第68話 3つのケーキ
放課後、部室にいくと、机の上に箱が置かれていた。
「なんだこれ」
隼人が覗き込むと、美明がぱっと顔を上げる。
「さっき写真部の人が持ってきてくれたんだよ!遊理香へのお礼だって」
「お礼?」
「ほら、この前のやつ。入選だったじゃん」
「あー、それか」
言われてみれば納得する。隼人は軽く頷いて、箱に手をかけた。
「じゃあ開けるぞ」
パカッ、と蓋を開く。
中には綺麗に並んだケーキが――三つ。
ショートケーキ、レアチーズケーキ、プリンアラモード。
「……」
「……」
「……」
4人分の沈黙が、同時に落ちた。
最初に口を開いたのは隼人だった。
「少なくない?」
「だよね」美明があっさり同意する。
静羽は箱の中をもう一度確認して、静かに言った。
「どう見ても3つですね」
「4人いるんだけど」
誰も否定しない。
美明は腕を組んだまま、しばらくケーキを見つめていたが、やがて当然のように言った「どう分ける?」
「いやそれを今から考えるんだろ」隼人がすぐに返す。
美明が手を挙げる。
「じゃんけんでよくない?」
「よくない」
「なんで!?」
「絶対あとで空気悪くなるだろ」
「あー……それはあるかも」
納得するな、と隼人は内心で思う。
静羽が控えめに口を開いた。
「4等分にする、とか?」
「どうやって」
即答だった。
「いや、この3つを?」
静羽も言いながら難しさに気づいたのか、少しだけ首を傾げる。
そのとき、遊理香が軽く手を叩いた。
「はい、決めた」
「なにが」
「これ、私のお礼でもらったやつだから、私に優先権あるよね?」
「まあ、それは……」
隼人が思わず呟く。
だが、誰も反論しない。
できない、が正しい。
「……まあ、そうだけど」
「じゃあ遊理香、どれにするの?」
美明が聞くと、遊理香は嬉しそうに箱を覗き込んだ。
「んー……」
少し考えてから、あっさり言う。
「プリンアラモード」
「一番強いやついったな」
「いいじゃん主役だし」
そう言って、遊理香は迷いなくそれを取り、自分の席に戻る。
すでに勝者の顔である。
残されたのは、ショートケーキとレアチーズケーキ。
そして3人。
「……で?」
隼人が2人を見る。
美明と静羽も同時にケーキを見る。
「3等分?」
「無理だろ」
またしても即答。
美明がうーんと唸りながら言う。
「じゃあさ、ショートケーキとレアチーズケーキ、それぞれ半分にして――」
「4つにしてどうすんだよ」
「1個余るね」
静羽が冷静に補足する。
「……じゃあ余ったやつは隼人で」
「なんでだよ」
「なんとなく」
「理由が雑すぎる」
会話が迷走し始める。
その横で、遊理香がスプーンを入れた。
「ねえこれめっちゃ美味しい」
「そりゃそうだろ!」
3人が同時にツッコむ。
当人は全く気にしていない。
美明がふと顔を上げた。
「あ、いいこと思いついた」
「嫌な予感しかしない」
「ショートケーキとレアチーズケーキと、苺とクランベリーで3等分!」
「等分じゃねえよ!」隼人のツッコむ。
静羽も小さく頷く。
「配分がおかしいね」
「えー、バランス取れてない?」
「取れてない」
即終了。
しばらくして、僕が言った。
「いっそ、全部細かくして混ぜれば均一にはなる」
「それケーキ?」と美明
「概念としてはケーキ」
「概念で食うな」と美明がツッコむ。
完全に方向がおかしい。
沈黙が戻る。
誰も決定打を出せない。
そのとき、静羽がぱっと顔を上げた。
「あ」
「なに」
「全部3等分にすればよくないですか?」
「……どういうことだ?」
「ショートケーキもレアチーズケーキも、それぞれ3等分にするの。そしたら6個になるでしょ?」
「うん」
静羽が頷く。
「で、2個ずつ取れば平等!」
一瞬、全員の思考が止まる。
やがて。
「……天才か?」
「それだね」
「なんで今まで出なかった」
一斉に賛同が集まる。
「普通に考えればそうですよね?」と静羽
「まあ、それなら文句はないな」
さっそく作業開始。
「ちょっと待って、そこ斜めになってる!」
「いやレアチーズケーキ柔らかいって!」
「崩れてる崩れてる」
わちゃわちゃしながらも、なんとか6等分にされる。
見た目は若干悲惨だが、量としては平等だ。
「……まあ、いいか」
「味は同じだしね」
それぞれ2つずつ取り、ようやく落ち着く。
隼人も一口食べて、息をついた。
「長かったな……」
そのとき。
ガラッ、とドアが開いた。
「ごめんごめん!」
写真部の部員が顔を出す。
嫌な予感がした。
「ケーキ、1個入れ忘れてました!」
そう言って差し出された箱。
中には、モンブランが。
4人、固まる。
沈黙。
さっきまでの苦労が、無言で共有される。
遊理香がゆっくり顔を上げた。
「……ねえ」
誰もが次の言葉を予想できた。
「これ、どうする?」
隼人は天井を仰いだ。
「……最初からやり直しかよ」
美明はすでに身を乗り出している。
静羽は静かにケーキを見つめている。
そして。
「じゃあ、今度こそじゃんけん?」
「だからやめろって!」
再び、議論が始まった。
今度はさっきより、少しだけ本気で。




