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♂転性してもエアラインパイロット♀  作者: 月隠優
第一章 パイロット復帰
28/29

24話 本州縦断1

フライトが遅い日の奏の朝はゆったりとした時間が流れる。

薄暗い朝の光を頼りに冷蔵庫に向かい、中に入れて置いたペットボトルの水をコップに注ぎゴクゴクと一気に飲み干す。

ボサボサに寝癖のついた髪をかきあげて視界を確保し、部屋の電気とテレビをつける。適当に天気予報がやっているチャンネルがないか探し、やっていなかったらスマホでヤ○ー天気を開き、ざっと全国天気を把握する。


「札幌の天気は〜っと、外気温-4度?! さっむ...」


スマホの画面に映る可愛い雪だるまの絵が奏の視線を外へ促す。

昨日の時点で降ることは把握していたが…


「もうそんな季節ですか…」


奏の視界に広がるのは白灰色の世界。

太陽の光が当たらない雪に輝きはなく、どっしりとした重みを感じる。会社支給のタブレットで詳細な天気を確認しても、今日一日その景色が変わることがないことを目の当たりにする。


今日は時間に余裕があるため朝シャワーを決行する。

制服を準備し、シャワーの蛇口を捻る。

お湯になったタイミングを見計らい、頭をお湯の軌道上に突っ込むこの瞬間が最高にいい。


はぁ〜っと変な声が出そうになるのをグッと堪え、全身を温めたらすぐに体を拭く。


ワイシャツに着替え、荷物をまとめる。

部屋を片付け忘れ物がないか確認。

制服を着てキャップを被ったら鏡の前に立ち身だしなみの最終チェック。

確認し終えたらキャップをフライトバックにしまい、コートを着る。完全防備で部屋を後にするが、室内は少し暑かった。


部屋のチャックアウトを終え、売店でおにぎりを一つ買った後タクシーで空港に向かう。

雪が積もる中グングン進んで行くタクシーに関心しながらおにぎりを食べているうちに気付いたら空港に着いている。


フライトバッグを荷物置きに置き、少々ガヤガヤしている事務所に入ると副機長が奏を待っていた。


「おはようございます」

「おはようございます。やっぱり...」


奏は副機長の引きづる笑顔を見て大体のことを悟る。


「欠航にはなってないものの、今上空で待機している機体が10数機。まだわかりませんが2時間くらい遅れるかもしれません」

「既に欠航になってる便もあるのか...」


何とか降りて欲しいが、安全第一なので、見守るしかない。


「とりあえずノータムと気象チェック始めちゃおう」

「わかりました」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


予定の1時間40分遅れで奏たちの乗務する機体がスポットにやってきた。

整備士と客室乗務員が慌ただしく作業を進める中、奏たちも機体の引き継ぎ作業を続ける。

機体の故障している箇所の確認、乗客人数、荷物の量、燃料、飛行ルートの確認をしながら出発のタイミングを伺う。

遅れてるのだから早く出発しろよと思われるかもしれないがそんな簡単な話では無い。

まず出発のタイミングはパイロットが決められるものではない。管制官の指示を受ける必要がある。

次に防除雪氷作業の順番待ちの問題がある。そして防除雪氷剤の耐久時間が短く、離陸の順番待ちの間に翼に雪が積もってしまった場合再び作業が必要になる。

雪が翼に積もったり氷が付着することで翼面の形状が変化し、余計な抵抗を受けることで揚力が発生せず上手く飛べなくなってしまう。


「着陸機増えて時間かかってますね…」


防除雪氷作業を終えタキシングに集中する奏に副機長が話しかける。

日本では航空機にスタットレスタイヤを装着することはなく、止まらない、曲がらない、風で滑る機体は平常時の半分以下の速度で誘導路を進む。


パイロットは離陸前、非常時の手順の認識合わせを必ず行う。副機長と非常時の対応を話終わり、離陸順番が3番目になったタイミングでキャビンクルーに翼上点検をお願いする。


旅客機の翼の上を見ると、白い部分だけでなく黒や黄色の部分があると思う。そこを確認してもらい雪や氷の有無を確かめてもらう。


「どうでした?」

「その...微妙すぎてよくわかりませんでした」

「微妙か...」

「確かにタキシング開始時間から考えると、グレーですね」


副機長は腕時計を確認して翼端を覗き込んで少し考える。


「私行ってきます」


奏は椅子をスライドさせベルトを外しカバンから長袖の服を探す。


「わかりました。おそらく2機連続で離陸指示くるかと思うので早めにお願いしますね」


パーカーを見つけカバンの上に投げ、髪を解き制服の上に重ね着して、コックピットの外に出る。

御手洗に行って座席に戻るただの子供のふりをしながら我が物顔で通路を進む。


翼前のキャビンを越え翼上の客席まで来たタイミングで見覚えのある顔が目に入る。


「あ...」

「え...」


目があってしまった。



座っていたのは、娘の結婚式に向かう途中の...

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