14話 ロンドン
皆さんご存知の通り、ロンドンまで最短で行くにはシベリア上空を通る必要がある。
まだこの機体なら基本は大丈夫なはずだが...
「有馬さん、外気温結構低いですね」
「fuel temp(燃料温度)は...、大丈夫そうだけど...」
「一応降下の可能性考えときます?」
「この辺の下の気流悪いってさっき誰か報告してなかったっけ?」
「もう少し手前じゃなかったですか? 確認しますね」
「ありがとうございます。お願いしまーす」
燃料温度が-45℃よりも低くなると燃料が凍結してしまう恐れがあるので、この場合飛行高度を下げるか、南に少し迂回するルートを通るなど、何らかの対策をとる必要がある。
B787は熱伝導製の低い物質で機体ができているので本来なら心配する必要はないが、一応確認は怠らない。
奏はCAさんが持ってきてくれたコーヒーを啜りながら外を眺める。
他の飛行機がこちらに向かって来るのがわかる。
まあ高度が異なるのでぶつかることはないが。
微妙に機体が揺れ始める。
最近ロシア上空でやたら積乱雲を見る。
地球温暖化が原因なのだろうか...。
奏は反射的にシートベルトサインをつける。乗客はほとんど寝ているが、CAに一応揺れるかもと伝えるための警告の意味が強い。
言葉でもCAさんに揺れるかもと一言添えておいたが...
小刻みには揺れたものの10分後には穏やかになる。
到着したらCAさんに謝っておこう...。
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ロンドン-ヒースロー空港。LHR。
ロンドン西部に位置するイギリス最大の国際空港。
巨大な2本の滑走路と5つのターミナルを落ち合わせ
(そのうち一つは貨物便ターミナル)、
実は3本目の滑走路増設が計画されていた。
(環境問題とコロナの関係で今はどうなってるか知らないが...)
とにかく規模がでかい。
綺麗。
天井高い。
ガラス張り...
ラウンジもとても上質な空間でめっちゃ金かけて作ったんだろうなー、なんて考えながら歩いていると人が多すぎてぶつかりそうになる。
明日は1日自由なのでロンドン観光でもしてみようか。
そういえば今夜はコーパイから食事に誘われていた。
昔は機長が誘ってコーパイは断りずらい、みたいな光景をよく見たが、
というか断れなかったが、
最近キャプテンが誘っても断れる環境になってきていると思う。
若いコーパイがCAさんを誘ってキャプテンもいかがですか? って誘ってくれるのは、昔から喜ぶキャプテンもいれば(本心かは知らんけど)、即刻断るキャプテンもいた。
めっちゃ顔の広いキャプテンはCAさんコーパイみんな引き連れて、しかも奢ってくださるめっちゃ凄い人もいたが。
ちなみに、知り合いのCAがいたらキャプテンに誘われる前にコーパイから誘うことで、キャプテンと2人きりのめっちゃ気まずい食事は避けることが出来た。(2人で楽しめるキャプテンもいた)
が...。
奏は今日、CAさん達にいじられながら食事をする羽目となった。
「何このすべすべのお肌、しかも白!」
「やだこの子すっぴんだよ。お目目パチパチしてるし」
「あーあ、私もこういう娘が欲しかったなー。うちのバカ息子3人と言ったら、壁に穴開けるわ服泥だらけだわ、明後日も帰ったら気が重くなるのよ...」
他にも色々な話で盛り上がるが、
「やべぇ。なんの話してるか全っ全分からん」
この空間で40代は奏のみ。しかも40後半。
他20〜30前半。
あ、即刻断ってたキャプテンの気持ち何となく分かったかも。
今更ながらやべえところ誘おうとしててすみませんでした。
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みんな程よく酔っ払ってホテルに向かう。
奏はもう眠い。
帰りの電車の中でうたた寝していたらCAさんに起こされる。
周りから見たら、大人の集まりの中に子供が1人。
しかも日本人の高校生ってヨーロッパの中学生、下手したら小学生に見えなくもないから余計異様な光景である。
部屋に着いて着替えて布団にダイブする。
その後の記憶がもうありません。
奏も昔はコーパイで、先輩パイロットからめっちゃ叱られてた時もあるんですよ。
人の命かかってるから、本当にやらかす前に本気で叱って下さったキャプテンには本当に感謝です。
嫌味や愚痴を言い続けるキャプテンは嫌いだったけど




