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Scene47, -阿観世代沙紀-


「うちのこの体を見たのは」

「この学園ではきさんが2人目じゃ。」


番長さんの言葉にぼくが返す。


「・・という事は。」

「もう一人は、会長さん?」


番長さんはこくりとうなずく。


「うちはな。」

「小さい頃に親に虐待されておったんよ。」


「ありとあらゆる暴力を受け。」

「殴られ、切り付けられ。」

「ヤケドを負わされ。」

「まあ。そんなもんは過去の話じゃ。」


「でもなあ。」

「小さいなりにやはり親には愛されていると信じたかったんじゃろうな。」

「どんなにひどい暴力を受けても。」

「うちは親を慕い。信じ。付き従い。」

「それがうちの生き方じゃった。」

「あのままいけばいつか親に殺されておったかもなあ。」


「それがわかったのは。」

「実際にその日が訪れたからじゃ。」


「ある日ひどい親の折檻で」

「うちはもう指1本動かせないほどの重体になってのう。」

「意識も朦朧とし死にかけた事があるんじゃ。」


「そんなうちを見て」

「親はうちを死なせてしまったと勘違いしたんじゃろうな。」


「親はうちを車に乗せ」

「どこか遥か遠くにうちを捨ておったんじゃ。」

「さすがにあれはうちも死ぬと思ったぞ。」


「次に目を覚ましたのは見知らぬ男の家じゃった。」


「その家ではな。」

「暖かい飯を食い。暖かい布団で眠れる。」

「それまでに経験した事のない幸せを山ほどちょうだいしたものじゃ。」


「・・その男の目的が」

「幼いながらも女じゃったうちの体じゃという事は」

「すぐに理解する事になったがの。」


「それでもうちは幸せじゃった。」

「愛されてると思える生活じゃった。」


「でもな。」

「うちを愛し飽きたその男は」

「簡単にうちを捨てて消えおった。」


「・・それからはまた天涯孤独の生活。」


「そうなると、うちも思ったもんじゃがのう。」

「あの幸せな生活をうちは忘れられなんだった。」


「それからのうちは」

「数知れぬ見知らぬ男の家に転がり込んでは」

「愛され。時には暴力をふるわれ。」

「そうして生きてきた。」

「暴力ちうても親の折檻に比べれば生易しいものじゃったからのう。」


「そしてある日うちが魔人に覚醒し。」

「この学園に拾われ寮住まいになる事で」

「うちのそんな生活は終わりを迎えた訳じゃ。」


番長さんの話は重く。悲痛なものだ。

今さっき大切な人を失い、心の空虚なぼくにも

番長さんの痛みが伝わってくる。


そんなぼくの表情を見て番長さんがフフフと笑う。


「きさんがそんな泣きそうな顔をする事あるまいよ。」


「・・・ド正義も。」

「今のきさんのような顔をしとったのう。」


番長さんが空を見上げる。


「男の家を転々としてた頃にな。」


「一人だけ。」

「自分の生活を捨ててまでうちを愛そうとしてくれた男がおったんじゃ。」


「うちの過去を全部知りながらな。」

「今の生活を捨て。家族を捨ててでも。」

「うちと一緒になりたい。」

「そう言ってくれた男がいた。」


「うちは嬉しかった。」

「その言葉に。幸せな気持ちをもらえたもんじゃ。」


「でもな。」

「その時うちは気付いてしまったんじゃよ。」

「うちに人に愛される資格なんぞあるのかと。」


「人の人生を、うちなんぞのために壊して許されるのかと。」

「こんなにも、うちを愛してくれたこの男を。」

「うちは不幸にするんじゃなかろうかとな。」


「そう気付いた時。うちは魔人になったのじゃ。」

「そして使った。うちの魔人能力【最良の終幕(トゥルーエンド)】。」

「うちの事を。嫌いになってもらう能力じゃ。」


「あの時も。」

「ド正義のやつにうちの身の上を聞かせた時も」

「やつはうちの過去に同情し。思い悩み。苦しそうな顔をしとった。」

「その時に思い出したんじゃよ。」


「うちには愛される資格なんぞない。」

「それなのにまた愛を求めてしもうた。」

「うちはまことバカな女じゃとな。」


「じゃから使った。【最良の終幕(トゥルーエンド)】をな。」

「うちの事を嫌い。忘れて。」

「幸せになってほしい。そんな気持ちでな。」


番長さんの目にうっすらと涙が浮かぶ。


「そして。」

「うちはやつに刺されたんじゃ。」


「やつはうちに言いおったよ。」

「この汚らわしい女め。」

「なんの目的で自分に言い寄って来たのかと。」

「卑しい女じゃと吐き捨ておった。」


「このままではやつに殺されると思ったうちは。」

「すぐに能力を解除しことなきを得た。」

「やつはうちの能力に惑わされていた時の事を覚えていなんだようじゃったがのう。」


番長さんの目から涙がこぼれ落ちる。


「じゃがな。」

「うちはド正義を恨んでなぞおらんよ。」

「どうやらうちも、やつのトラウマを」

「いたずらにほじくり返してしまったようじゃてな。」


「それに。」

「過去にうちを拾い。愛してきた男ども。」

「きゃつらの事も恨んでなんぞおらん。」


「どんなに暴力を振るわれようとも。」

「うちを拾い。生かしてくれた事も事実。」


「あの時、捨てられていたうちを見捨て。」

「存在を無視されておれば、うちはとうに死んでおったじゃろう。」


「うちは愛されてきた。」

「愛されてきたからこそ生きてこれた。」


「人は・・・」

「愛される事こそが幸せじゃと・・・」


「うちは!そう信じなければ生きていけんかったんじゃ・・・!!」


いつの間にか、番長さんの目からは大粒の涙がボロボロとこぼれていた。

声を殺し。止まらない涙をぬぐいもせず。


なんでだろう。

愛玩式さんを、大切な人を失ったばかりのぼくの心は

そんな番長さんを見て・・。


番長さんはハハッと笑い

ぼくに顔を向けた。


「すまんな!最期の時が。」

「よもやこんな汚らわしい女と2人きりなぞ」

「お前もさぞ・・・」


その言葉を遮るように。

ぼくは番長さんの唇に自分の唇を重ねていた。


番長さんは、一瞬目を見開き体を強張らせ。


急いで顔を離し立ち上がった。


「な!ななな何をする!!!」

「うちに同情しとるのか!!?憐れんどるのか!!!??」

「からかっているようなら、ただではすまんぞ!!!!!」


顔を真っ赤にして慌てふためく番長さん。


ぼくはそんな番長さんを見て。


「そんなんじゃ・・ないです。」

「ただ。番長さんの話を聞いて。」

「今の番長さんを見て・・」

「かわいいなと、思えてしまって。」


ぼくの言葉に、なっ!!?とさらに顔を真っ赤にする番長さん。


「きさんは何を聞いとったんじゃ!!?」

「うちは!!汚れ!体中も傷だらけで!」

「男どもを不幸にしてきて!」

「それから!ええっと・・・それから・・!」


パニックになっている番長さんに、ぼくは続ける。


「そんなの関係ないですよ。」


「どんなに、傷付いていても。」

「自分が汚れていると、そう思ってたとしても。」

「強くても、でも本当は弱くても。」

「どんな人生を生きてきたとしても。」


「女の子は、女の子ですから。」


番長さんは、真っ赤な顔のまま再び目に涙を浮かべた。


「それに。女の子を守りたい。」

「幸せにしたいって思うのが男です。」


「どんな女の子にも、幸せになる権利があるし。」

「どんな男にも、女の子に幸せになってもらいたいと思う権利がある。」


「ぼくは。そんな風に思うんです。」


ぼくの言葉に、むうっと声をもらし黙る番長さん。

ドカリとぼくの横に座り直す。


「きさん・・自分が何を言っとるのかわかっとるのか?」


ぼくは黙って番長さんの顔を見る。

涙ぐんでいる番長さん。


「男なら・・責任・・取るんじゃぞ・・。」


そう言いながら、目を閉じ顔を近づけてくる。


ぼくは。

ふたたび彼女に口付けた。


----------------------------------------


その時。

ぼく達から遠く離れた場所。


生徒会経理【無限録有数(ムゲンロクアリス)】の死体が横たわる生徒会室で

1台のパソコンが自動的に起動を再開しだした。


青く光るモニターの中で無数に並ぶ1の数字。

最後に。唯一残っていたたったひとつの0の数字が、1へと置き換わる。


それと時を同じくして。

ぼくたちの頭上、時計塔に掲げられていた電光掲示板が。


カチリという音と共に「551/551」の数を示した。



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