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親も国も人権も、全てを失った私たちが、ご主人様に救われるまで  作者: 平元桜央
役立たずの王女

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3/15

私を買った男


あの伝説のオークションの、翌日。


夕方に、私たちはオークション会場を出発した。


奴隷10人。


馬車に揺られて、私たちを買ったあの男のところへ。


「……」


馬車で揺られること数時間。


私は馬車の外を見た。


ここは平民街だ。


外はセシュリア国の国民たちの活気で溢れている。


どうして、貴族街ではないのだ?


私たちを大金叩いて買ったことから、彼は貴族のはずだ


平民に私たちを買うお金なんてない。


じゃあ、何故こんなところに……


「着いたぞ。降りろ」


馬車が止まり、私たちは降ろされる。

ここは、平民街の外れ。こんなところに、彼の家が……?


「……!」


 目の前にあったのは、平民街にあるにはとても不自然な大豪邸だった。


 視界いっぱいに広がる、巨大な屋敷。


 左右に広がる建物は、まるで小さな城を思わせるほどの規模を誇っていた。


 正面玄関へと続く石畳の道は長く、その両脇には丁寧に手入れされた庭園が広がっている。


 屋敷を囲むように植えられた木々は美しく整えられ、噴水からは絶え間なく水が流れ落ちていた。


ここが、あの男の屋敷……


「お待ちしておりました。皆様」


正面玄関の前でメイドが1人、待機していた。


彼女は私たち奴隷に対して、恭しく礼をする。


「私はこの館のメイド長を務めさせていただいております。どうぞ、お見知り置きを」


黒い髪を後ろに束ねた、二十代くらいの若い女性。顔は無表情で、何を考えているかわからない冷たさを感じた。


「どうぞ、此方へ。ご主人様がお待ちです」


メイドの手の方へ、私たちは歩く。


案内されたのは、パーティーなどに使用される大ホールだった。


テーブルなどは退かされ、カーペット以外何もない大ホールだった。


「ご主人様を呼んで参りますので、今しばらく、お待ちください」


メイドは私たちを残し、ホールを後にする。


部屋は、静寂に包まれていた。


しかし、徐々に少女たちの啜り泣く声が響く。


「ぅ……ひぐ……」


「私たち……これからどうなっちゃうの……」


泣いている子


絶望している子


ここで始まる生活がどんなものなのか、恐怖で仕方がないのだ。


「……」


できることなら、声をかけたかった。


彼女たちを元気づけられる言葉を。


でも、私がこの現状を作った元凶なのだ。


どんな綺麗事を私が言っても、この子達の心には何も響かないだろう。


私は、もう、王女でもなんでもないのだから。


扉が開いた。


全員の視線が、その扉に集まる。


そこから入ってきたのは、あのオークションで私たちを買った男だった。


「こ、こんにちはー」


……若い。


男は青年のような顔立ちをしていた。


少し長めの黒髪に、ただのTシャツとズボン。


害がなさそうな笑顔で、私たちの前に立つ。


「……」


オークションで見た通り、彼の瞳は、やはり普通の瞳だった。


我々のような超高級奴隷を全員購入したというのに、大物には、何故か見えなかった。


「えっと、はじめまして。僕はアイって言います。一応この屋敷の持ち主で、名義上は、君たちの主人ということになってるよ」


ピンと張り詰めた空気の中、彼は自己紹介を始める。


アイ……それが、彼の名前。


私たちにいったいどんな命令をしてくるのか。


恐怖で全員が下を向いて、彼の次の言葉を待っていた。


「いきなりここにきて、僕を怪しんでいる人や怖がっている人もいると思う。でも、僕から君たちを傷つけることはしないと約束するよ。だから、安心して欲しい」


「……ぇ」


誰かの、呆けた声が聞こえた。


「今日から、ここが君たちの家だ。みんなには、いろんなことがあったと思うけど、少しでも安らげられるように、自分の家だと思ってくつろいで欲しい」


「「「「「……」」」」」


そんなことを口にする彼の言葉を聞いて、私たちは顔を見合わせた。


驚き


困惑


疑問


そんな感情が、私たちの中を駆け巡る。


私たちは今、人権がないのだ。


人として見られないため、彼が私たちに何をしようと許されるのだ。


殴られようが、蹴られようが。


それ以上のことをされようが。


「……それって……ぁ……」


一瞬だけ、何人かの女の子たちの目が輝いたが、すぐさま我に帰って、首を振った。


そう、そんな言葉、信じられるわけがない。


我々を油断させようとしているのか?


希望を与えてから、そこからさらに絶望させようとしているのか?


とにかく、こんな甘い話があるわけない。


奴隷の私たちが、普通に生活できるなんて。


「と、とりあえず、みんな疲れたよね。お風呂に入っておいで」


誰1人信じていない。


そんな空気を感じ取ったのか、男は焦って再び声を発する。


「メイドの人たちを脱衣所や浴室に控えさせておくから、何かわからないこととか、困ったことがあったら聞いてね」


彼はメイドにアイコンタクトを送る。


「それでは皆様方。浴室はこちらです。どうぞお足元にお気をつけてついてきてください」


私は、メイド長に先導され、浴室へと向かった。


「……」


信じられるわけがない。


私の首に光っている首輪がついている限り。


この首輪に、あの男が念を込めるだけで、電流が流れる。


もしくは、私たちがあの男に危害を加えようとしたら。


今、彼は私たちの喉元に、ナイフを突きつけているのと同じだ。


そんな状態で、彼がいくら『安心して欲しい』『危害は加えない』なんて言っても信じられるわけがない。


私たちは、もう人間ではないのだ。


殴られても、殺されても、なにをされても。


法は私たちを守らない。


「……」


なら、せめて


私は目の前にいる、今着替えている子たちを見つめた。


この子達は、私が守らなければならない。


たとえ、私がどうなろうとも。


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