Scene43, -愛玩式とナナト-
それまでの喧騒が嘘のように静まり返った学園内。
辺りはすっかり暗くなり
帰宅を促す定時アナウンスの優しい声が響いてくる。
「学園内に残る生徒は」
「速やかに下校しましょう。」
そのアナウンスの声を背中に聞きながら。
ナナトは愛玩式を腕に抱きかかえ
静かに歩いていた。
慈正心学園の名物である時計塔の下を通る時。
彼はふとその上部を見上げる。
大時計の下に取り付けられた
ギラギラと光る電光掲示板。
全校生徒の恋人達成率「550/551」の表示が
今ではとても空虚で皮肉なものに見える。
ナナトは冷たい目でそれを見つめていた。
ん・・と小さな声を上げて愛玩式が目覚める。
ナナトは寝ぼけた様子で目をこする彼女を降ろし
冷たい目で彼女を見ながら言った。
「お目覚めかい。愛くん。」
「・・君が寝てる間に。ダンゲロスはもう終わったよ。」
ナナトのその言葉に
驚いたように目を見開き彼を見上げる愛玩式。
ナナトが続ける。
「ぼくが期待していた終わり方ではなかったが。」
「この学園はもう終わりだ。」
「それにぼくたち転校生の結束も。」
「結局無為に終わった。」
「・・また。いちから仕切り直しだな。」
ナナトの言葉には答えず。愛玩式は叫んだ。
「さ、坂井くんは!?」
「坂井くんは・・ぶ、無事なんですか??」
その言葉にナナトは少しだけ眉をひそめる。
「・・どうかな。」
「いずれにしろ。」
「この場所でぼくたちのできる事はすべて終わった。」
「ぼくはこの学園を出る。」
「ぼくの意志を真に理解できる味方を集めて。」
「この世界を終わらせるためにもう一度戦争を起こすんだ。」
「今度は、世界を相手にね。」
ナナトが愛玩式に手を差し伸ばす。
「愛くん。」
「君も一緒に来るんだ。」
「ぼくの真の目的を果たすために。」
「君の力が必要なんだ。」
まっすぐに愛玩式を見つめるナナト。
愛玩式は・・
そんな彼から目を反らし。答える。
「わ、わたしは。」
「ナナトさんとは、い、行けません。」
その言葉に衝撃を受けるナナト。
「・・・拒否、したのか?君は・・今・・。」
愛玩式はナナトの強い視線に
怯えた表情を浮かべながらも
小さくこくりとうなづいて見せる。
「そう答えるよう、坂井のやつに指示されているのか?」
「それとも・・」
「それは、お前の意志なのか・・?」
愛玩式は。
ナナトの目を正面からにらみつけ答える。
「わ、私の意志です!!」
「私は、さ、坂井くんと一緒に」
「この学校で、い、生きるって!」
「決めたんです!!」
ハアハアと息をきらす愛玩式。
ナナトはそんな彼女に差し伸ばした手を引っ込め
冷たく見降ろした。
「決めた。か。」
「お前が。自分の意志で。」
「何も決められなかったお前が。」
「俺の命令に何でも従っていた従順なお前が。」
「自分の意志でぼくを裏切るのか。」
「・・・」
「もう。お前の利用価値はなくなった。」
「ぼくを拒絶するお前なんていらない。」
「お前なんて・・」
「キライだ。」
愛玩式の目の前でボウン!と爆発が起きる。
キャッと小さな悲鳴を上げて愛玩式が倒れる。
愛玩式の魔人能力【鳥籠の中の躯】で彼女自身にケガはないが
自分をするどくにらみつけるナナトの視線に
愛玩式は小さく震え彼を睨み返した。
ナナトが静かに続ける。
「・・あの坂井という男。」
「まだ生きていたよ。」
「これまでの彼の言動を見るに」
「あいつが魔人ではないただの人間だというのは事実なのだろう。」
「取るに足らない虫けらのような存在。」
「そう思い、ぼくはあいつを相手にせず」
「このまま君とこの学園を去るつもりだったよ。」
「・・だが気が変わった。」
「君をそんな風に変えてしまった、あの坂井という男。」
「彼を殺してから帰ろう。」
愛玩式の体がビクリと跳ね、顔が青ざめる。
そんな彼女の顔を覗き込みナナトが訊ねる。
「なあ。愛くん。」
「ぼくはこれから、あの坂井くんを殺すよ。」
「そんなぼくの事。」
「君も。キライになったかな??」
愛玩式は。何も答えずにナナトとにらみ合った。
そこに駆けつける2人の姿。
番長阿観世代と坂井が、ナナトに追いついた。
「ナナトォォォォ!!!」
番長の声が響く。
ナナトは何も言わずに静かに2人へ向き返す。
どちらも次の言葉を発さない。
静かな空間に、ハアハアという番長と坂井の息遣いだけが聞こえる。
最初に声を出したのは愛玩式だった。
「坂井くん!!」
坂井はナナトをにらみつけ警戒したまま。
息を飲み込み愛玩式の元へ駆け出した。
そんな坂井を目にくれず
ナナトは番長を睨みながら言葉を放った。
「・・キライだ。」
咄嗟に身構える番長。
だが、その矛先は番長ではなかった。
ナナトの言葉で
走る坂井の左肩が熱く膨れ上がり。
ドォォン!という爆発音と共に
坂井は体から
激しい炎と爆煙を立ち上らせ倒れた。




