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魔女と騎士  作者: 猫の玉三郎


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89話◆魔女は応援する

 ヴィンセントの応援に行く。すごくすごーく悩んだすえに領都行きを決め、ギルド長にたのんで一緒に連れて行ってもらった。馬車にもタダで乗せてくれて、宿代も払わせてくれないギルド長はなんて男前だろう。闘技場に行けばもうすでに試合は始まっていて、ヴィンセントを見つけた時はもう準々決勝だった。そしてこっそり応援していたはずなのに、あの侍従に見つかってしまう。


「おい、コイツちょっと借りるぞ」


 突然の誘拐宣言に激怒するギルド長だったが、知り合いなので大丈夫だと言っておさめてもらう。この口が悪い侍従が動くときはヴィンセントがらみだ。たぶん殺されるようなことはないだろう。……たぶんね。


 ちゃんと歩いているのに「おそい」と言われ、かつがれる始末。やはり主人もろとも私を人扱いしていない時があるようだ。二人そろったときにでもひと言いってやらなきゃ。どんどん人気の少ない所へ連れて行かれ、まさかまさか、本当に今日こそお命ちょうだいされる? なんて密かに緊張していたら、到着したのはなんとヴィンセントの控え室だった。サムが私をぞんざいに放るもんだから変な声が出てしまい、立ち上がると汗に濡れたヴィンセントを見つけた。


 二ヶ月ぶりに見た彼は、少し陽に焼けて精悍せいかんになっていた。やっぱりキレイな顔をしてても男の子だ。指輪の効果で神がかった美青年から、ただの美青年に姿を変えているけれど、あの指輪でこうとは、もとの美貌がどれだけすばらしかったのかわかる。


 ヴィンセントにそっと手を伸ばして触れても、すぐさま侍従にはたき落とされた。しかし気づけばヴィンセントと食事に行く約束をしてしまい、彼はまた試合に向かってしまった。


「若様とお食事の約束をするとは……身のほど知らずもいいところだぞ。恥を知れ」


 観覧席への道がわからないからとサムに案内してもらう途中、予想通りこの男はぶーぶーと不満をぶつけてきた。そんなこと言われてもねぇ。


「あんな顔されたらああ言うしかないじゃない。断った時のヴィンセント見た? あんな捨てられた仔犬みたいな……ていうか、なんであそこへ連れていったのよ。ヴィンセントびっくりしてたじゃない。知ってて連れてきたのかと思ってたわ」

「ふん。あの時の若様を見ていないからそう言えるのだ。『マリアは来ていないのか』と肩を落とされ……俺だってあの憂いのあるご表情は見るに耐えない。不本意だがあの時はああするしかないと思ったんだ」


 私もサムも大真面目な顔で言っているのがおかしくて笑えてくる。


「……あなたに連れていかれなかったら、きっとヴィンセントには会わなかったでしょうね」

「くそ、余計なことをしたか」

「おかげで久しぶりに彼を見れてうれしかったわ。ありがとね、サム」

「貴様に礼を言われたところでなんの得にもならん」


 憎まれ口をたたきながらもサムは元いた場所まで送ってくれた。もうすぐ試合は始まるようで、壇上に引かれた大きく四角い枠の中にヴィンセントと対戦相手が対峙している。


「西方、ヴィンセント・グスクーニア! 東方、フレドリック・コンスタンティン!」


 両者が一歩前に出て剣をかまえると、会場がわき立った。特に女性のかん高い声援が目立つ。


「ヴィンセント様! ファイトです!」

「フレドリックさまぁ、こっち向いてー!」

「キャーどっちも素敵ー!」


 近くの席でお嬢さんたちが声を張り上げている。どうやらお相手にもファンがいるらしい。割合は6:4でヴィンセントが多いぐらいだろうか。もう試合が始まるとあってサムはこの場にとどまった。ヴィンセントの武勇を見逃さないようだろう。しかしサムは苦々しく顔をしかめた。きっと、一般人ごときがヴィンセントの名を呼ぶとはなんたらかんたらと思っているに違いない。


「やっぱりこういう声援っていいわね。試合にいどむ人はうれしいんじゃないかしら」


 なんのフォローにもならないけど声援の重要性を説くとサムは鼻を鳴らした。


「だったらお前もやれ」

「大きい声出すって性に合わないのよね」

「はあ?」

「ほら、始まるわよ」


 主審の合図と同時に二人とも即座に動いた。まじり合う剣がガリガリと音を鳴らしながら、両者がにらみ合っている。正直なにがどうやったら勝ちになるのかさっぱりわからない。剣先が相手に当たればいいってものでもないらしい。ギルド長に聞いたら重い一撃を入れるか、武器を落とさせたら一本となると言っていた。防御力の高い甲冑に剣先が少々かすったところで「重い一撃」という判定にはならないんだという。


「……よくわかんないわね」


 優勢か劣勢かはなんとなくわかるけど、動きが早すぎる。気づいたら勝負が終わってたものもあった。ヴィンセントは攻撃を受け流しているだけで防戦一方に見えるけど、どうなんだろう。


「相手は若様と同じ騎士隊だ。なにかと若様に突っかかってくるうるさい奴だから無様に負ければいいと思っている」

「ふぅーん」


 適当な相づちをうっていた次の瞬間、場内に悲鳴がわき起こった。見るとヴィンセントが床に膝をついていた。主審がフレドリックに一本を上げている。


「今、なにがあったの?」

「……あいつ、剣の柄で頭を攻撃してきやがった。反則ではないが攻撃に品がないため、あまり使わない技だ」

「剣の柄? じゃあ剣身を手に持って振り回したってこと?」

「そうだ。木剣だからそもそも切れ味はないし、本物の剣でも握っただけで手が切れるような鋭さはない。接近戦では有効な技だが、いかんせん反則味が強いから実戦ではともかくこういう試合ではあまり使われない」

「反則じゃないなら使ったもの勝ちね。……ヴィンセント大丈夫かしら」


 再び立ち上がり剣をかまえたヴィンセントは試合再開の合図と共にまた激しく剣を交えている。ふらつきはないように思えるけど心配だ。


「おまえの心配など不要だ。若様はお強い——」


 相手の攻撃してきた剣を大きくなぎ払い、態勢が崩れた瞬間を狙ってヴィンセントは胴に力強く斬り込んだ。その動作は疾風のように軽やかで、無駄がない美しい一太刀だった。


「一本!」


 どうやら技ありと判定されたようだ。これで同点。胸をホッとなで下ろすが、すぐさま試合は再開された。固唾をのみながら見守っていると、わずかながら相手の動きが鈍くなっていることに気付いた。


「……スタミナ切れ?」


 あの金属のかたまりのような甲冑を身にまとって、むしろよく動けるなと感心していたが、やはり限界はあるらしい。動きに俊敏さはなく、手数も少なくなってきたように見える。それに比べてヴィンセントはまだまだ動きがしっかりしていた。雑になった攻撃の隙をつき、ヴィンセントがもう一本をとって試合は終了した。かぶとをとって握手をしあう二人に、会場は拍手喝采の嵐だ。気づいた時にはもうサムの姿はなかった。きっとヴィンセントを迎えるために控え室に戻ったんだろう。


 ギルド長のもとへ帰るとひたすら大丈夫かと心配された。別に無体なことはなにもされてない。ちょっと担がれはしたけど。


「セシルの旦那さんが勝ち上がれば、決勝はその人となのよね。大丈夫かしら、ヴィンセント」

「ディーバ・ウィルソンの強さと言ったら有名ですからな。昨日あった腕力部門もぶっちぎりの優勝だったとか」

「まぁすてき」

「おや、マリアさんはお強い方がお好みですかな? ヴィンセント殿のような方がタイプだと思っていましたが」

「強い人って頼りがいがあって憧れるもの。見た目ならクマみたいな大っきい体の人がいいわ。顔の美醜はあんまり気にしてないわね」

「それはそれは」


 ほっほっほ、と口ひげをなでながらギルド長はほがらかに笑った。すっかり茶飲み友だちのようになってしまったギルド長。部下さんともすっかり顔なじみだ。


「決勝がいつ終わるかわからないけれど、夜はロイと食事の約束があるから時間になったら行ってくるわね。遅くなるかもだけど宿には帰ってくるわ」

「はい、承知しました」


 ギルド長と話していたら、周りから一気に歓声が上がった。どうやら次の準決勝が始まるらしく、試合場にはセシルの旦那さんと思われる御仁が仁王立ちしていた。なんと迫力のある姿だろうか。


「いけーっディーバ! やっちまえっ!」

「また頼むぜー! おらぁ全財産あんたに賭けてんだよー!」


 先ほどと違うのは男たちからの声援が多いことだろうか。野太い喝采があちこちから上がっていた。両者の紹介が終わったあと、主審が開始の合図をつげた。かまえた剣がぶつかると思った瞬間——


「一本!」


 どさりと後ろに尻もちをついたのは対戦相手だった。武器は床に転がっている。どうやらセシルの旦那さんはたった一撃で相手を吹っ飛ばしたようだ。


「……本当にヴィンセント、大丈夫かしら」


 けた違いの強さは、握りしめた手に汗をかかせた。

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