たちは早くも立ち上がって頭上から荷物を下ろし始めていた。
千尋はちゃんとシートベルトサインが消えるのを待ち、それと同時に立ち上がってお尻をさする。
「結構な衝撃だったね。咲ちゃん大丈夫?」
「まあ雨だしね。わざとだから大丈夫だよ」
「わざとなの?」
「まあシンプルに風が強くて強く接地することもあるけど、雨の日は水たまりで滑らないように強く接地させるんだって」
「へー」
少し語弊のある説明な気もするが、
さて、外はまあまあな雨。
勢いで来たものの、これからどうしようか。
意味わからないことだらけでしたらすみません。
質問くださればわかる範囲でお答えします。
できるだけわかりやすく書くように努力しますので今後ともよろしくお願いします。




