19話 那覇空港に向けて
今日のフライトは、最初の2便で小出が操縦(PF)を担当。最後の千歳行きを奏が担当する。
小出が“雨”の中、外部点検に行っている間に奏はコックピットで必要なデータを入力していく。
航空路、搭乗人数、燃料の積載量、貨物、重心位置などなど。スイッチ類が在るべき方を向いているか。警告音、警告灯が正しく動作するかなど、時間が許す限り入念に確認していく。
小出は外部点検から帰ってくると、奏が入力した内容をCAさん達の準備が終わるまで確認する。
CAさんたちの準備が終わったら機内でブリーフィングが始まる。
「おはようございます。キャプテンの有馬と」
「副操縦小出です」
「今日は最後の千歳便だけ私がPF担当しますので、その他の便で何かありましたら私の方に報告お願いします。1便目の沖縄行きですが、関東、東海圏であまり気流が良くないので、シートベルトサイン消すのは遅くなります。静岡より左に行ったあたりくらいから沖縄までは比較的安定すると思うので、その間にサービスの方よろしくお願いします。なので伊丹便は比較的問題なく行けると思います。乗り継ぎのお客さんが、いらっしゃるんですよねチーフ?」
「そうですね、次の便の出発まで時間があまりないそうなのでオンタイムでお願いします」
「だって小出くん」
「承知しております」
「それから問題の千歳便ですが...、」
みんなの視線が強すぎて目線が窓の方に泳いでしまいそうになるが...、いや泳いじゃってる。
奏は小さく咳払いして話を続ける。
「まだ予報なのではっきりしたことはわかりませんが、数字だけ見てる様子ですと一回で降ろすのは難しそうです。降下中、着陸復行後の上昇中は非常に揺れます。嘔吐してしまうお客さんも出てきてしまうと思います。最善は尽くしますが、貨物も乗客も燃料も多く積む予定でいるので機体が重く1、2回目は結構シビアなので...。ご理解の程よろしくお願いします」
「大丈夫です。安全第一でよろしくお願いします」
「他何かありますか? 内容でしたら以上で終わります。今日はよろしくお願いします」
機体重量が大きくなればなるほど、着陸時の制動距離は長くなる。着陸を数回やり直し、もしもの際は別の空港に向かうだけの燃料を積んだ飛行機の制動距離はまあまあ長く、なおかつ雪で滑る滑走路で機体を止めるためには、狙った位置に接地しなくてはならない。夜になり視界が悪く、かつ風が強くて狙った位置にタッチダウンするのも難しいこの状況で、様子見もなく一発で降ろす自信は奏でにはなかった。
とりあえずまだ状況はわからない。行ってみたら案外行けちゃったなんてこともしばしばあるので今気にしてても仕方ない。
とりあえず...。
「ん、どこ行くんですかキャプテン?」
「トイレだよ」
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コックピットに戻ってきた奏はヘッドセットをつけてシートベルトをする。
ヘッドセットは右耳から管制管の声、左耳からCAさんやグラウンドさんとの連絡が取れるになっている。
地上では、燃料の給油が終わり貨物の積み込みが始まっている。搭乗口あたりの人が増え始め、少し遅れていたトーイングカーもやってきていよいよ出発だ。
お客様のご搭乗が始まり、管制に飛行計画を報告し飛行許可をもらう。
グラウンドからトーイングカーの連結作業が終わった旨の報告を受け、客室の状況を確認する。客室の準備が整った報告を受け、プッシュバックを開始する旨を伝える。
グラウンドさんはタイヤ留めなどを外しプッシュバックに備える。
管制からプッシュバック許可をもらい、ビーコンライト(機体上下で赤く光る)を点滅させいよいよ出発。
「パーキングブレーキリリースお願いします」
「パーキングブレーキリリースします」
パーキングブレーキをOFFにし、ニュートラル状態になった飛行機をトーイングカーがゆっくりと押していく。
いよいよ飛行機が動き出しました。
飛ぶまでにはもう少し準備が必要です。
次回は上昇と千歳に向けてです