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魔女と騎士  作者: 猫の玉三郎


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87話◇騎士は大会へ出場する

 目先の目標を剣技部門の優勝に設定した。どこかで必ずディーバとの対戦が入る。彼に勝たないことには目標達成にならないので、そこを念頭に置いてトレーニングにはげんだ。倒れて弱りきった体はなんとか元に戻せたがその先へ進まなくては勝ちはない。


 剣技部門は相手と一対一の勝負。指定の木剣で相手を攻撃し、持ち込みの甲冑をつけて身を守る。ひとつの試合で審判を三人おき、攻撃の有用性を見ながら審判が三人とも技ありと判断すれば一本だ。時間内に二本取ればその場で勝ち。時間となっても一本とっていれば勝ちとなる。いかに相手に攻撃を打ち込むかで勝敗を決めるのだが、大事なのは甲冑えらびだ。防御を重視すれば甲冑は重くなり、動きがかなり制限される。装甲を薄くすれば防御力は下がるがそのぶん機動力が上がる。どちらをとるかは個人の自由だ。金属の種類やバランスや造形の美しさに多くの人たちの視線を集めるその甲冑は、世の男性の憧れである。


 ディーバは強い。やはり脅威なのはあの大きな背丈と分厚い肉体だ。また厳つい顔と闘志みなぎった眼力により、威圧感も尋常ではない。そしてくり出される一撃は力強く、重い。真っ正面から受け止めても力負けするのが目に見えている。私は背丈こそあるが、筋肉が付きにくくディーバほどの肉厚さはない。容姿のことを言われるのがいやで、訓練にも必死についていった。おかげで貧弱なお坊ちゃんからは卒業し、騎士業がそこそこ板についてきたところだ。


 ああいう脳筋体力バカとは持久戦になればなるほど不利になる。先手必勝、短期決戦。勝ちにいくならこれしかない。サムや剣術指南の先生に相手をしてもらいながら日々を過ごした。モルツが気を効かせてくれて、筋肉増量にはこれが一番だと「モルツ特性♡プロテインドリンク・カカオ味」を差し入れてくれた。すさまじい味だった。


 初秋の暑い日差しが体を焼く。したたる汗を手で拭うと、マリアからもらった指輪が目に入る。サムがタオルと飲み物を差し出してくれたのでありがたくもらい、のどを潤した。


「大会はもう明日ですね」

「ああ。緊張するな」

「若様なら大丈夫です」


 強くなろうと思ってもそれは一日二日でどうにかなるものじゃない。積み重ねた努力の末に手に入るものだ。剣さばきを体に叩き込み、体運びを足に覚えさせ、躊躇ちゅうちょなく打てるように何度も剣をうちこむ。


 努力が実るとは限らない。でも裏切りはしない。興奮と緊張でむかえた大会当日は、いつもより早く目覚めた。



 ◇



 剣技部門は甲冑を自分で用意しなければいけないために、基本的に貴族や豪商の男たちがでる。さらに言えば出場者の約7割が騎士隊の者だ。大会の最終日である今日は、総勢28名の参加者で行い、トーナメント方式で勝ち上がっていく。一回でも負けたらそこで終わりだ。ディーバと戦わずに負ける可能性だってある。油断して足元をすくわれてはいけない。確実に一勝を積み重ねないと優勝には手が届かないのだ。


 そして大会の会場は二百年前に建てられたという、石造りの円形闘技場だ。かつては命をかけた決闘が行われていたこともあったが、今では春と秋に開催される闘技大会に使われている。アリーナをぐるりと囲む観客席は二階までもあり、多くの見物客がそこで試合を観戦できる。


 一列にならんだ参加者はまず名前を読み上げられ紹介される。前回優勝のディーバが呼ばれると、観客席が大きく歓声をあげた。……以前までは私が呼ばれるとそれこそ阿鼻叫喚のような絶叫に包まれたのだが今年はどうだろう。マリアのくれた指輪は私の外見的魅力を抑えるものだ。どうか必要以上にさわがれませんように、と祈りながら順番を待つと「ヴィンセント・グスクーニア! 前回三位入賞!」と大きな声で呼ばれた。列から一歩出て一礼すると大きな歓声が上がった。だけど昨年ほどじゃない。そのことに大きな感動を覚えつつ私たちは壇上を後にした。……マリアはいるだろうか。去り際にちらりと見渡したが、あのきれいな赤毛は見つけられなかった。


 一回戦は全部で14試合。抽選の結果、私は3試合目で、いずれ勝ち進めば決勝でディーバと当たることとなった。それまで気を引き締めなければいけない。


「若様、どうぞ怪我にはお気をつけて」

「ああ」


 サムに見送られて会場へ向かう。ガチャガチャと金属音をひびかせ、地下通路のひんやりした石段をのぼり、アリーナへ向かう。木製とはいえ剣をあつかう以上、防具の着用はぜったいだ。頭部、腹、籠手こて部分を金属にすることさえ守れば全身金属鎧(フルプレート)じゃなくてもよい。とはいえほぼ全員が頭から爪先まで鎧でおおっている。二十キロから三十キロちかい重さを抱え込むことになるが、斬撃に強いという大きな利点を持つ。刃物で装甲の上っ面を斬りつけてもビクともしないのだ。


 不利な点は動きにくさ、そして打撃に弱いところ。武器は剣と限定されているので斬り合うではなく、たたきつけるように攻撃しないと通用しない。ディーバが力一杯剣を振り下ろせば、それだけで相手はよろけて尻をつくだろう。そうなればもう負けだ。ハンマーやメイスを持たせたディーバには誰も勝てない。まだ剣でよかった。


 大きな歓声で迎えられ、私は試合場に立った。開けたバイザーから対戦相手をしっかり確認し、たがいに剣を構える。枠内には主審が一人と副審が二人控え、開始間近の笛がなると辺りは静寂に包まれた。


「はじめっ!」と主審の号令が響いた。



 ◇



「お疲れさまでした。一回戦、二回戦共に大変凛々しい戦いぶりでしたよ」

「こんなにプレッシャーがかかる大会は初めてだ。決勝まで私の心臓が持つか心配になる」

「大丈夫ですよ」


 かぶとを脱いで腹いっぱいに空気を吸う。控え室はひんやりとしていて気持ちがよかった。次の試合までいくらか時間があるのでサムが甲斐がいしく世話を焼いてくれて、タオルだ水だはちみつレモンだととり出しては持ってくる。


「なあ、客席に赤毛の女性がいたか見えなかったか? いや別にマリアのことじゃないぞ」

「……わかりませんでしたね」

「そうか」


 一回戦は苦なく勝てた。相手は騎士ではなく、羽振りのよいどこか商家の息子のようで、ごてごてとした甲冑に思うように動くことができず、大きな動作で振り上げた隙に相手のふところをたたくと尻もちをついてくれた。これで一本。二本目は相手が一本をとられ動揺している間にもう一発入れてワザあり有効。たいした労なく勝ちを手にいれた。二回戦は騎士の先輩。実力はあるのになにかにつけてサボってばかりいる人だ。この日のために頑張ってきたんだと自分を奮い立たせ、すぐさま二本をとって試合終了させた。


 次の試合、おそらく当たるのは騎士隊の同期だ。以前食堂で難癖つけられていた時に横やりをいれたセルジオ・ソリアーノ。神経質そうな雰囲気の男だが、剣の筋はいい。身長は私の方がやや高いが、体格にそう差はないから単純に技量やパワーがある方が有利だろう。


「……そろそろ行ってくる。健闘を祈っててくれ」

「行ってらっしゃいませ」


 兜を再びかぶり、アリーナへ向かった。本日三度目となる試合はもう昼近くになる。相手は同期で体格もほぼ一緒。開けたバイザーからセルジオを見ると、彼は表情を変えずに淡々と言い放つ。


「お久しぶりですヴィンセント様。剣を振るうお姿も勇ましいですが、私も負けませんよ」

「よろしく頼む」


 視線がぶつかり、柄の握る手に力が入る。互いに剣をかまえると主審の号令が会場に響き渡った。

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