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♂転性してもエアラインパイロット♀  作者: 月隠優
第一章 パイロット復帰
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4話 相棒

「はい!おつかれ様でしたー」


監査官が奏の身支度が整うのを待って恒例の挨拶をする。


「ありがとうございます。今日はこれだけですか?」


隣では、フルフライトシミュレーターの箱が大きく動いている。一体何をやらかしたらあんなに揺れるのだろうか。おそらく中の人は半泣きだろう。


「ええ。特に他に用がなければ今日はもう帰ってもらって大丈夫です。操作に危ういところもなかったですし...。監査、通るかは身体検査次第でしょう。何か気になることでも?」

「いえ、大丈夫です」


深々と頭を下げて監査官を見送る。

ガラスに映る縮んでしまった自分の体、綺麗な華奢な手を握りしめた。

ガッツポーズなのか、不安なのかは自分にもわからない。


ロッカーにしまってあったフライトバックを片づけていると隣に監査を一緒に受けた後輩がやってきた。


「先輩お疲れ様です」

「うん。おつかれ。やっぱ場数って大事だね、あんなもたもたしてた訓練生が、緊急時の対応もこんなに立派になっちゃって」

「いえいえ、先輩がしっかりしてたからこそできることです。やっぱり「本当」に先輩なんですね?...」

「そうだよ。まだ信じられない?」

「信じる信じないってより、あまりに現実的じゃないというか..」


後輩が私の顔を覗き込もうとするが


「私のここにはちゃんと君と初めての福岡便の記憶がバッチリ残ってるy...」


自分の頭をトントン指差しながら口角を上げてやると


「あゎぁゎー!その話はオフレコです!」


急に姿勢を正す


「あははは、忘れないよー」

「お願いですから忘れてください。先輩仕事いつからなんですか?」

「まだわからない。身体検査通ってるかもわからないし、そっちは?」

「明日は午後スタンバイで、明後日はロスです。先輩この後一杯どうっすか?」

「シミュが夜だったからか、昨日パリだったからかは知らないけど、今まだ真昼間だよ」

「あれぇ?」

「ごめんね。今日は先約があるの、しばらくこっちフライトないからそっちの都合がいい時連絡してよ。」

「わかりました。じゃあ4日後まで我慢します」

「奢ってね。私今無職だから」

「貯金は俺の数倍ありそうですけどね」

「「ははは」」


ーーーーーーーーーーー


荷物をまとめて訓練施設を後にする。

更衣室で制服から私服に着替えてロビーに戻ると知人がスマホ片手に柱にもたれている。

スケジュールの確認だろうか、声をかけずに近づいてスマホを覗く。


画面は真っ暗で反射した知人の顔が映る。


「おお、遅かったな、その、なんだ...1ヶ月ぶり?だよな?」


気まずそうに振り返るが、1ヶ月ぶりに見る相棒の変わった姿を見てどこか眼の焦点が合っていない。


遊馬拓也(あすまたくや)とは訓練生からの同期である。

同い年ではあるが見た目はとても若く46歳には思えない。

髭もちゃんと剃られていて、髪型もしっかり整えている。

第一印象は中学の理科の先生かな?であり25年近く経った今もその面影は残っている。


長い時間一緒に過ごしてきただけあって、私の姿を目の前にしてもどこか割り切れない様子だ。


わからなくない。


実際怪我をしてから会うのは3週間ぶりで、連絡はしたが文字だけで、実物を見るとそれなりにショッキングなのか。

スケジュールが上手い具合に合わなくて会うのが今日になってしまった。


「この姿で会うのは初めてなのに、なんで()ってわかったの?別人かもしれないじゃん」

「なんとなくだよ。目がまんまお前。ちょっと待って、今いいところだから」

「目? てか拓也普通もっとがっつくよな。覇気がないというか...まさかもう既にやらかした?」


「...。」


赤の他人に「久しぶり!」とでも声をかけたのだろうか。

やっちまったな。

気まずそうなのはこれが原因らしい。


拓也は音を立て手帳型のケースを畳みポケットに携帯を流し入れる。


「そういえば今日なんでわざわざここに?家集合でよかったじゃん」

「あー、一昨日傘忘れて。結構いいやつだから」


キャリーカバンの上に無造作に置かれた丈夫そうな折り畳み傘を指差す。どうやったら折り畳みを忘れるのだろうか...


(そう)こそなんだよその格好。もうちょっとましな服選べなかったのかよ」

「あー、ユニ〇ロで適当に選んだから。時間なかったし。あと一応知り合い以外には(かなで)で通してるから」

「ふーん、なら奏の家行く前に時間あるなら服選びに行こ」

「えー、いいよ、めんどくさいし金かかるし」

「はいはい、元気になった祝いで数着なら奢ってやるでさっさと来い。車の鍵ここかなー」


拓也は奏の鞄のチャック付きのポケットに手を伸ばす。

さすが腐れ縁。鍵の位置は御明答である。


「拓也今日何できたの?バス?」

「いやー、11時から訓練入ってた知り合いと一緒にタクシー」

「本当要領いいな、で?その鍵どうするの?」

「車借りるぜ、どうせ免許の写真も変わってないだろうし、何より俺が運転してた方が外見普通だろ」

「そんな室内ジロジロ見るかなー?まあいいや。めんどくさい事なってもやだし」

「どうせ店寄らずに家直行するだろし。そういえば免許の写真とかどうするんだ?」

「多分整形した時と同じ手順でなんとかなるんじゃないかな?多分...」

「多分?まあいいやとにかくさっさと行くぞ。俺今日夕方からスタンバイだし」


拓也は普通に駐車場に向かうが、こっちは早足じゃないと追いつけない。少し前までは俺の方が身長高かったのに、今では概算25センチ差。もはや親子である。



次回は拓也と買い物です。

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