20話 出発
誤字訂正本当に感謝です。
「エンジンスタートします。大丈夫でしょうか?」
奏はグラウンドと連携を取りながら、安全確認を行う。
外の作業員、トーイングカーの位置、周囲の障害物、そして後方のクリアランス。問題なし。
「エンジンスタートOKです」
「よし、スタートNo.2」
「No.2エンジンスタート」
奏が声をかけると、小出が復唱して第二エンジンの始動操作に入る。
実はこの機体、両エンジン同時始動も可能だ。だが急いでいない時は、一つずつ確実に確認しながら立ち上げていく方がいい。何事も、丁寧に越したことはない。
「No.2、スタビライ」
「スタートNo.1」
「No.1エンジンスタート」
回転数が上がり、各数値が落ち着いていくのを確認する。
音だけでなく、計器の動きにも耳を澄ますような感覚だ。異常がある時は、たいていどこかが不自然に見える。
「パーキングブレーキセットお願いします」
「了解しました」
パーキングブレーキをONにし、地上ではトーイングカーを外す作業が始まる。
エンジンが立ち上がったことで、電源供給源はAPUからエンジンへ切り替え可能になった。APUは停止。続けて地上走行前のチェックリストを進めていく。
「作業終了しました。いってらっしゃい」
「ありがとうございます。行ってきます」
出発準備が整う。
タキシング許可をもらい、ワイパーを動かし、機体がゆっくりと自走を始める。
誘導路は、もちろん管制官の指定したルートに従って走る。
その間にもやることは多い。
小出が操縦を担当しているので、奏はそのあいだにフライトコントロールチェックへ入る。
「エルロンライト」
奏は操縦桿をいっぱいまで右へ倒す。
コックピットのディスプレイで、エルロン、フラッペロン、スポイラーが正しく動いているかを確認する。機体を傾けるための制御面が、ちゃんとこちらの入力どおりに動いているか。ここは絶対に飛ばせない。
「エルロンレフト」
今度は左。
これも同様だ。
昔、この確認を怠ったために、整備ミスへ気づけず離陸してしまった事故がある。右へ操縦桿を倒したら左へ機体が傾く、という最悪の状態だ。緊急着陸には成功したが、そんな事態は確認一つで防げる。
「エレベーターアップ」
操縦桿を手前へ引く。
機首上げを起こすのは、機体後部の水平尾翼だ。
「エレベーターダウン」
今度は押して、降下方向の動きが正しいかを見る。
「ラダーライト」
足元のラダーペダルを踏み込むと、垂直尾翼についている方向舵が動く。
飛行機の向きを変える時、あるいは片発になった時のバランス取りで使う大事な舵だ。
「ラダーレフト」
左右とも確認する。
ラダーを動かす時は滑らせるように踏み、ブレーキをかける時は踵を支点につま先側で押し込む。ブレーキは左右独立しているので、右だけ、左だけ効かせることもできる。
誘導路を進み、やがて離陸待ちの列に着く。
【air nippon 225, contact tower 118.1】
「contact tower, air nippon 225」
【air nippon 225, wind 110 at 2, cleared for takeoff】
「cleared for takeoff, air nippon 225」
橋を渡り、奏が離陸許可を復唱したあと、ランディングライトとストロボライトを点灯させる。
小出はチラーを操作し、機体を滑走路中央線へ丁寧に合わせていく。
「オッケー、行こう」
「はい。Runway 05, takeoff」
小出がスラストレバーを五〇%付近まで進める。
「N1チェック」
「チェック、スタビライ」
安定を確認したところで、小出はTO/GAスイッチを押す。
自動で離陸推力へ入る。
小出は離陸中断時すぐ戻せるようレバーを握り、奏もそこへ手を添える。
「パワーセット」
二人とも、ここから先は何かあれば即反応だ。
「80」
「チェック」
速度が乗ってくる。
雨の滑走路を、B787がまっすぐ加速していく。ワイパー越しの灯火が流れて見える。
「V1」
奏がコールすると、小出は左手をスラストレバーから離し、操縦桿を握る。
V1。離陸決心速度。
ここを超えたら、止めるより飛ぶ方が安全だ。迷ってはいけない。だからこそ、手を離すという動作に意味がある。
「ローテイト」
小出が操縦桿をぐっと引く。
B787はギアが比較的短く、機体と地面の距離が近い。雑に引けば尻もちをつく。だが引きが甘ければ浮かない。その塩梅が難しい。
「V2」
安全離陸速度。
これを下回ると安定が崩れやすくなる。その速度域へ入ったことを確認する。
「ポジティブレート」
「ギアアップ」
「ギアアップ」
小出の指示で、奏がギアを上げる。
05離陸後は、すぐに右旋回して海上へ出る。
【air nippon 225, contact departure 119.1】
「119.1, air nippon 225」
この時間帯は混雑している。挨拶はしない。
いや、心の中ではしてるけど。
「Tokyo Departure, air nippon 225, now leaving 1500, climb to FL170」
【air nippon 225, radar contact, turn right heading 140】
「right heading 140, air nippon 225」
風に揺られながら、機体はぐんぐん上昇していく。
この先さらに右旋回し、着陸機の流れと交差するので、高度差はしっかり稼がなければならない。
【air nippon 225, turn right heading 240】
「turn right heading 240, air nippon 225」
ここで奏はオートパイロットを入れる。
ランディングライトを消し、ワイパーを止め、右手をフラップレバーへ伸ばした。
「フラップ5」
「スピードチェック、フラップ5」
小出の指示で、離陸用に出していたフラップを一段ずつしまっていく。
飛行速度は、管制から特に指示がない限りこちらで決められる。後続機がどんどん来る時間帯なので、早めに制限速度ぎりぎりまで加速しておきたい。
「フラップアップ」
「スピードチェック、フラップアップ」
飛行機は時折ガタガタと揺れながら雲を抜けていく。
奏は外を見て、目視で避けるべき雲がないか探しつつ、燃料の減り方に異常がないかも確認する。
静岡に近づいたあたりで揺れが落ち着いてきた。
予定より少し早いが、ここでシートベルトサインを消す。
やがて左旋回へ入り、那覇へ向けて進路を取った。
航空無線では聞き間違え防止でフォネティックコードが使われています。
Aはアルファ、Bはブラボー、Cはチャーリー、Zはズール。このようにDEのように聞き分けが困難なものでも、デルタエコーといえばはっきり分かります。
9(ナイン)は、ナイナーといいます。ドイツ語のNoがナインって言うらしくその間違え防止などと聞きますが実際のところはよく分かりません。かっこいいからかな?
119.1であれば、ワンワンナイナーデシマルワン、もしくはワンワンナイナーポイントワンのように言います。その後パイロットは1191(ワンワンナイナーワン)と端折ります。奏も端折ります笑




