第74話 長崎旅行その5
稲佐山に向かう前に一旦ホテルに戻った。
夜景を見たいので、食事とシャワーを済ませてから行くことになった。
スーパーでちゃんぽん麺とスープ・具材を買って戻って来た。
静羽がキッチンで作ってくれる。
IHが1つしかないのに手際よく作っている。
静羽はすごいなあと感心した。
みんなでちゃんぽんを食べた後はシャワーを順番に。
なんとかお願いして僕が最初にと言ったが「女の子は髪乾かす時間があるから、隼人君は最後」と美明に有無を言わさず言われてしまった。
仕方ないのでまた僕が最後に。
遊理香が最初に入って出てきた。
ドライヤーで髪を乾かしながら、化粧水などを塗っている。
いい匂いが部屋中に広がる。
次いで美明が、静羽がシャワーを浴びた。
何層ものいい香りが重なる。
僕は変な気分になったが、なんとか我慢してシャワーを浴びる。
出てきたら美明が「さあ行くよ」って言った。
ちょっと待ってよ。
僕も髪乾かさせてよ。
稲佐山にはロープウェイで登る。
ロープウェイ乗り場まで行きチケットを買いロープウェイに乗る。
もう綺麗な景色だ。
ロープウェイが着くとそこから少し歩く。
幻想的な青い光が灯っている通路を歩いて、展望台を目指した。
展望台に着くと人が思ったよりも多かった。
しかし前にいた団体が一気に帰ったので、ちょうどいい位置が開いた。
4人でその場所へ行く。
手すりに寄って景色を見た途端に4人は声が出なかった。
対岸の山と港と街並み。
まばゆいばかりの光のその景色はしばらく忘れられないだろう。
4人は誰も言葉を発さず、ただその景色に見とれていた。
少し経つと、いつの間にか静羽が僕の隣に来ていた。
そして僕の手を握る。
静羽が背伸びをして、僕の耳元で「綺麗だね」と囁く。
僕も小声で「そうだね」と返す。
そして静羽が再び耳元で言う。
「隼人君が好き」
僕は静羽を見た。
暗がりだが頬を赤らめているのがわかる。
僕はどうしていいかわからなかった。
静羽になんて返せばいいのか。
僕も静羽のことは好きだ。
でも、それは“愛している”という感情なのだろうか。
僕はそのことをずっと考えてきた。
しかし未だに答えは出ない。
僕が答えられないでいると「返事は今じゃなくていいよ」と言って離れていった。
僕はこの綺麗な景色を見ずに考え込んだ。
しばらくして美明が「隼人君行くよ」と言った声で我にかえる。
そして気が付いたらホテルのソファーベッドにいた。
眠れない。
僕は静羽のことをずっと考えていた。
そこへ誰かが横に来た。
遊理香だ。
「どうした?」と僕が聞くと
「さっきからなんか変だよ」と言ってきた。
「なんでもないよ」
「嘘」
「ちょっと考え事をしていただけ」
「ふうん」
そういって僕の顔を見る。
「何?」
「別に。隼人がよければ、このまま間違い、起こしてもいいんだよ」
僕は遊理香を見る。
遊理香が真っすぐ僕を見ていた。
「ごめん。まだいろいろわからないんだ」
「私は別に急いでないから」
そう言った後、遊理香は自分のベッドに戻っていった。
静羽と遊理香が僕の頭の中を支配する。
僕はいったい、どちらに返事をすれば。




