Scene42, -乱闘の終わり-
各々がそれぞれに
自分の意志を貫き己の思想を貫くため
目の前の敵と対峙する。
あるところではまさに死闘が始まり
またあるところではすでに決着が訪れる。
そんな最中。
すべてを吹きとなすそれは起きた。
ドゴォォォォン!!という爆発の音。
爆風。熱。そして巻き起こる悲鳴。
そしてまた爆発。
その爆発がだんだんと体育館へと近付いていく。
その音は、もちろん目をつぶり横たわる路傍の耳にもとどいていた。
やがて路傍の頭上で男の声がかけられる。
「・・雪菜くん。君はなにをしているんだ?」
男の声に路傍はゆっくりと目を開く。
「・・ナナトさん。ごめんなさい。」
彼女のごめんなさいの言葉にナナトは眉をひそめる。
「・・お前もまた。こやつにほだされたか。」
路傍は再び目をつぶり答える。
「ナナトさん。世界をうらみ世界を滅ぼすナナトさんの計画。」
「私はもうご一緒できないかもしれません。」
「・・もしかしたら。」
「ほかにもっと方法があったのかもしれない。」
「私たちが・・」
「ナナトさんが幸せになる方法。」
「そんな風に思えちゃったんです。」
「・・ごめんなさい。」
ナナトは静かに答える。
「そうか。わかったよ。」
「やはり。」
「お前たちではぼくの計画の足手まといになるだけだという事がな。」
路傍は何も言わない。
「もとより。」
「初めから。」
「ぼくは、お前ら転校生共が・・」
「大っっキライだった!!」
その言葉と共に
ドゴォォォン!!と大きな音を立てて
路傍の頭が破裂する。
架神が抱き締めるその腕の下で。
力なく横たわる路傍の体が血の海に沈んで行った。
ナナト何も言わず振り返り。
足早に体育館へと向かっていく。
ナナトの行く先々で
大小さまざまな爆発が起こり、その度に悲鳴が上がっていく。
そして。
体育館の襲撃。
体育館の屋根めがけて
ひときわ大きな爆発が数度起き。
体育館は完全にガレキの山へと化していく。
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あれほど騒がしかった校内の喧騒は嘘のように静まり返り。
人の声のいっさいがなくなっていた。
空はすっかり暗くなり
明かりもないままナナトが一人。
ガレキを足で蹴飛ばしながらより分けていく。
やがてガレキの下から姿を現したのは・・
ボロボロになった賽仰寺の背中だった。
ナナトが彼女の背中を乱暴につかみ
強く引っ張ると
その下からは眠っているかのように横たわる
無傷の愛玩式が現れる。
ナナトは愛玩式を抱き上げると
何も言わずにその場から立ち去ろうとする。
しかし。
その時、ナナトの足を何者かの手がつかんだ。
それは・・賽仰寺の腕だった。
ううぅと小さなうめき声を上げ
なおも愛玩式を守ろうとする彼女の背中を
ナナトは何も言わずに見降ろし。
体を賽仰寺に向け口を開こうとした。
その時。
少し離れた場所でガラガラとガレキが音を立てて崩れていく。
ガレキの下から番長、阿観世代が這い出し
ハアハアと息をきらしナナトを睨みつける。
番長の両手には一人ずつ。
人の腕が握られている。
その一人。
坂井がゲホゲホとせき込みながら目を覚ました。
そしてもう片方の手に握られているのは・・
体育館で番長たちを待ち受けていたあの男だ。
男は番長に腕を引っ張られてガレキから救出されるが
身動き一つなく。
生きているのか死んでいるのかわからない。
番長が。
ハアハアと切らしていた息を抑えナナトに問いかける。
「きさん・・。」
「おどれの身内さえも道連れの爆発とはやってくれるのお。」
「いったいどういう腹づもりじゃ??」
ナナトが静かに答える。
「・・ああ。その男か。」
「たしか【義正心優】・・と言ったかな。」
「架神や賽仰寺の情報の中にも、彼の情報はなかっただろ?」
「彼は、普段誰とも言葉を交わさなかったからな。」
「でも。ぼくにはよく話を聞かせてくれたよ。」
「この世のすべての事柄には必ず勝者と敗者がいる。」
「だれかが得れば誰かが失う。」
「誰かが幸せになれば必ず不幸な誰かがいる。だったかな。」
「彼は名も知らぬ誰かを敗者にする事が耐えられないと言っていてね。」
「だからいつも自ら敗者になる事を選んで生きてきたらしい。」
「自分が敗者になる事で、どこかで名も知らぬ誰かが勝者になっている事。」
「それが彼の考える幸せだったそうだ。」
「・・・どうだ。みじめな男だろう。」
「彼は大儀のあるぼくに付き従い」
「ぼくの目的を叶える事に尽くしてくれた。」
「正直。ぼくにとってもとても都合の良い男だった。」
「だからぼくは。」
「魔人でもないただの人間のこいつをぼくたちの仲間として迎え入れてやったのさ。」
ナナトの言葉に番長が返す。
「・・やはり。そうであったか。」
「ただの人間。そんな者までおどれに付き従わせ。」
「そして最後は自滅覚悟の囮役までさせるとは・・」
「とことん腐ったやつじゃの。きさんは・・。」
番長の言葉には反応せず、ナナトは続けた。
「義正心優・・」
「俺はな。ずっとこいつの考え方が・・」
「キライだったよ。」
ナナトの言葉と共に
ドゴォォォンと義正心の体が爆発し
番長がにぎる彼の腕が血に包まれていった。
ナナトは続ける。
「そしてこいつ。賽仰寺。」
「こいつはぼくは勧誘した愛くんのおまけとしてついてきた女だ。」
「ぼくたちの目的。世界の滅亡になんて興味を示さず」
「いつも愛くんに付きまとう目障りな女だったよ。」
「キライだ。」
その言葉で賽仰寺の背中で爆発が起きる。
うあぁぁ!という賽仰寺の絞り出すような悲鳴が響く。
「こいつらだけじゃない。」
「ぼくが集めた転校生たち。」
「どいつもこいつも。」
「やつらの存在そのものにぼくはイラだっていた。」
「どいつもこいつも結局は」
「あわよくば幸せになりたい。人から愛されたい。」
「そんな考えが見え隠れする似非どもばかりだった。」
「あいつらまとめて」
「だいっっっキライだったよ!」
校庭の方で大きな爆発音が響く。
小さな悲鳴がかすかに聞こえた気がするが
その声はごく少数のもののように聞こえたのは
爆発音の大きさのせいか。それとも・・。
ナナトの足を掴んでいた賽仰寺の腕はするりと簡単に抜け
ナナトは再びこの場を立ち去ろうとし始めた。
番長が叫ぶ。
「待てナナトォォォ!!!」
「この戦で大勢が死んだ!!!」
「きさんの仲間たちも!!」
「うちの仲間も!!生徒会の者どもも!!!」
「会長も!!ド正義も死んだ!!」
「きさまだけが生きて去るつもりかぁぁ!!!」
ナナトは少し足を止めたが・・
ふたたび歩き出す。
「もう日も暮れた。」
「ダンゲロスも・・この学校ももう終わりだ。」
「ぼくは帰らせてもらうよ。」
ナナトの言葉に、番長はのどがちぎれんばかりに叫ぶ。
「きさん!!!」
「そうして何もかもを嫌って!!!」
「世界をも恨んで!!!」
「この学園だけじゃあきたらず世界をも滅ぼすとのたまう!!!」
「きさんはいったい何様のつもりじゃあぁぁ!!!」
その言葉に、ナナトは少しだけこちらを振り返って答えた。
「・・何様かって?」
「そうだなあ・・・。」
「この世界で。」
「最も、”世界を滅ぼす資格のない人間”・・ってとこかな。」
そう言葉を残し。
ナナトはゆっくりと歩いていく。
番長はハアハアと息をきらしながらも。
やつの背中を見送る事しかできなかった。
坂井はようやく咳込むのが治まり
体を引きずるように賽仰寺の元へと駆け寄った。
賽仰寺は・・
背中からおびただしい血を溢れさせ倒れている。
番長が賽仰寺の体を抱き起すと
かすかに彼女の目が開いた。
ゲホゲホと咳込む賽仰寺の口から血があふれ出す。
「番長さん・・坂井・・・。」
「あたしの事はいいから・・。」
「愛ちゃんを・・・助けて・・・。」
「やつを・・・追って・・・。」
明らかに顔色は真っ白で、彼女の命が危ういことは一目でわかった。
それでも。
それでもぼくたちは、彼女の言葉にウンウンとうなずくしかなかった。
「やつとの決着をつけたら。すぐに戻って来るからの。」
「賽仰寺。気をしっかり持つんじゃぞ・・。」
番長がそんな言葉をかけるけど。
彼女の身がそれまで持つとはとうてい思えない。
賽仰寺は。
いつもの調子良い笑顔でヘラヘラと笑ってみせてくれた。
そんな彼女を芝生の上に横たわらせ
ぼく達はナナトの後を追って、痛む体を引きずり走って行った。
(もう・・声も出せないや・・。)
(あたしの人生・・こんなところで終わりか・・・。)
賽仰寺が。
彼女が薄れゆく意識の中で思い浮かべたものは
幼い自分に目もくれず、嬉々として金を数える両親の背中だった。
(・・・一度でいいから。)
(一度でいいから・・愛されて・・みたかったな・・・。)
目をつぶる賽仰寺の目から一筋の涙が流れ落ちる。
そして次に彼女が思い浮かべたのは。
自分の代わりに、あの恐ろしい敵に立ち向かっていった架神の顔だった。
(・・そういえば。)
(架神に・・礼をするって言ってたっけ・・。)
賽仰寺が、涙を流しながらフッと笑いをこぼす。
(坂井に・・・伝言頼んどきゃ良かったな・・・。)
(架神に・・・あたしの死体にキスくらいなら・・・許す・・って・・・。)
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ダンゲロス終幕後の最後の乱戦。
死傷者数知れず。
死者数不明。
そして。
【転校生 賽仰寺円 死亡】




