第66話 美明の映画鑑賞
年末、美明がふらりと映画館に向かった。
たまには1人で映画を観るのも悪くないと思ったからだ。
映画館に着くと、上映作品をざっと見ていく。
恋愛ものかスカッとするアクションものか、ミステリーものか。
迷った挙句に今話題の海外ミステリーに決めた。
上映開始30分ちょっと前だ。
急いでチケットを買いに行く。
席は真ん中だけど、やや後方だ。
人気作だし仕方がないと思った。
さっそく入ろうとするとスタッフに止められた。
まだ入場開始になっていないらしい。
20分前になってやっと入場開始。
さっそく自分の席に座る。
まだ両隣は来ていない。
やや後ろの席の方が、画面をかえって見やすくて良かったと思った。
後は始まるのを待つだけだ。
背もたれに寄りかかり、両手をひじ掛けに置く。
しばらくすると、両隣の人たちが来た。
バッグを足元に寄せ、手を膝の上に置いた時に場内が暗くなった。
上映開始だ。
どうやら田舎町での事件らしい。
主人公が事件に巻き込まれ、探偵に依頼し一緒に捜査をする。
途中で右手をひじ掛けに置こうとした。
右隣の人の手とぶつかった。
あれ?左側のひじ掛けが自分用なのか。
ではと、左手をひじ掛けに……
今度は左側の人の手とぶつかった。
どういうこと?
どっちが自分のひじ掛け?
ちょうど犯人の核心に迫るシーンだったが、それどころではなかった。
美明は両側のひじ掛けを取られて納得がいかなかった。
映画が終わった。
しかし美明の気分はすっきりしない。
いったいひじ掛けはどうなっているの。
家に帰ると隼人君に連絡した。
「美明映画観に行ったんだ」
「うん。今話題の海外ミステリーのやつをね」
「僕も行きたかったなあ」
「誘えばよかったね。ごめん。それでさ、映画館で座席にひじ掛けがあるでしょ。あれ、どっちが自分のなんだろ」
「あれね。決まってないらしいよ」
「なんで決まってないの?どっちが自分のか決めてよ」
「まあ。そうなるよね。ところであの映画トリックがすごいって話だけど、どんなトリックだったの?」
「それが、ひじ掛け争いに夢中で映画をあまり観ていなかったんだ」




