Scene44, -世界を嫌う者-
番長さんが叫ぶ。
「坂井!!」
ぼくは左肩に湧き上がった熱と
爆発の衝撃で体を吹き飛ばされ
大きく転んでしまった。
ぼくの左肩がボウボウと燃える。
初めこその衝撃でぼくはパニクってしまったけど
・・気付けば。
ぼくの肩の熱はすぐに引いていて。
今は痛みも熱さもない。
ハッと気付きぼくは愛玩式さんを見る。
愛玩式さんは・・
必死な顔で両手の手のひらをぼくに差し伸ばしていた。
これは、愛玩式さんの能力・・?
ナナトはにらみ合っていた番長さんから目を離し
ぼくと愛玩式さんの方を体を向け冷たく見降ろした。
「とうとう。自身を守る鳥籠から出たか。愛くん。」
「その男を守るために・・。」
「ぼくが・・・」
「あれほど優しく説き伏せていたのをずっと拒否していたのに。」
「どんな命令にも従うお前が!」
「どうしても従わなかった唯一の命令!!」
「その男のためならできるというのか・・!!!」
「自分の鳥籠をその男のために使うなら!」
「お前は死んでもかまわないという事だな!愛玩式!!!」
愛玩式さんは、ナナトの言葉に身を震わせながらも
ぼくへ伸ばした手を退かない。
「お前なんか・・!」
ナナトが愛玩式さんに向けて叫ぶ。
「キライ・・!!!」
その言葉を遮るように番長さんがナナトへ飛び掛かった。
番長さんの拳を受け
グゥっと言葉をもらすナナト。
番長さんはそのままナナトに馬乗りになる。
「ようやく・・きさんに拳が届いたわい。」
「きさんの!!度重なる外道な行い!!」
「きさんの手で散らされて行った大勢の命たち!!」
「うちは!断じて!断じて!!!」
「きさまを許す事ができん!!!」
番長さんの語気がだんだん強くなっていく。
そんな番長さんの怒気を意に介さずナナトはヘラヘラと笑う。
「キライだ。」
ゴゥン!!と番長さんの目の前で爆風が起こるが
番長さんもまた。
顔を焦がし血をにじませながらもナナトを睨みつけ。
勢いよく拳を振り上げる。
「きさんにどんな信念があろうとも!!」
「どんな過去を生きどんな悲劇を背負っていたとしても!!!」
「うちは!きさんだけは許せん!許せんぞ!!!」
番長さんの拳がまたナナトを打つ。
ぼくは、愛玩式さんの元へ駆けつけ。
抱き起こしながらも2人の様子を見守る事しかできなかった。
番長さんに殴りつけられたナナトが鼻血を流しながら言う。
「俺の信念・・?過去?悲劇?」
ナナトは冷たい表情でフフッと笑う。
「・・ないんだよ。そんなもの。」
ナナトの言葉に番長さんがピクリと眉を動かす。
「ないんだよぼくには。」
「つらい生い立ちも。悲しい過去も。」
「なにもない。ただ、誰からも愛されなかっただけだ。」
「・・お前らにこそ、想像すらできないんだろうな。」
「過去への後悔も。信念の元になるような悲劇も。」
「楽しい思い出も。幸せな記憶もない人生。」
「これまでの人生。なにもなかった。」
「だから、未来への希望もない。」
「やりたい事も。将来の目標を見つけるような出来事も。」
「やりたかったけどできなかった取り戻したい過去もない。」
「過去もない。未来もない。」
「だから。今を生きている意味も価値も見い出せない。」
「そんな絶望・・お前らわかんねえだろ??」
ナナトの言葉に。
番長も、ぼくたちも返す言葉が見つからなかった。
何もない人生への絶望。
たしかに。
想像する事すらなかった。
深い。深すぎる絶望だ。
ナナトは続ける。
「悲しい過去すら持たないぼくはな。」
「誰かを憎む事すらできない。」
「世界を恨む資格すらないんだよ。」
「ただ、誰からも愛されず。」
「幸せも不幸も感じる事もできず。」
「なにもない人生を生き。なにもない人生で死んでいくしかない。」
「だからなあ。」
「ぼくは。」
「ぼくは・・!!」
「お前らも世界も!!」
「全部大っキライなんだよぉぉぉ!!!!」
この場のすべてを覆いつくすような大爆発。
音すらも感じない。
光と熱に包まれていく世界。
ぼくは咄嗟に愛玩式さんを体で包み込み守った。
ドォォォォォン!!!という激しい音が後から追いついてくる。
爆煙と爆風で何も見えない。
ぼくは必死で愛玩式さんを抱きしめる。
爆風からは守る事が出来たが
爆煙の熱で愛玩式さんは苦悶の表情を浮かべ
ゲホゲホとせき込む。
もうろうとしながらも、手をぼくに添えて
鳥籠の能力でぼくを守ってくれていた。
爆煙が少しずつ薄らいでいき。
そのに現れたのは、倒れ込む番長さんと
体中にヤケドを追いながら立つナナト。
ナナトが涙をボロボロとこぼしながら叫ぶ。
「悲しい生い立ちだ!??」
「裏切りだ!?愛する者の死だぁ!???」
「どいつもこいつも”人生”しやがって!!!」
「キライだ!!」
「どいつもこいつも!!!」
「キライだ!」
「キライだ!!!」
「だいっっっキライだぁぁぁぁぁ!!!!」
ナナトが叫ぶたびに
学園内のそこかしこ。縦横無尽に爆発が起こる。
これまでのナナトからは想像もつかない号泣。
こぼれる涙も拭わず悲痛の表情で叫ぶナナト。
こんなにも深い絶望を。
彼を救う言葉を。
ぼくは、なにひとつ思い浮かべる事ができなかった。




